リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

本人の受精卵が妊娠に至った可能性も否定できず

本日付NIKKEI NETにあった記事です。

受精卵3個を女性に移植 規定違反承知で 香川の取り違え医師

 香川県立中央病院(高松市)の受精卵取り違えで、川田清弥医師(61)が昨年9月、多胎妊娠を防ぐための日本産科婦人科学会の倫理規定に違反すると認識しながら、人工中絶した20代女性に、本人のものを含む3個の受精卵を移植していたことが23日、分かった。

 多胎妊娠は胎児にも妊婦にも危険が大きいため、学会は昨年4月、妊娠可能な同じ期間に移植する数を「原則として1つ」と定めている。

 川田医師は昨年9月、2度に分けて計3個の受精卵を女性に移植。うち1個は別の患者のものの可能性が高いが、残り2個は女性本人のものだという。本人の受精卵が妊娠に至った可能性も否定できず、親子関係を十分に確認せずに中絶した問題点もある。

 取材に川田医師は「(規定に)抵触するのは分かっていたが、妊娠率を上げるためにやった」と説明。ずさんな治療実態があらためて浮き彫りになった形だ。〔共同〕(07:00)

ここに再掲するのは、被害者の女性に対してとても申し訳なく思います……でもわかってほしい。より多くの人がこの問題を真剣に捉え、より良い方向を模索していくようにならなければ、状況は変わっていかないのだから。どうかどうか彼女の心を誰か支えてあげてくださいますように……心から祈っています。

そしてわたしは、この問題が、あくまでも「システム」の問題でしかないかのようにマスコミが取り上げていることについて、異論を唱え続けます。「ずさん」でなければ良かったのか? きちんと品質管理し、ミスがなく、適切にやれば「良いこと」だったのか……? IVFを使ってまで妊娠することは女性にとってどのような意味があり(どのような意味をもたされており)、女性にとってその受精卵は、胎児は、どういう存在であったのか? (どういう存在であると社会的に構築されており、彼女はいかにそれを内面化しているのか? 違和感をもっているのかいないのか?)

そうしたことが、すべて被害者のメンタルヘルスに大きく影響しているし、エンタイトルメント意識(法的な権利ではなく、自分は何を与えられるべきかと当人が感じているという意味での権利意識)にも関わっている。

彼女はリプロダクティヴ・ライツを明らかに侵害されました。リプロダクティヴ・ライツは人権です。ところが、日本ではそういった議論は全く見ません。この人権侵害について、もっと議論していく必要があるはずです。