リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

矢野参考人の意見

第2回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議 (平成29年7月26日)

第2回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(2017年7月26日)
の矢野参考人のご意見が載っているページをとりあえず貼り付けておきます。突っ込みどころ満載なので、徐々に指摘していきます。

○矢野参考人

 矢野と申します。よろしくお願いします。資料の53ページにありますように、参考資料3の「緊急避妊法の適正使用に関する指針」を平成23年2月に作成しました。私もそれに参画していました。ごく最近、改訂版を作成しました。ほとんど内容は一緒ですが、文言を少し修正しました。例えば「緊急避妊ピル」を「緊急避妊薬」に修正しました。緊急避妊薬は、避妊に失敗した一般国民の方や、性犯罪被害に遭われた女性などにとっては非常に重要な、必要な薬剤であるとは思います。妊娠阻止率が100%であればOTCでよいのですが、実際は100%でなく80%程度です。しかも、性交渉から72時間以内に服用しないといけないとなっており、服用が遅ければ遅いほど妊娠阻止率は低くなります。

効果が100%でなければOTC化できないなら、薬局で売っている風邪薬は全滅ですね。

 次に、性交渉が月経周期のどこの時期であるかということが、実は最も重要なのです。月経は大体28日周期ですが、その真ん中の時期に排卵が起きます。性交渉が排卵の前後なのか、または丁度排卵の時期なのかで成功率が違うことも治験で分かっております。

え? 治験しましたっけ? 日本でなければ、どのデータを元に言ってるのか、教えてほしいです!

重要なことは、排卵する前であれば大丈夫なのです。

この「大丈夫」というのは、「ちゃんと避妊できます」という意味ですよね?

排卵後一定時間が経過してから性交渉があっても、もう妊娠はしません。

不妊治療されている方は、排卵日に性交することを指示されていますからね。排卵の翌日とか2、3日後では受精しないということですよね。

実は、そこで来られて服用する方も多く、全体の妊娠阻止率を上げているのです。
 実際は、排卵の前に服用することが大事なのです。正に排卵している時に来られた方は、実は妊娠を阻止できないのです。

もうすでに受精できるタイミングを過ぎて安全圏にいる人も混じっているというわけですね? そうだとしても、それは統計的な結果論であって、当事者として「のんでおきたい人」というのはいるはずですし、目の前に来ている患者さんが「安全圏にいるかどうか」を先生方も判別できませんよね?

緊急避妊薬は大規模病院ではほとんど置いてなく、一般のクリニックの先生方が使われています。実際には、月経周期のどの時期に当たるかということを余り詳しくチェックしないで処方されていますが、その場合、確実に妊娠は阻止できないということは言っています。そのために同意書を作っているのです。72ページにありますように、「緊急避妊薬の処方をお願いします」という文言で始まり「緊急避妊薬を服用しても必ずしも妊娠を回避できるわけではないことを理解いたしました」という同意書をしっかり頂いて処方しているのです。

医師の自己防衛も大事でしょうね。ただ、100%でなくてもすがりたい人はいっぱいいると思います。なぜ、そこまでして欲しい人に与えようとしないのか、理解できません。

 やはり、緊急避妊薬がOTC化されると100%妊娠を阻止できると、一般の方が誤解されるのではないかと危惧します。しかし、そのことを周知することは非常に難しいと思います。

この識字率が100%近い日本で「妊娠を100%阻止できるわけではありません」と説明して通じないというのなら、いったいどの国で可能なんでしょうね?

しかも、同意書をとって処方しているような薬です。

これまでの先生方の考え方、取り扱い方を変えればいいだけの問題ですよね? パターナリズムはやめて、女性の自己決定を中心に据え、インフォームド・コンセントを行うことで、患者中心医療に切り替えればいいわけで、その方が女性に対する性差別性も払拭できます。

知らない間に妊娠がどんどん進行してしまうとか、いわゆる子宮外妊娠に陥り生命の危険にさらされることなども危惧されます。

子宮外妊娠の危険性について、あまり知られていないのは確かです。この機会に啓もう活動を行いましょう!

絶対に安心できる状況にはないわけで、同意書をしっかり頂いて処方しているのが現状です。

OTC薬についてまで、先生方のせいだと誰も言いませんよ……杞憂では。

それがOTC化されると何パーセントかの方々は知らない間に妊娠が継続していくとか、いわゆる子宮外妊娠に陥ったことを見逃されてしまうということを、我々産婦人科医は危惧しているのです。

OTC化されている国々の医師たちはどうお考えなのか、聞いてみたことはありますか? 私の知っている海外の産婦人科医は、みな日本の扱いに驚いて、「なぜ日本の女性たちは文句を言わないのか?」と憤ってらっしゃいました。

そのことまで薬剤師の方がしっかり説明できるとは思えないのです。薬剤師の方々も患者さんにいらっしゃいますが、そこまでの教育は受けていません。

ずいぶん薬剤師をバカにした言い分ですね。医師だ、産科医だというだけで、自分たちの言うこと、知っていることがすべてだとでもお思いでしょうか? 私は医師でも薬剤師でもありませんが、少なくとも一時期の日本では中絶医療について医療専門家よりもはるかに海外の中絶事情に通じていたと自負しています。

妊娠阻止のメカニズムもまだ完全に分かっていない段階です。排卵前のある時期に服用すれば排卵を阻止するであろうということになっておりますが、完全にはまだ分かっておりません。

どのレベルの「完全」な知識をおっしゃっているのでしょう。メカニズムはこうです……と説明しているものはいくらでもあります。「排卵前のある時期に服用すれば排卵を阻止するであろうということになっております」の根拠を示してください。そのような言い方をして、中絶薬を排除しようとするプロライフ派の文章はあるようですが、それほど曖昧な記述の医学論文は私は見たことがありません。

ですから、そのような薬剤をOTC化するのはまだ難しいと考えます。欧米では確かにOTC化されているようです。欧米では20代の90%以上の方が経口避妊薬を使用している状況にあり、避妊薬に慣れているのです。ある程度避妊に失敗することもあるだろうということも体感しています。

 日本の場合、一般の20代の方が経口避妊薬をどれだけ使用しているかというと5%以下だと思います。実際に緊急避妊薬を求めて来られる方は、経口避妊薬を常用していない方です。

ここまでの論拠が弱いと思ったのか、日本の経口避妊薬(OC)使用率の低さを理由に持ち出してきました。しかし、OCの使用率の低さの原因はいったい何か、お気づきになっていますよね? 製薬会社と指定医が儲かるようなシステムが作られていて、女性たちにとってあまりにも高くてアクセスの悪いものになっているからではありませんか。まずは、そうしたシステムのあり方を変えるべきではないでしょうか。日本は女性差別撤廃条約を批准している国ですし、女性のみが必要とする医療のアクセスがここまで悪いこと自体、すでに性差別だと言えるはずです。女性のリプロダクティヴ・ヘルスを高めるべき立場の方が、どうやってプライドを保持していらっしゃるのか、理解できません。こうやって女性差別的で女性のリプロダクティヴ・ヘルス&ライツを阻んでいる現状維持に加担することに、専門家として恥の感情も持ち合わせていらっしゃらないのですか?

ですから、そのようなことに全く慣れておらず、知識も経験もないので、妊娠に気付くのが遅れてしまう恐れがあり、そこが一番心配するところです。以上です。

「そのようなこと」っておっしゃいますが、日々のまなければならないOCと緊急時に一度のむだけの薬では、まったく話が違うと思いますし、それが「妊娠に気付くのが遅れてしまう」こととどう関係しているのでしょうか? 

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しに関するパブリックコメントが開始!

緊急避妊薬に関連するパブコメが始まっています! 6月24日が締め切り。あと1週間です。

去年、パブコメに出しても意味なかったと感じている人も、諦めずに去年のままの文章に「緊急避妊薬をオンライン診療でアクセスしやすくすべき」と書いて出しませんか?⇒「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しに関する意見の募集について

以下は応募要領です。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しに関する意見の募集について

mainichi.jp

吸引優位の根拠 

D&C(搔爬)との比較で

世界的には、GrimesのLancetの記事で、D&CよりMVAが良いということが決定づけられたと思う。
https://www.who.int/reproductivehealth/publications/general/lancet_4.pdf?ua=1

ただ、以下の論文のように、Grimesは根拠なく(D&Cの安全性について何も言ってない引用文献を使って)D&Cは劣っていると決めつけていることもあったので、おそらく彼はデータからというよりも「経験的に」D&Cを危険視していたのだと思う。
https://academic.oup.com/bmb/article/67/1/99/330367
(そもそも、産婦人科医になった理由が、危険な中絶で死んでいく女性たちのことを医学生の時に知ったためだった方です。)

以下も、D&CよりVAの方が痛み止めが少なくてすむ(p.33)としている。
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/66158/WHO_RHR_HRP_ITT_99.2.pdf?sequence=1&isAllowed=y

以下の資料ではMVAの方がD&Cより痛み止めが少ない現実を紹介した直後のp.97にextreme painの描写がある。

https://www.who.int/reproductivehealth/publications/unsafe_abortion/0939253763.pdf

政府は、違憲判断を真摯に受けとめ、被害者救済の抜本的な見直しを行うことを強く求める

強制不妊手術に対する国家賠償責任を棄却した地裁判決に対して

全国民医連の声明・見解です。

政府は、違憲判断を真摯に受けとめ、被害者救済の抜本的な見直しを行うことを強く求める-旧優生保護法国賠訴訟・仙台地裁判決を受けて

2019年6月6日 全日本民主医療機関連合会 会長 藤末 衛

 5 月 28 日、旧優生保護法下で不妊手術を強制された宮城県の 60 代、 70 代の女性 2 人が国を相手に計 7150 万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は、旧優生保護法違憲との判断を示す一方、被害者救済を怠ってきた国の責任を認めず、 2 人の賠償請求を棄却した。

 判決は、「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)」を、幸福追求権を保障する憲法 13 条に基づく基本的人権として認め、旧優生保護法下での強制不妊手術が、「子を産み育てる意思を有していた者にとってその幸福の可能性を一方的に奪い去り、個人の尊厳をふみにじるもの」とした上で、同規定が「憲法 13 条に違反し、無効である」とした。画期的な内容であり評価する。

 しかし、原告の賠償請求については、 20 年を経過すると請求権が消滅する除斥期間の規定を適用し一切認めなかった。これは、判決自身が、除斥期間内に賠償請求を行うことは被害者の置かれてきた状態等から「現実的には困難」と述べている点とも矛盾しており、除斥期間機械的に当てはめた、あまりにも杓子定規な内容であり全く承服できない。

 さらに、被害者救済のための立法措置を講じてこなかった国の責任を、リプロダクティブ権の司法判断の機会がなかったこと等を理由に不問とした点も重大である。これは被害者に「起こせない裁判を起こせ」と言っているのに等しく、法的議論や訴訟の責任を被害者に一方的に負わせるものであり、到底納得できるものではない。

 以上のように、今回の判決は、権利侵害の重大性、旧優生保護法自体の違憲性を判示しながら、他方で、国の立法不作為を免罪し、賠償請求を棄却するという理不尽なものであり、被害者原告にとってきわめて冷酷な不当判決と言わざるを得ない。原告、弁護団は控訴する方針を明らかにしており、控訴審において、被害者原告の思いに寄り添い、尊厳の回復に資する判決が出されるよう強く求めるものである。

 併せて、政府は、仙台地裁判決の違憲判断を重く受けとめ、被害者の真の救済と尊厳の回復に向け、抜本的な対策を講じるべきである。

 4 月に成立した一時金支給法は、旧優生保護法が「合憲」だったという認識を前提に、補償対象の限定(本人のみ)、当事者への制度の周知方法、被害認定のあり方など、被害者や家族の願いと大きく乖離した内容のまま実施に移された。 1 人一律 320 万円という一時金の支給金額も、子どもを産む権利を強制的に剥奪され、個人としての尊厳を大きく傷つけられた被害者に向き合う水準とは到底いえない。今回の違憲判断をふまえ、個々の被害者への確実な制度の周知や補償額の再検討など、現行の一時金救済法の改正・改善をはじめとする救済措置全体の見直しを早急に行うことが必要であると考える。

 さらに、国が、基本的人権を定めた日本国憲法のもとで、憲法違反の旧優生保護法を制定し、半世紀近くそれを運用し、廃止後も長期にわたって被害者を放置してきた自らの責任を明らかにすることは、被害者の真の救済、尊厳の回復を図る上で、また、優生政策の再発防止、優生思想の克服に向けた全面的な検証作業を行う上で不可欠であることを改めて強調したい。

 私たち全日本民医連は、政府に対して、旧優生保護法下での強制不妊手術に対する国の責任を明らかにすることを重ねて求めるとともに、一時金支給法をふくむ救済措置の抜本的な見直しを行うことを重ねて強く要請する。また、現在各地で闘われている国家賠償請求訴訟に対して支援を強めていく。個人の尊厳と多様性が尊重される社会、障害をもっても生きやすい社会の実現をめざし、引き続き力を尽くしていく所存である。

以 上

全日本民医連の声明・

4. 妊娠12 週未満の人工妊娠中絶手術による合併症(日本産婦人科医会調 査結果より)

日本産婦人科医会 研修ノート 「No.99 流産のすべて」より

4. 妊娠12 週未満の人工妊娠中絶手術による合併症(日本産婦人科医会調 査結果より)
(1)妊娠12 週未満の人工妊娠中絶手術の合併症
○WHO は2012 年に「安全な中絶に関するガイドライン」を発表し,人工妊娠中絶手術としての掻爬法は安全性に問題があることを指摘した.日本産婦人科医会は同年,人工妊娠中絶手術の術式や合併症に関する全国調査を行った(表11).
○人工妊娠中絶手術の術式は,吸引+掻爬(併用)法が5 割,掻爬法が3 割,吸引法が2 割であった.
○合併症の総発生率,特に子宮内遺残の発生率は,吸引法と比較して吸引+掻爬法および掻爬法で,また,吸引+掻爬法と比較して掻爬法で有意に高かった(p< 0 . 01).また,掻爬法は他の2 法と比較して子宮穿孔の発生率が高かった(p< 0 . 05).よって,人工妊娠中絶をより安全に実施するには,吸引法の幅広い導入が求められる. ○術前の子宮頸管拡張器使用や術中の超音波ガイドは合併症の軽減に繋がっていなかった.
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(2)子宮穿孔に伴う腸管損傷
○子宮穿孔時の処置等について,医会への偶発事例報告(計63 例:2011~2015 年)から検討した(表12).
○子宮穿孔例の84 %に開腹あるいは腹腔鏡手術による子宮修復が行われていた.子宮穿孔例の56%に腸管損傷を認め,そのうち3 例(腸管損傷全体の5%)に人工肛門造設が行われていた.以上より,子宮穿孔時は腹腔内の観察をためらうべきではないと考えられる.

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