2006/10/8に私のからだから合宿で発表した際の資料の一部です。引用の際には,下記の発表資料であることを明記してください。
SOSHIREN主催 女のからだから合宿 2006年10月8日
分科会 ザ・中絶〜嘘と沈黙を超えて
発表題目「中絶という罪の構築」
金沢大学大学院社会環境科学研究科 塚原久美
なお,発表時の資料に若干手を加えた部分があります。
「胎児」観の変遷
エンブリオロジー以前
前成説〜ホムンクルス仮説など,子宮のなかに最初から「小型の人間」がいるとする説
後成説〜徐々にかたちが形成されていくとする説
卵子の発見1826 バイアーの卵子の発見→エンブリオロジー創設
1875-79 ヘルトウィフィ,フォルによる精子の発見
以後,エンブリオロジーが盛んに
→1940年頃までに ヒト発生標本の完成
胎児治療の開始
1960-70s 分娩監視装置の登場(ドップラー,エコーetc.)(c)K.Tsukahara 2006/10/8
※バイアーの卵子の発見は,人間を含む胎生動物の発生の仕組みが解明される端緒となった。その後の精子の発見とは,受精過程の発見を意味している。
- 胎生学(医学用語)→発生学に同じ。
- 発生学(生物学の一分野。生物の個体発生を研究する科学。手法や対象などにより,実験発生学・比較発生学・発生遺伝学などに分けられる。
〔広辞苑第5版〕
・様々な動物の種にはある共通した発生の段階があり,外胚葉と中胚葉,内胚葉が層を成す有機体に他ならないことを明らかにした
(c)K.Tsukahara 2006/10/8
※「胎生学」の定義が「発生学」に依拠しているのは,「発生学」という言葉が先にあったためだと考えられる。胎生学が医学,発生学が生物学の用語であることに注意。
ヒト標本完成前の発生学/胎生学
ここにはコピーできないが,発表時の資料では魚,鶏,豚,ヒトの初期胚と後期胎児を並べて描いた図を示している。4種とも初期胚はそっくりだが,後期胎児は成体に近い。
初期のエンブリオロジストたちが驚きとともに見出したのは,通常,卵から成長するとは考えられていない豚や人間も,当初は卵から始まるということ,しかもそれが魚や鶏とも共通した成長過程を経ていくことであった。当初,エンブリオロジーは生物学分野の学問だった。
図の出典:New Webster's Universal Encyclopedia, Bonanza Books, 1987:327.
カーネギーのヒト発生標本
図の出典: http://embryo.soad.umich.edu/carnStages/carnStages.html
上記標本の排卵後の日数(産科学の妊娠週数):No.13=28日(妊娠6週)〜No.23=56日(妊娠10週)
※カーネギーのヒト発生標本が完成したのは1940年頃と言われる。この標本の完成後,生物学者たちの「発生」への興味は急速に失われた。その一方,第二次世界大戦後の医学教育(日本を含む)では,もっぱらこの種の標本が用いられるようになった。戦後,日本語でエンブリオロジーを「発生学」ではなく「胎生学」と訳すようになったのも,そうした関心の変化の現われであろう。つまり,人間の発生を他の動物との類比で説明することはなくなり,ヒトの卵子から成体としての人間までの連続性でもって説明されるようになった。*1