リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ちょっと考えさせられる本があったので,抜粋訳しておく。

リプロダクティヴ・フリーダムを主張する人は,家族計画による社会的善と,特定の社会的結果を狙った家族計画を区別する必要がある。優生思想は,その目的が女性たちの産む子がより健康であるようにすることであり,なおかつその方法が自発的なものである限り,間違っていたわけではない。優生思想が間違った方向に進むのは,特定の人々のみが再生産することができるとか,それを実施するのが政府の義務だと言ったりする時である。私的で自発的な優生思想は論議の対象ではない。女性たちが健康な子どもを求めるのは自然なことである。一部の女性や男性にのみ子どもをもつ自由を否定する公的に義務づけられた優生思想が,ホロコーストなのである。

Alexander Sanger, Beyond Choice, 2004:68.(訳:塚原久美)

著者は産児制限運動で有名なマーガレット・サンガーの孫息子。ご自身も確かIPPF(国際家族計画教会)の重鎮だったのでは? 「社会的なリプロダクティヴ・ヘルス」なんて言葉も飛び出し,すごく危うそうなところもあるけど,「マーガレット・サンガーは優生思想家だからダメ」といった画一的な見方では目の届かないところにスポットを当てているのが,かえって新鮮だったりする。

ついでなので,この本で初めて知った話を少し。

AMAアメリカ医師会)が19世紀半ばに中絶反対のキャンペーンをくり広げたときに,Know-Nothingsというその頃,勢力を増しつつあった土着主義(nativists)の政党が関与していたのだそうな。Know-Nothingは,アングロ・サクソン系のプロテスタント社会を守るために,アイリッシュカトリックの新参の移民が増えることに反対していた。当時のアメリカで増加しつつあった中絶や避妊の担い手は,たいていアングロ・サクソンプロテスタントたちであり,新参の移民たちはそれをやらなかった(つまり彼らばかり増えようとしていた)。そこでKnow-Nothingsを初め白人プロテスタントヘゲモニーを守りたい人々は,中絶と避妊を禁止しようとした,というのである。こちらは民族が絡んではいるものの,発想としては逆淘汰を怖れた優生思想家と全く同じなんですね。