リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

世界の中絶事情あれこれ

先週、スリランカからのホームステイ・ゲストのお別れパーティに出たのだけど、それで思い出して、国連のAbortion Policiesを眺めていた。スリランカを初め、世界193か国(数え間違えてなければ)の情報がここにある。

この情報は、武谷雄二先生の平成19年度総括研究報告書の資料として訳されているのだけれど、よく見たら全部ではなく100か国分しか訳されていなかった。日本同様に「身体的健康」では中絶を許可しているのに、「精神的健康」では中絶を許可していないチャド、モルディブジンバブエの3か国*1については、翻訳されていなかった。

この3か国について、外務省やウィキペディアで調べたことをざっとまとめておく。

チャド共和国 人口1120万人 イスラム教51%、キリスト教35% HDI 170位、GDI 152位*2
ジンバブエ共和国 人口1252万人 キリスト教部族宗教の混合が50% 国民の3割がHIV感染 HDI 100位、GDI 85位
モルディブ共和国 人口30.5万人(2007) イスラム教 HDI 151位 GDI 130位

ご覧のとおり、HDI7位、GDI13位の日本とは全くタイプが異なる国々ばかり……。

ちなみに、Abortion Policiesにおけるチャドの情報では、身体的健康についての中絶も許可されていなかったのだが、下記の最新情報によると、ベニン、チャド、ニジェールトーゴの4か国は、身体的健康への適用が拡大されたらしい(12ページ)。

Facts on Induced Abortion Worldwide

October 2009
WORLDWIDE INCIDENCE AND TRENDS

人間の「健康 well-being」というのが、単に身体的なものでないことは、くり返し確認されている現代において、なぜ、あえて「身体的健康」を理由とした中絶のみが許容され、「精神的健康」の適用が除外されているのか。それぞれの国のジェンダー状況や中絶合法化時の議論を細かく追えば、共通点が見えてくるかもしれないけれど、現地語が分からないと、そこまではなかなか……。

ちなみに日本の男女の推定所得は、女性が男性の半分以下(45%程度)で、その格差は上記3か国よりも大きい。スペインやイタリアは女性が男性の約半分、韓国は40%を切っている。("Human Development Report 2007/2008")男女の力関係は、中絶法規や慣行に影響しているのではないだろうか……。

Abortion Policiesによると、韓国では中絶は避妊のバックアップではなく、家族計画の主な手段になっているという。

表現型が違っても通底するものは女性差別ということか。

*1:この3か国の抽出は、武谷雄二『全国的実態調査に基づいた人工妊娠中絶の減少に向けた包括的研究』の資料「世界各国の中絶制作一覧 2007年版」に基づく

*2:HDIはHuman Development Index、GDIはGender-related Development Indexで、"Human Development Report 2007/2008"を参照