ところで,id:discourさんのところで,伊田ヒロユキさんのフェミニズム論が話題になっていますね。初めてのトラックバックを試みます。うまくいったら,今後ともどうぞよろしくお願いします。
このように男性の立場に見直しをかけないまま、性的解放が奨励されたり、フェミニズムの課題である人工妊娠中絶やDV,セクシュアル・ハラスメントなどについて論じるのを黙って見過ごすわけにはいかない。
というご意見には,基本的に賛同します。伊田さんのシングル単位論については,経済的なしくみとして個人単位にすること自体は悪くないと思いつつも,生殖や子育ての負担が男女で異なっているという現実をすっとばしているので,その点について前からわたしは批判的です。しかも今回は中絶のことを書いているとなると,わたしもdiscourさん同様にちょっと見逃せません。
足元からリアルに語っているのは「スローなセックス」(p.144)や「楽しいセックスとそうでないセックス」(p.63)などについてだが、セックス(性的行為)の帰結である人工妊娠中絶の章にくると、孕ませる性である男の立場にはほとんど触れられていない。
ん〜,そうなんですか? 楽しいセックスなんて言うと,キム・ミョンガンさんの本を思い出してしまいそうだけど。セクシュアリティのことは,表現するのが難しいですよね。言葉にしてしまうと,とても陳腐になってしまう。かつて関わっていたフィメール・エロティカを翻訳するプロジェクトでは,日本語には性差別的でないエロティックな言葉が非常に欠けているのを痛感させられたものです。
そういえば,孕ませる男の責任については,今のところ沼崎一郎さんの「孕ませる性の自己責任」くらいしかちゃんとした論考がないのでは? その意味では貴重な論考だと思うのですが,宮地尚子さんは議論の批判的発展のために,評価すべきところは評価しながらその限界を指摘し、批判すべきところはしっかり批判なさっています。
http://www.kinokopress.com/civil/0102.htm
discourさんのご批判も,伊田さんの本を読む人に注意を喚起するのと同時に,ご自身に届くような形でなされるとベターだと思いました。