リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

口ばかりのリプロはもういい 具体策を!

日本の避妊ピル事情&ミニピルのこと

避妊ピルのことを調べていたら、ちょっと古いけど興味深いサイトを見つけました。海外から日本に来た方が、「日本でサバイブする方法」の一環として、日本のピル状況をまとめたものです。こうやって見ると、本当に日本は「ないもの」だらけ。いやになる。

ここでミニピルの話が出ていたのでちょっと調べてみたらMAYO Clinicに分かりやすい説明がありました。

それによると、通常の避妊ピルはプロゲステロンエストロゲンの両方が含まれているけど、ミニピルはプロゲステロンのみでエストロゲンが含まれないため、授乳中の人や血栓ができやすい人、エストロゲンで副作用の出る人などに有効なのだとか。つまり、日本ではミニピルがないために避妊ピルを使えない人たちもいるってことになります。

日本女性の選択肢はやっぱり限られてるし、料金は高くて薬屋で買えないなどアクセシビリティが悪すぎる。政府には、リップサービスの「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を唱えるばかりでなく、RHRを実現するための具体策を打ちだしてほしい。そもそも、「産む機能」しか保証しないという発想が人権としての(つまり、一人一人の女性のための)リプロダクティヴ・ヘルスとリプロダクティヴ・ライツに反しているということを知るべきだ。

1973年アメリカで中絶合法化

すぐさま搔爬から吸引中絶に移行したわけ

中絶医療の改善については第一人者の一人であるDavid A. Grimes先生の"Every Third Woman in America"に、こんな一節が出てきた。

中絶が合法化されてまもなく、吸引法はすぐさま搔爬に置き換わり、支配的な手法になった。このアプローチにおいて吸引は――掻き出すのではなく――子宮の中をからにする。(アナロジーを用いるなら、「デリケートなカーペットを掃除するのに真空掃除機を使うのか、園芸用の鍬を使うのか」といった話だ。)数限りない初期の研究が、吸引中絶は(真空吸引とも呼ばれた)より安全で、より迅速で、より快適であることを詳細に報じた。1970年には中絶の46%が搔爬で行われていたが、1995年までにこの手術は中絶の手法としてはほぼ消え失せた(2%)。

こういう話を英語で数限りなく読んだのが、私の中絶手法研究の発端だったんだよなぁ……と、しみじみ。

人工妊娠中絶について教えてください。

日本産婦人科医会の相談マニュアルに見る中絶薬危険視

昨年、公益社団法人日本産婦人科医会が「学校医と養護教諭のための思春期婦人科相談マニュアル」を発行していたことに、今になって気づきました。サンプルとして「人工妊娠中絶について教えてください。」が掲載されていたのでご紹介します。

なお、この説明の中で、例によって中絶薬ミフェプリストン(人工流産薬と言った方が正しい)について厚労省の注意喚起が引用されていますが、「大量出血」のリスクを理由にこの薬を禁止している国は他に見当たりません。

一方で、日本で多用されている「搔爬」について、WHOが「より安全な吸引法や薬剤による中絶に置き換えるべき」と指摘しているのはまぎれもない事実です。

エヴィデンスを示すことなく中絶薬を「危険だ」と決めつけ、その情報を流布しているのは誰なのか、それはいったい誰のため、何のためなのか、きちんと見極めていかなければなりません。

Q. 人工妊娠中絶について教えてください
A. 妊娠初期(12週未満)の場合と妊娠12 週〜22 週未満の場合では中絶手術の方法やその後の手続きが大きく違います。

人工妊娠中絶手術は母体保護法が適応される場合で、今回の妊娠を中断しなければならないときに行う手術です。人工妊娠中絶手術が受けられるのは妊娠22週未満(21週6日)までですが、妊娠初期(12週未満)と、それ以降とでは手術方法が異なります。

妊娠初期(12週未満)には子宮内容除去術として掻爬法(そうは法、内容をかきだす方法)または吸引法(器械で吸い出す方法)が行われます。子宮口をあらかじめ拡張した上で、ほとんどの場合は静脈麻酔をして、器械的に子宮の内容物を除去する方法です。通常は10 〜15分程度の手術で済み、痛みや出血も少ないので、体調などに問題がなければその日のうちに帰宅できます。

妊娠12週〜22週未満ではあらかじめ子宮口を開く処置を行なった後、子宮収縮剤で人工的に陣痛を起こし流産させる方法をとります。個人差はありますが、体に負担がかかるため通常は数日間の入院が必要になります。妊娠12週以後の中絶手術を受けた場合は役所に死産届を提出し、胎児の埋葬許可証をもらう必要があります。

中絶手術はほとんどの場合、健康保険の適応にはなりません。妊娠12週以後の中絶手術の場合は手術料だけでなく入院費用もかかるため経済的な負担も大きくなります。したがって中絶を選択せざるをえない場合は、できるだけ早く決断した方がいろいろな負担が少なくて済みます。

人工妊娠中絶手術を実施できるのは母体保護法により指定された『指定医師』のみですので、母体保護法指定医と標榜している医療機関でこの手術を受けることになります。海外では妊娠初期の中絶薬を発売している国もありますが、日本では現在認可されていません。大量出血などの報告もあり、厚生労働省より注意喚起が行われています。

「学校医と養護教諭のための思春期婦人科相談マニュアル」より引用。

なお、「学校医と養護教諭のための思春期婦人科相談マニュアル」申込用紙にリンクが貼られています。

MVAの独占販売は日本だけ?

手動吸引が広まらない背景

日本では一製品、一企業しかMVA(手動吸引器)が認可されていませんが、どうやら海外では複数の選択肢がある(競争がある)ようです。

Reproductive Health Supplies Coalition の記事によると、MVAを最初に開発したのはIpasで、その製品はWomanCare Global (WCG)が世界に流通させているとのこと。他に有名なのは、Marie Stopes International (MSI) で、こちらは国際NPO団体です。しかし、世界的にはメジャーなこの2つの販路が日本にはありません。その他にも中国やインド、台湾など多くの国の企業がMVAを手掛けており、世界ではMVA供給者は競争状態に置かれているようです。

一方、日本では、一企業の独占状態で競争が全くないために、「使い捨て(ディスポーザル)」でコスト高の製品しかなく、事実上、医師も女性たちも他の選択肢を奪われています。世界では「中絶」の医療やイメージを激変させた中絶薬ミフェプリストン(人工流産薬という方が正しいと個人的には思います)さえも、日本では未だ認可されていません。これで先進国だと言えるのでしょうか?

1999年に日本で「ピル」が認可されたとき、世界の人々は「やっと日本も『中絶薬』を認可したか」と誤解したが、実のところ日本で認可されたのは諸外国では1960年代~70年代にかけて次々と認可された「避妊ピル」だった……というのは、笑い話にもならない、世界に対する恥さらしです。

こうした国の政策、中絶医療の遅れのために、不利益をこうむったり、苦しい思いをしたり、下手をしたら人生を狂わされてしまう生身の女性たちが大勢いる……と思うと、怒りを禁じ得ません。

開業してわかった 日本でピルが普及しない理由

宋美玄先生「効果があるのはわかっているのに、日本では広まらない様々な壁があります」

女性をバカにしているとしか思えない、製薬会社だけが得をする酷いシステム! 適正価格で日本女性にリプロダクティブ・ヘルスケアを!
開業してわかった 日本でピルが普及しない理由 | ピル, 普及, 日本

二種類の女性ホルモン(エストロゲンプロゲステロン)が入っていて、エストロゲンの用量が低い低用量ピルは、排卵を抑えたり子宮内膜を薄くしたりして、月経周期に伴う症状を軽くすることが期待できるホルモン療法です。


同時に、妊娠したくない時にコンドームよりも確実に避妊をすることもできます。


副作用のイメージが強い方も多いと思いますが、比較的頻度の高い吐き気や不正出血は怖い副作用ではありません。重大な副作用として血栓症がありますが、20〜30代で標準体重の非喫煙者では稀な副作用です。


その他にも月経による負担を軽くするホルモン療法はいくつもありますが、特に20〜30代の女性にとって、低用量ピルはとても有益な薬で、私自身も第1子の出産前後に7年間飲んでいました。


講談社が出版する週刊誌「週刊現代」に「女医は月経があるから長時間の外科手術に向かない」などと書かれた記事が載っていましたが、産婦人科の女性医師は低用量ピルをはじめとしたホルモン療法により、月経随伴症状に煩わされっぱなしという人はあまりいないです。


日本への導入がいびつだった低用量ピル


避妊だけでなく、月経随伴症状を軽減する効果がある低用量ピルは、10年前に「ルナベル (現在はルナベルLDに名称変更)」という製剤が月経困難症に対して健康保険の適応になりました。


その後、日本では避妊用のピル(OC: Oral Contraceptives)と区別するために、月経困難症治療用として処方される低用量ピルは「LEP(Low Dose Estrogen Progestin)」と呼ばれるようになりました。両者は同じピルの仲間なのですけれど。


この時の価格設定により、低用量ピルの医療費がいびつなことになってしまっています。


それまでピルは自費診療のみで、1シート3000円前後で各医療機関から処方されていました。それでいくと、保険適応になって3割負担の場合、1枚900円前後で患者さんの手に入ると思われていましたが、実際には保険適応になってもそれまでと変わらない自己負担となりました。


どういうことかと言いますと、3割負担で自己負担が同じくらいになるように薬価を引き上げたということです。


末端の臨床産婦人科医の私に伝わってきたのは、「保険適応になって自己負担が安くなると、避妊のためにピルを飲んでいる人が生理痛だと偽って処方を求めてくる」ということを危惧してそのような値段設定になったということでした。ピルユーザーを信用していない結果と思われます。


普及率わずか4% なぜ広まらない?


低用量ピルが月経困難症治療薬として認められて10年経ちますが、日本家族計画協会の調査(第8回 男女の生活と意識に関する調査報告書 2016年)によると、低用量ピル普及率は約4パーセントと、この10年で普及したとは言えません。


その間私は臨床で患者さんにお会いする他、各種メディアで情報発信してきました。その感触ではそもそもメディアの作り手がピルに対して偏見や抵抗があります。


メリット以上に副作用の警告に面積を割いていることや、医療関係でない女性がピルは「不自然なもの」との印象を根強く持っていることがピルが広まらない原因だと思ってきました。


もったいないな、産婦人科の女性医師はみんな飲んでいて月経の煩わしさから解放されているのに。本当に危険なものなら大事な自分の体には使わないはずなのに、と思いながら。


昨年、自分でレディースクリニックを開院し、SNSなどで「生理痛は当たり前じゃないですよ。相談にきてください」と呼びかけ、多数の月経随伴症状に悩む患者さんたちに受診していただいています。


患者さんには、そもそも月経や排卵は何のためにあるのか、昔の女性は若い頃から何度も妊娠出産を繰り返していてそもそも月経がそんなにたくさんなかったこと、度重なる月経や排卵が子宮や卵巣にとって負担であること、低用量ピルをはじめとするホルモン療法でそれを軽減できること、避妊になること、起こり得る副作用と飲み方、などについてお話しします。


そして、大半の方に何らかのホルモン療法を選択していただいています。丁寧に説明すると理解していただけることが多く、丸の内の女性を月経の煩わしさから解放できるとの手応えを感じました。


医療側にも利益が少ない現実


ところが、実際にクリニックを経営してみて分かったのは、その診療では利益がとても少ないということです。


保険診療で婦人科では、内科などが慢性疾患を管理する時に算定できる「特定疾患療養管理料」は請求できず、説明に関しては初再診料のみです。


薬剤を院内処方にしたとしても、LEP製剤は原価率がものすごく高く、仕入れ値と患者さんに販売する価格との差である薬価差益は少ししかありません。


ピルという、日本ではまだ一般的にそんなにイメージが良くない薬について説明し、必要性とリスクを理解して、「飲んでみようかな」と患者さんに思ってもらうためにはかなりのボリュームのコミュニケーションを必要とします。


「この人にはピルやホルモン療法が選択肢となるな」と思う患者さん全員に説明していては、正直なところ経営は厳しくなります(ガイドライン通りに診療すれば、ピルの患者さんに定期的な検査はあまりしないのでそちらで収益が上がるということもありません)。


そりゃあ広まらないわ、というわけです。

中絶への権利は生命への権利

国連人権委員会が「生命権」に中絶を受ける権利を明記

Abortion Law & Policy Newsの2 November 2018号に、UN HUMAN RIGHTS COMMITTEEの進捗に関するニュースが載っていました。それによると、「市民的、政治的権利に関する国際規約」に関する一般的意見36号の「生命への権利」の中に「少女や女性が中絶を受けられる権利」を盛り込みました(General comment No. 36 (2018) on article 6 of the International Covenant on Civil and Political Rights, on the right to life, 30 October 2018 (CCPR/C/GC/36))。

この文書には「生命への権利」について70パラグラフが含まれており、その一つ第8パラグラフは中絶に関するものです。第8パラグラフでは、安全な中絶を受けられる権利や、危険な中絶や危険な中絶による死のリスクにつながるようないかなる制限も禁止しています。これは各国に法律改正を求めるもので、中絶を受ける女性や少女に刑罰を与えたり、彼女たちが中絶することを支持する医療提供者に対して刑罰を与えたりすることも禁止しています。 なぜなら、そうした措置は、女性たちや少女たちを危険な中絶に追いやることになるためです。(試訳)

一般的意見の位置づけについては、
www.unic.or.jp
こちら↑を参照してください。ページの一番下にあります。

全文はこちらにあります。

安全な中絶器具へのアクセスが妨げられている

日本の手動吸引器はコスト高な使い捨てのみ

妊娠初期の中絶を安全に行える手動吸引器(MVA: munual vaccume aspirator)は、すでに日本でも認可され、一部で使われています。ところが、産科医の早乙女智子先生から「日本ではsingle-useしかない、海外ではmulti-useが普通なのに」と伺ってびっくりし、調べてみました。

厚生労働省の外郭団体「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」のサイトで調べたところ、認可が下りたのは2015年10月20日
Women's MVAシステム
という製品で吸引用子宮カテーテルと説明されている。認証を取得したのはウィメンズヘルス・ジャパン株式会社です。

そこで同社のこの製品について調べたところ、パンフレットにはっきりと「器具の洗浄・再滅菌不要」と書いてあるではないですか! つまり、使い捨て。

早乙女先生がおっしゃる通り、海外では洗って再利用できるタイプが普通に使われています。だから私も、てっきりmulti-use/reusableが導入されたのだと思い込んでいました。

使い捨ての高いのしか売っていないために、手動吸引が広まらないなんてとんでもない! まさに、#なんでないの!

一方、WomanCare GlobalのサイトにIPASの手動吸引器(MVA)と電動吸引機(EVA)と搔爬(sharp curettage)を比較した表があるのでご紹介しておきます。どれほどMVAの方が安心で安全かが一目でわかります。ご覧の通り、MVAにはsingle useとreusableの両方にチェックがついており、どちらのタイプもあることが分かります。ちなみに海外では、クロスマーク(×)は「バツ」じゃなくて、「チェック」(日本人にとっての「〇」)を意味しています。

仕様とコストを比較している文献も見つけましたので、ご参考までに。

「妊娠中絶後進国」の日本女性に感じる哀れさ 「性と生殖の権利」について知っていますか?

レジス・アルノー : 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

東洋経済ONLINEでみつけた記事。

妊娠中絶は、世界で最も議論が交わされている問題の1つだ。だが、日本では明らかに事情が異なるようだ。主流メディアでこの問題が取り上げられることはめったにない。アイルランドでは、この5月に歴史的な国民投票で妊娠中絶を認めることが決定された。日本では、これは単なる海外の出来事として報じられた。

最近行われたアメリカ連邦最高裁判所判事ブレット・カバノー氏の公聴会の主な焦点は、彼が、「ロー対ウェイド事件」の妊娠中絶に関する最高裁の有名な判決を覆すかどうかだったが、この問題もまた、アメリカの問題と見なされていた。しかし、こうしたニュースは中絶や、より全般的な「reproductive rights=性と生殖に関する権利」に関する日本の状況をよく考えるのに良い機会を与えてくれるのである。

避妊の歴史が物語る日本とフランスの違い
日本人はフランスの女性の美しさに驚嘆する。しかし、彼女たちの美の大部分は彼女たちの自立と関連していて、主としてその自立は彼女たちが生殖に関わる問題、ひいては自分の運命を自分で決める力を持っていることに由来するのではないか。フランスの女性と比較して、日本の女性は性と生殖に関する権利に関する限りいまだに縄文時代に暮らしていると言える。

実際、性と生殖に関する権利という表現は日本版Wikipediaのページに載ってさえいない。日本の女性はあまりに大きな暗闇の中にいるので、自分たちが暗闇にいることがわかっていないのだ。

フランスと日本の避妊の歴史を比較すれば、日本の女性読者はどれだけ自分たちが遅れているのかを自覚できるかもしれない。フランスでは経口避妊薬は1969年から利用可能になっていて、2013年からは女性の未成年者は無料かつ匿名で入手できる。1999年に、事後用経口避妊薬が医師の診察を受けずに入手できるようになり、2002年には無料化、未成年者は匿名で手に入れられるようになった(学校の保健室で手に入る場合が多い)。

フランスの女性は敏感に自分の体を意識しており、最新の健康情報に従って生活している。最新の調査によると、フランス人女性のピル使用率は33.2%、子宮内避妊器具の使用は25.6%、コンドームの使用は15.5%だった(ちなみに、出産に関わる費用は全額払い戻される。72%の女性は麻酔を利用し、無料で出産を行っている)。

中絶についても、現在フランスでは中絶に関する合意が大きく広まっているため、2017年のフランス大統領選挙の11人の候補者のうち、選挙公約で中絶の禁止を訴えた者は1人もいなかった。ある候補者は妊娠中絶の権利を憲法で保障すべきだという提案まで行った。

フランスでは中絶は1975年から認可され、1982年以来社会保障制度給付金によって費用の大半が払い戻されるようになり、2013年以降は全額払い戻しが受けられるようになっている。中絶は外科手術によって行われるほか、より安全で安価な経口妊娠中絶薬と呼ばれる1988年にフランスの厚生大臣によって認可された経口薬によって行われることが多くなってきている。

当時、ある製薬会社は強い主張を展開する中絶反対団体への配慮から、当初は経口妊娠中絶薬の販売を拒んでいた。しかし、フランス厚生相は次のように述べて販売を命令した。「その薬に対する政府の認可が承諾された瞬間から、RU486(経口妊娠中絶薬)は製薬会社の資産であるだけでなく、女性の道徳的な資産にもなったのである」。


ピル使用率は東南アジアよりも低い

日本では経口避妊薬は1999年までは違法だった。それ以前は、ピルは医師から入手できたが、不規則な月経周期の管理や、その他の医療目的のためであって、避妊のためではなかった。よく言われていることだが、日本で経口避妊薬が認可されたのは、この薬が入手可能になってから34年後で、国連加盟国で最も遅かったが、その一方で男性対象の勃起薬バイアグラが認可されるのにたった6カ月しかかからなかった。

日本の女性は、現代的な避妊薬の使用に関して多くの先進国に後れを取っている。複数の調査によると、女性にとって最も危険の高い方法であるにもかかわらず、コンドームと膣外射精が、今日の日本で最もよく行われている避妊法だ。日本の女性はアジアの発展途上国と比べても後れを取っている。2015年の国連の調査によると、タイの女性のピルの使用率は33.7%で日本の女性の1.1%を大きく上回る。

このような哀れむべき状況の1つの原因は、現代の避妊薬に対する政府支援の欠如である。現在日本では避妊薬を買うのに月額約5000円かかり、利用者にとっては金銭的な痛手となっている。事後経口避妊薬に至っては、フランスで処方箋なしで手に入るようになってから20年経った今でも、日本では医師の承認が必要である。

このような不必要な障壁により、女性は短期間で緊急にこの薬を見つけなければならないうえ(特に、望まない妊娠が起こりやすい週末は薬を見つけるのが難しい)、多額の金を払わねばならない状況に追い込まれている。

この薬を日本で探さなければならなかったフランス人女性は、自分の経験をこう振り返る。「フランスではドラッグストアに行って、事後経口避妊薬を10ユーロ(約1300円)未満で購入できる。でも、東京ではまずその薬を処方してもよいという医者を探さなければならなかった。男性医師は無礼で無神経で、彼は私にその薬を服用しないよう説得しようとした。それからドラッグストアに行ったが、5000円ほどの出費になってしまった」。

出産に関しても、日本の女性はいまだに金を払い、しかも身体的に苦しまなくてはならない。大半の女性は、子どもをより愛するには苦しむべきだいう奇妙で酷い作り話に影響されて生きている。日本で麻酔を受けて出産する女性はたった5%である。フランスでは無料かつ無痛で手に入るものが、日本では広尾のような上流層が住む地域のクリニックに通う裕福で学歴の高い女性にしか手に入れられないのだ。

日本での中絶はギャンブルと同じ
また、日本では中絶はギャンブルと同じ偽善を抱えている。つまり、両者とも違法なのだが、あまりにも例外が広まっているため、実質上認められているのだ。妊娠中絶は、1880年の刑法での法制化以来ずっと犯罪なのである。中絶処置を受けた女性は最大1年の懲役、行った医師には最大2年の懲役が科せられる。

しかし同時に、中絶は1949年に法制化されている。恐ろしいことにその理由の1つは、遺伝的に劣っていると考えられる胎児の出産を抑制するためであり、また1つには国が戦争の痛みで揺らいでいる時期に、過剰な出生を抑えるためであった。

それ以来妊娠中絶は一部のケースで認められてきたが、最も重要なのは経済的な理由が認められていることだ。母体保護法に書かれた「経済的な理由」の一節があれば、妊娠中絶を望むほとんどすべての女性は実質上中絶を認められる。

皮肉なことに、1950年代のフランスの女性たちが中絶手術を受けるために日本にやって来たのは、母国では不可能だったからだ。今日、日本におけるほぼすべての妊娠中絶(NGOのSOSHIRENによると98%)が経済的な理由で行われている。

2015年には出産100万5677件に対し、中絶は17万6388件だった。だがそれは、妊娠件数の17%が中絶に終わっているということを意味する。だが、中絶はいまだに時代遅れの外科手術の方法でしか行われていない。外科手術を必要としない、より苦痛の少ない中絶を可能にする経口妊娠中絶薬薬は、まだ日本の厚生労働省に認可されていないのだ。経口妊娠中絶薬はすべての先進国、それに発展途上国の多くでも認可されている。

中国では1988年に、チュニジアは2001年に、アルメニアは2007年に認可された。ウズベキスタンの女性は経口妊娠中絶薬を入手できるのに、日本の女性は手に入れられない。中絶自体おぞましい経験なのに、日本の保健当局はその苦しみを取り除こうとはしていない。


厚労省は誤った情報を発している

それどころか、厚生労働省は、経口妊娠中絶薬について誤った情報を発している。厚生労働省アメリカの食品医薬品局(FDA)もサイト上で注意喚起しているとして、FDAのページへリンクするとともに、重要部分を翻訳して危険性を強調している。だが実際は、FDAは2016年に経口妊娠中絶薬に関する政策を変更しており、厚労省の情報は古いままとなっている(ちなみにリンクをクリックすると、リンク切れになっている)。

多くの若くて貧しい10代の女性は、性教育不足のために不必要な中絶を行っている。世界保健機関(WHO)は2010年の報告書で、子どもには4歳以前から自分の体を意識させるよう勧めている。フランスは6歳からそれを行っており、ドイツでは9歳からである。

だが、日本にはこの件に関する何の政策もない。基本概念をきちんと教えることができなければ、10代の若者たちが愛や性に関心を持ち始めたとき、彼らを危険にさらすことになる。性教育に対する猛烈な反対者である自由民主党山谷えり子議員に筆者は取材を求め、質問項目のリストを送った。だが、彼女は取材を拒否し、「予定が立て込んでいるとして取材を拒否し、「女手1つの子育てを体験してきた」などと大まかで空虚な回答を返してきた。

日本における中絶の「犯罪」としての位置づけは、日本人女性を貶め、不安定な立場に置いている。もし明日中絶が非合法化されたら?「現代の10代の若者たちは、ピルと事後経口避妊薬の違いを知らない。彼らはもし中絶が本当に違法なものになったら日本がどう変わるか理解していない」と、作家であり、妊娠中絶賛成派のNGOである「SOSHIREN・女(わたしの)からだから」のメンバーである大橋由香子氏は話す。

SOSHIRENは女性の性と生殖に関する権利を求めて戦ってきた長い歴史を持つ。中絶を受けることができる権利は、1972年と1982年に「生長の家」のような妊娠中絶反対のグループによって攻撃を受けた。自由民主党の政治家の助けを借りて、生長の家をはじめとするグループは、妊娠中絶を許している「経済的な理由」の一節を取り消そうとした。

これに対して、SOSHIRENのメンバーたちは経済的理由の一節を取り除くことに反対し、ハンガーストライキを行った。彼らはカナダ人監督ゲイル・シンガー氏の中絶に関する映画の日本版「中絶」を製作した。水子供養が1970年代に登場し、女性たちに罪の意識を持たせ、寺社に新たな収入源を与えた。

大橋氏は今、自民党内に保守的な宗教関係の陳情団体が復活していることを懸念している。彼らは経済関連の陳情団体より大きな勢力と影響力を持っているとされる。「中絶は依然として刑法により違法とされており、とても性と生殖に関する権利が保障されているとは言えない(日本には)性と生殖に関する権利を支持する新しい法律が必要だ」と大橋氏は言う。少なくとも、妊娠中絶が犯罪であるという位置づけは変えなくてはならない。

女性差別撤廃条約(CEDAW)に関する忘備録

内閣府男女共同参画局女子差別撤廃条約と選択議定書に関する記録

個人通報制度に関わる条文の一部を示します。

Article 2
Communications may be submitted by or on behalf of individuals or groups of individuals, under the jurisdiction of a State Party, claiming to be victims of a violation of any of the rights set forth in the Convention by that State Party. Where a communication is submitted on behalf of individuals or groups of individuals, this shall be with their consent unless the author can justify acting on their behalf without such consent.

2条
 個人または個人が集まったグループは、条約に示された何らかの権利が国によって違反がなされたために被害者になった旨を述べる通信物を自らによって自らのために提出することができる。(以下省略)