リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

イタリアでもRU486解禁

ローマ法王のお膝元、イタリアでもいよいよ来年から中絶薬RU486(ミフェプリストン)が解禁されるようです。以下、本日付AFPニュースで見つけました。

【12月16日 AFP】イタリアで来年2月から経口中絶薬「RU486」を国内の病院で入手可能になるとの計画について、ローマ法王庁は14日、激しく批判した。この薬をめぐっては論争が続いている。

 保健担当報道官のJavier Lozano Barragan枢機卿はイタリアの通信社ANSAに対し「受精の瞬間から胎児はさまざまの権利を備えた人間であり、中絶は罪のない人の命を奪うことだ」と語った。

 イタリアの薬事監視機関はRU486を2008年2月から使用することを認め、市場販売に向けた最終手続きのため、次週、会合を開く。

 RU486を製造しているフランスのExelgyn Laboratoriesは、この薬で妊娠7週まで堕胎が可能だとしている。

 05年にRU486がイタリア国内の3か所の病院で実験的に使用された際、カトリック教会や保守派団体から抗議の声が上がった。

 RU486は病院でのみ取り扱われる。いくつかの欧州連合EU)加盟国ではすでに認可されている。

 イタリアでは1978年に中絶が合法化されたが、中絶に強硬に反対するバチカンからの圧力で、医師らが「良心に基づいた忌避」を理由に人口中絶手術を拒否することができる。

 最近の調査によると、良心を理由に中絶手術を拒否した産婦人科医は03-07年で58.7%から69.2%に増加した。(c)AFP

最後に良心的拒否の問題に触れていますね。WHOでは、良心的拒否は「女性にとって他に選択肢がある場合」のみ有効だとしています。また「手術」の拒否は薬の処方の拒否とは話が別だという点に注意が必要です。薬の処方という方法が出てきたので、医師たちはもともとやりたくはなかった「手術」を回避したがるようになったと読むことも可能でしょう。また上記によれば「バチカンからの圧力で」そのような動向が産まれているという指摘にも注意を喚起しておきます。

この薬の導入は、わたしの論文でも重要な位置を占めています。わたしの基本的なスタンスは、女性をモラル・エージェントとして扱うべきだというものです。不本意な妊娠をした女性に真の選択肢を与えるためには、偏りのないカウンセリング、産み育てていくための十全なるサポート(その一部には妊娠させた男性に対する扶養義務などの制度も含まれます)を行う一方で、薬理的中絶(medical abortion)や早期手動吸引(月経吸引)などの安全性が確認されている処置をより広いヘルスケアの中で提供することが必要になります。つまり、いわゆる薬の「解禁」だけでは全く不充分であり、女性のリプロダクティヴ・ヘルスを守る立場から、生殖コントロール技術の提供のされ方をも抜本的に見直していく必要があります。

なお、RU486を安全に処方するためには(妊娠週数や子宮外妊娠でないことの確認など)いくつかのポイントがありますが、それは必ずしも産婦人科医でなければ判断がつかないというものでもないようですし、月経吸引がコメディカル・レベルで提供できる技術であることは、以前、ご紹介したとおり、国際助産師会がこの技術の導入の方向で動いていることからも分かります。訓練を受けたコメディカルにも、こうした技術の提供を広めていくことは、女性にとってはよりアクセシビリティが高まることを意味します。

RU486の投与も月経吸引も、世界的に安全性が高いと確認されているれっきとした医療行為です。そうである限り、保健医療のなかでインフォームド・コンセントに基づく複数の選択肢のなかに位置づけられるべきです。そして、自らの妊孕力をコントロールすることが、ジェンダー差別が現にある今の社会に生きていく女性にとって非常に重要なことである限り、そうした技術の使用の可否を判断するのは当の女性でなければならないと、わたしは考えています。