リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

赤ちゃんポスト1年目

熊本市の慈恵病院で「赤ちゃんポスト」を開始したのは、2007年の5月10日。1年目になるこの制度について、NIKKEI NETが次のように報じています。

赤ちゃんポスト、1年で16人・妊娠に悩む母、相談も急増

 養育が困難な親から匿名で乳児を受け入れる慈恵病院(熊本市)の「赤ちゃんポスト」(こうのとりのゆりかご)の運用開始から10日で1年。預けられた子どもは少なくとも16人にのぼるとされる。「子捨てを助長する」との批判もあるなか、「命を救う最終手段」としてスタートした試みは、周囲に相談できないまま妊娠に悩む母親の存在を浮き彫りにした。

 2006年11月に慈恵病院が「新生児の産み捨てや不幸な中絶を減らしたい」と設置計画を発表。当時の安倍晋三首相が「大変抵抗を感じる」と表明するなど批判や反発の声も多く上がるなか、昨年4月に熊本市が設置を許可、同5月10日正午から運用が始まった。(07:00)

こうした赤ちゃんポストの出現で、不慮の妊娠にみまわれた女性たちの行き場のなさが表面化したと言えるでしょう。相談できる場所はもちろん、「産むという選択」を画餅にしないためには、具体的な支援をする機関も必要です。

逆に、性教育が不足でいいかげんな避妊が横行しており、バックアップ中絶が蔓延していながら、その一方で中絶へのスティグマが非常に強いこの国では、たんなる「生命尊重」のかけ声だけでは悩む女性たちを救うどころか、へたをすると、彼女たちをかえって追い込むばかりです。

若年層(そのほとんどが未婚者)の中絶比が増加している今、「産まない選択」をした女性が、将来的に「産む」ことは大いにありえます。周囲が「中絶する女は母性に欠ける」と決めつけることで、彼女たちにスティグマを与えることは、後の妊娠・出産・育児に悪影響が及ぶ恐れがあります。

十全に「産む選択」をサポートした上で、それでも当人や周囲が「産まない選択」をする場合もありえます。そのときには、中絶の事前事後の心身のケアや今後のための避妊教育など、きめ細やかな対応が必要になるでしょう。

それ以前に、「妊娠したかどうか」が不明な時点で行える月経吸引等の導入も、もっと真剣に検討すべきではないかと思います。ここらへんのことが、日本ではあまりに議論がなされていないように思います。