リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

生命倫理事典』にさえ載っていなかったことにびっくりしたので,紹介しておこうと思います。

1987年,ジョージワシントン大学のメディカルセンターで,妊娠26週で持病の癌が悪化したアンジェラ・カーダーは,自分も家族も希望しなかった帝王切開を裁判所命令で強制された。13歳から闘病生活を送ってきたアンジェラは,自分が帝王切開に耐えられるとも,胎児が無事に生まれるとも考えておらず,家族もアンジェラの意志を尊重し帝王切開を望んでいなかった。だが胎児の生命への権利を理由に医療過誤で訴えられることを怖れたメディカルセンターの要請で,裁判所でヒアリングが行なわれることになった。だがそのヒアリングには彼女の主治医は招かれず,胎児の生き延びる確率が60%(健康体の妊婦の場合より若干低い程度の数値)だと述べた小児科医の証言が採用されて,帝王切開の命令が下された。アンジェラの治療を長年担当してきた主治医は後に,自分が呼ばれていたらアンジェラも胎児も帝王切開を生き延びられないと証言していただろうと述べた。彼女は手術の直前まで「やらないでほしい」と言い続け,帝王切開の2時間後,娘の死を知らされて泣き崩れ,ほどなく自身も永眠した。この事件は,女性のリプロダクティヴ・ヘルス保障の試金石となった。1990年,同メディカルセンターは,妊婦のリプロダクティヴ・ヘルスの観点から,妊婦に対するインフォームド・コンセント,プライバシーの権利,身体的統合性などの権利に関するガイドラインを発表した。

オンラインで読める資料:
The Rights of Pregnant Patients
Carder Case Brings Bold Policy Initiatives
HealthSpan, Volume 8, Number 5, 1991
By Terry E. Thornton and Lynn Paltrow
http://www.advocatesforpregnantwomen.org/articles/angela.htm


The Case of Angela Carder
Adapted from the Journal of Medical Ethics . 1996; 22: 327-333.
http://www.mcg.edu/gpi/Ethics/ph2syllabus/lessons/Lesson5.htm


Coercive and Punitive Governmental Responses to Women's Conduct During Pregnancy (9/30/1997)
http://www.aclu.org/reproductiverights/gen/16529res19970930.html


Friday :: March 12, 2004
Woman Who Refused C-Section Charged With Murdering Fetus
http://talkleft.com/new_archives/005630.html


Hospital Sets Policy on Pregnant Patients' Rights
By LINDA GREENHOUSE, SPECIAL TO THE NEW YORK TIMES
November 29, 1990 U.S. News
The Fruit of Angela Carder's Agony
December 8, 1990
http://topics.nytimes.com/top/reference/timestopics/organizations/g/george_washington_university/index.html?s=oldest&offset=20&inline=nyt-org


目次だけですが,日本語の資料も見つけました。

胎児と生命倫理  金城清子
  医学の発達と新たな倫理的問題の登場
  強制的な帝王切開は違法....アンジェラ・カーダー事件
  最も基本的な人権としての身体の自由
  最終的な決定者は妊娠している女性
  妊娠している女性こそ,胎児の利益についての最前の判断者
  強制は良好な医師と患者の関係を破壊する
  望まれる女性への信頼とサポート

『図説産婦人科VIEW37』 産科治療 出生前診断と胎児治療―先端医療から臨床へ (図説産婦人科VIEW)
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