リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

性感染症の予防薬》

アメリカのNWHN(全国女性の健康ネットワーク)からのメルマガで,マイクロバイサイドの研究開発を支持しようと呼び掛けていたので,何だろうと目に留めた。bioのbiかと思ったら,そうではなく,HIVウィルス予防とクラミジアなどの微生物系の性感染症予防の二重の効果がある殺菌剤みたいなものらしい(だからbiバイなのであって,bio生物ではないのね……)。クリーム状の塗り薬やジェル状の膣内薬があるらしく,女性のリプロダクティヴ・ヘルスを守るために開発をがんばって!……ということらしい。日本でも若い世代を中心にHIV感染率が上がってるのに,あいかわらず危機感がない。パニックになるのも考え物だけど。

ちょっと古いけど日本語の情報も見つけました。
http://api-net.jfap.or.jp/siryou/report/2002/repo_07.htm

おまけですが「マイクロビサイド」と訳したサイトもあったけど,連れあいいわく科学用語では「バイ」と読むほうが普通じゃない?だとか。


《思わぬ妊娠を救うキャンペーン》

もうひとつ,今度はイギリスの某メルマガから。イギリス最大の中絶提供グループBPASが,ロンドン全域の掲示板やウェブ,ポスター,パンフレット,葉書,名刺大のカードなどを駆使した「計画外妊娠:あなたの選択肢」と題した一大キャンペーンを5月8日に開始した。このキャンペーンの題名は,BPASの代表Ann Furediの著書Unplanned Pregnancy: Your choicesから取ったものと思われる。思わぬ妊娠に直面した女性に,「いざという時の連絡先」を知らせるためだという。中絶だけではなくて,産む場合のアドバイスも得られるという。

「誰も自分が妊娠するなんて思っていない。いざというときに情報を探していても手遅れになる……」とのAnn Furediのコメントも載っているけど,これって妊娠9週までしか使えないRU-486(イギリスではミフェジン)を念頭に置いているんだよね。「早ければ早いほど,女性の心身には負担がない」というのはごもっとも。

以下はBPASの情報。
http://www.politics.co.uk/press-releases/health/medical-ethics/abortion/bpas-new-deal-women-with-unplanned-pregnancies-$426936.htm


教科書検定

今日届いた「女(わたし)のからだから」で知った教科書検定問題の記事。毎日新聞のサイトから一部引用します。

ジェンダーフリー記述、申請段階から見送り

 昨年度の中学用教科書検定で意見が付き、全社の教科書から記述が消えた「ジェンダーフリー」は、多くの出版社が申請段階で記述を見送った。東京都内の複数の出版社によると、全国の自治体から自社の教科書で「ジェンダーフリー」を使っているかと問い合わせがあるという。編集者の一人は「使えば採択されなくなるかもしれないため、用語の使用をためらってしまう」と語る。

 地理歴史・公民・家庭・保健体育の各教科の申請本78点のうち、ジェンダーフリーの記述は、現代社会の2社2点で計3カ所。

 このうち、三省堂は「ジェンダーフリー社会をめざして」と題した項目で男女共同参画社会を説明したが、「誤解するおそれのある表現」との検定意見が付いた。この項目は前回の01年度検定では意見が付かなかった。同社によると、文科省に説明を求めたところ、教科書調査官が「用語の使用は再考されたい」と自粛を求めたので、項目の題を「男女共同参画社会をめざして」に差し替え、本文からもジェンダーフリーという言葉自体を削除した。

 文科省は「もともと明確な定義がなく、誤解や混乱がみられる。男女共同参画社会とは違い、適切な言葉ではないと考えている」と説明する。

 ジェンダーフリーは、社会的・文化的な性差(ジェンダー)の解消を表す和製英語。80〜90年代に男女共同参画政策を推進する標語として使われた。一方で、東京都教委は04年8月、「教科書の中には『男らしさ』や『女らしさ』を否定するような意味で用いているものもある」と批判して都立高で用語使用を禁止するなど、教育現場で波紋を広げている。

今日付のジェンダーとメディア・ブログにも関連する話題が出ています。本当は,ジェンダーをunlearnする(いったん学んで捨てたり選び直したりする)というのが一番正しいやりかただと思うのだけれど……。

わたしにとって看過できないのは下記。

 ◇リプロダクティブライツ、「男性にも」に修正

 性と生殖に関する女性の自己決定権として使われることが多い「リプロダクティブライツ」には、検定意見が相次いだ。各出版社が修正で「世界全体で認められた権利ではない。男性も持っている」との内容を盛り込んだため、時事用語で使われる意味とずれが生じた。

 リプロダクティブライツは、94年のカイロの国際人口・開発会議で採択された行動計画に取り入れられた概念。特に、妊娠や避妊に関して社会的圧力や強制を受けた発展途上国の女性の地位向上との関係で注目され、95年の北京世界女性会議や女性2000年会議でも重要課題となった。

 現代社会や家庭科では、「誤解するおそれがある」との意見が相次いだ。文科省は「女性だけの権利ではない」と説明している。

 現代社会で修正に応じた出版社の編集者は「修正後は、ニュースで聞くのとは違う別の言葉だ。何を言いたいのか分からない記述になってしまった」と話した。

そもそも教科書に「何を言いたいのか分からない記述」があっていいのか? そうまでして事実を歪曲したいのか? と,腹が立つ。さらには「ジェンダー」や「リプロダクティブライツ」といったリスキーな言葉を避けても,以下のような顛末になる……。

 ◇「太古は男女平等?」差し替え

 ◇検定意見「家庭基礎の範囲外」/編集者「社会的性差、考えさせたかった」

 家庭内での男女の地位について考えようと、東京都内の出版社が家庭基礎に掲載した「太古の昔は男女平等?」と題するコラムに、「内容が地理歴史の学習指導要領内」との検定意見が付き、全面差し替えになった。編集者は「ジェンダーや家族のあり方を巡って検定が敏感になっている中、思いがけない検定意見で差し替えになってしまった」と話す。

 コラムは、「家族とともに」の章に「発展」として掲載された。「古代、夫婦は一緒に住まず『通い婚』で、お互いに恋する気持ちがなくなれば自然に消滅した」「生活は一族の中での助け合いを基礎としていたので、男女が主従の関係にはならなかった」という内容の記述がある。また、挿絵には一夫多妻制、通い婚が認められていた平安時代の「源氏物語」の絵巻が使われている。

 編集者は「ジェンダーという言葉は使わないで、社会的な性差について考える教材にしたかった」と話す。しかし「家庭科の学習指導要領外」との意見が付いた。結局、家族関係について法律でどう解決するのかを探る「民法の条文を読んで、調べてみよう」と題したコラムに差し替えて合格した。

仮に内容のことは置いておくにしても,自分で考えさせるのではなく,「既存の法の考え方」に答えを求めさせる教育だなんて……なんかすごくない? お上の考えることに答えがあるという思想統制が始まってるの?? 娘を学校にやるのが怖くなる……。

石原千秋氏は『国語教科書の思想』で国語が広い意味での道徳教育だと主張なさっています。一方,家庭科もまた「あるべき家族像・女性像」を刷り込むのに大いに使われてきたようです。個人的には,図書館で見つけた酒井はるみさんの『教科書が書いた家族と女性の戦後50年』が面白かったです。リプロ的な興味で見ていくと,臆面もないほど国家の人口政策と直結していることが見て取れます。その話はいずれまた。