リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶にまつわる権利

リプロダクティブ・ライツの重要な要素のひとつに中絶にまつわる権利があります。Beijing and International Law: UN Treaty Monitoring Bodies Uphold Reproductive Rights(2005)から、中絶(abortion)の項を訳してみました。原文はこちら

中絶(abortion)

北京会議の行動綱領パラグラフ106(k)は、1994年の国際人口会議で中絶に関して採用された表現を再確認している。そこでは主に危険な中絶がもたらす衝撃と、家族計画サービスの拡大を通じて中絶という手段への依存を減少する必要性に注目している。そこでは、望まない妊娠をした女性たちに対して、信頼の置ける情報と、思いやりに満ちたカウンセリング、そして中絶が違法でない場合には、安全な中絶サービスを得る権利を認めている。さらにそこでは、中絶を求める女性たちに対して、質の高い中絶後のケアとカウンセリング、ならびに繰り返し中絶の防止を狙った教育と家族計画サービスへのアクセスを与えることを強調している。最後に、そこでは各国政府に対して、「違法の中絶を受ける女性たちに対する懲罰措置を含む法の見直し」を求めている(11)。


いくつかの条約監視機関は、違法の、および危険な中絶に関して、人権侵害の可能性をほのめかしている。人権委員会(HRC)、経済社会文化的権利委員会(CESCR)、女性差別撤廃委員会(CEDAW)、子どもの権利委員会(CRC)は、違法の中絶と危険な中絶ならびに高い母体死亡率とのあいだに重要な関連があると見なしている。上記の委員会は、危険な中絶に起因する高い母体死亡率は、女性の健康と生命の権利の侵害であることを明示的または暗示的に述べている。(12)


2004年、人権委員会ポーランドの定期報告への回答で次のように述べた:


当委員会は、ポーランドの規制的中絶法が女性たちに危険で違法の中絶を求めさせ、彼女たちの生命や健康が危険にさらされている可能性に深い懸念を寄せていることを再度宣告する。さらに当委員会は、たとえばレイプの結果としての妊娠の場合など法的に許容されていようとも、良心的拒否条項の使用によって合法的中絶の遂行を拒否する医療従事者に関する情報が欠如しているために、現実的に中絶が受けられない状況であることにも懸念を寄せている。当委員会はさらに、違法の中絶とそこに関わった女性当事者の結末に関して情報が欠落していることに遺憾の念を示す(6条)。

国家は中絶に関する法規と慣行を自由化すべきである。国家は医師による良心的拒否条項の使用に関する情報を開示し、ポーランドで実行されている非合法中絶の実数をできる限り明らかにすべきである。議会で審議されている親への通報法案についても、この勧告を念頭におくべきである。(13)


2004年のチリの報告書に対して、拷問禁止委員会(CAT)は次のように述べた。


違法の中絶の結果、緊急医療を求める女性に対して、訴追の目的で自白を強制する慣行をなくすこと、そのような証言が証拠として提出された場合には有罪判決について調査と見直しを行い、条約に一致しないような有罪判決を無効とするなどの修復措置を採ること。世界保健機関(WHO)のガイドラインに従い、国家はそのように緊急措置を求める人物が即時に無条件で治療を受けられるよう保障すべきである。

注:
(11) Beijing Declaration and Platform for Action, supra note 1, para. 106(k).
(12) Bringing Rights to Bear, supra note 4, at 156.
(13) Concluding Observations of the Human Rights Committee: Poland, 82nd Sess., 2240-2241st mtg., para. 8, UN Doc. CCPR/CO/82/POL/Rev. 1 (2004).