昨日発表に用いたグラフを1つご紹介します。
日本母性衛生学会に用いたグラフを少し改編して、初期中絶の主な方法として掻爬法(D&C)という外科手術が用いられている比率が一目でわかるようにしました。ご覧のとおり、単独使用、吸引との併用(先か後かで2パターン)を合わせると83%を超えています。
2003年にWHOが出した中絶方法のガイドラインでは、安全な初期中絶の方法として吸引法と中絶薬を使用した方法の2つしか挙げておらず、D&Cはこれらの安全な方法が使えない場合の次善の策に位置づけられています。
D&Cは20世紀の初めに妊娠初期の中絶に使われるようになった外科的手術法ですが、1970年前後に先進諸国で中絶が合法化された時に各国で採用された中絶方法は、D&Cより安全で洗練されていると見なされた吸引法でした。一方の中絶薬のほうは、1990年代以降、急速に世界各国に広まりました。このD&Cから吸引法への転換と、さらに吸引法に加えて中絶薬というチョイスの導入は、医学的な比較調査に基づいて進められたものです。つまり、いわゆるevidence-based medicineの原則に基づくなら、D&Cはもはや世界では捨てられた過去の中絶手法だと言うこともできるでしょう。
WHOは医療が未発達の発展途上国も対象にしていることを思えば、医療が進んでいるこの日本で、旧式で比較的危険だとされている方法が今もなお8割もの産婦人科医の「主な手法」になっているのは、異様なことのように思えます。
同様に、日本のD&C(掻爬)は、ほぼ常に全身麻酔で行うのが常識ですが、上述のWHOのガイドラインでは、安全性のために、妊娠初期の中絶に全身麻酔ではなく局所麻酔を用いることを推奨しています。
私は医者ではないので確かなことは言えません。しかし、日本の中絶医療の内容は国際的な中絶医療の水準に照らして見直すべきではないのでしょうか。
心ある産婦人科医の皆様に、ぜひ検討していただきたいと思います。
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事後日記です。参考までに科研報告書はこちらです。