リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶手術ミスで死亡と女性医師を提訴

以下は2月14付けのnikkeisports.comに掲載された記事です。

 2005年に静岡市内の産婦人科クリニック(06年に廃院)で中絶手術を受けた同市の女性(当時45)が、医師のミスにより出血多量で死亡したとして、女性の夫ら遺族3人が14日、手術を行った女性医師に対し、約9300万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁に起こした。

 訴状によると、女性は05年9月12日、同院で中絶手術を受けていた際、被告のミスで子宮から出血、翌日に受けた出血を防ぐための子宮摘出手術でも大量出血し失血死した。

 原告側代理人によると、被告の医師側は医療ミスで賠償責任が生じた際に適用される医師賠償責任保険による賠償を望んでいるが、保険適用を拒否されているという。

 元院長は「訴状を見ておらずコメントできないが、死亡事故を起こしたので遺族にはできるだけのことをしたい」としている。

[2008年2月14日22時1分]

ネットで簡単に検索した限りですが、スポーツ紙以外で報じていたのは以下の2月14日付けの産経新聞のサイトでした。

中絶手術ミスで死亡と提訴 9千万円賠償請求 
2008.2.14 23:47

 平成17年に静岡市内の産婦人科クリニック(18年に廃院)で中絶手術を受けた同市の女性=当時(45)=が、医師のミスにより出血多量で死亡したとして、女性の夫ら遺族3人が14日、手術を行った女性医師に対し、約9300万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁に起こした。

 訴状によると、女性は17年9月12日、同院で中絶手術を受けていた際、被告のミスで子宮から出血、翌日に受けた出血を防ぐための子宮摘出手術でも大量出血し失血死した。

 原告側代理人によると、被告の医師側は医療ミスで賠償責任が生じた際に適用される医師賠償責任保険による賠償を望んでいるが、保険適用を拒否されているという。

 元院長は「訴状を見ておらずコメントできないが、死亡事故を起こしたので遺族にはできるだけのことをしたい」としている。

一般に中絶をゴシップ的に扱いたがるスポーツ紙とプロ・ライフの産経新聞しか報じていない……というところに、日本における《中絶》という話題の位置づけを考えさせられます。

……と思いきや、2月15日付けの中日新聞のサイトにも次の記事が載っていました。これを読むと、事件のありようが少々違って見えてきます。

清水の中絶事故 医師を提訴 遺族が静岡地裁に訴え

2008年2月15日

 静岡市清水区産婦人科医院(現在は廃院)で2005年9月、妊娠中絶の手術を受けた同区内の女性=当時(45)=が失血死したのは執刀医の過失として、遺族側は14日、担当医に9295万円の損害賠償を求める訴えを静岡地裁に起こした。ただ、医師側は過失を認めており、最終的な目的は医療事故時の保険金支払いを拒否している日本医師会(日医)に対し、翻意を求めることにあるという。

 遺族の代理人は「医療過誤をめぐり、保険金の不当な払い渋りが明るみに出る極めてまれなケース」としている。

 訴状によると、被告の女性医師は夫の医師と2人で執刀したが、誤って医療器具で女性の子宮内を傷つけ多量の出血を招いた。翌日、あらためて2人で子宮の全摘出手術を行ったが、この際も周辺の動脈を傷つけて症状を悪化させ女性を失血死させた。県警の司法解剖では「手術の失敗が原因」と結論づけたという。

 遺族側が問題としているのは、開業医らの医療事故補償に備え日医が創設した「医師賠償責任保険」の適用拒否。医師側は過失を認めて適用を申請したが、日医は女性医師が、妊娠中絶の「許可医」ではない夫と手術した点を理由に拒んだ。

 医師個人に十分な支払い能力がないことなどから、遺族側は「被害弁償には保険金の支払いが不可欠」とする。裁判では「指定医以外の医者が携わった中絶手術でも妥当」といった判断を得て、あらためて日医に適用を申請したい意向だ。

 日医は「個別の案件には答えられないが、保険適用には審査機関が適正に判断している」と主張している。医師側は「死亡事故を起こしたのは事実で、遺族にはできる限りのことをしたい」と話している。

 母体保護法は中絶を行える医師を都道府県医師会の指定する医師と義務付けているが、静岡市内のある産婦人科医は「許可のない医師が手術を手伝うこともある」と説明している。

なるほど……単なる「中絶の失敗で多額の賠償金」といった事件ではないのですね。妊娠・出産は思わぬトラブルがつきもの。訴訟を恐れて産科医のなり手が減りつつある今、この裁判の今後の行方が気になります。