リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

韓国で中絶論争

ここ数年、韓国で中絶を巡る論争が盛んになっています。先月上旬に「プロライフ医師会」が違法中絶を常習的に行っている産科医院を告発したことで、医師のあいだでの対立も明白になっています。

日本語で読める記事をいくつかご紹介します。
【時論】違法な妊娠中絶への取締りに異議を申し立てたい

「一生シングルマザーのレッテル」がけっぷちの未成年者

【週刊韓(カラ)から】韓国で「中絶論争」 女性の権利VS胎児の権利

最後の記事(週刊韓(カラ)からの「中絶論争」)の後半に、次のような話が出てきます。

 こうした「中絶大国」(韓国メディア)の汚名をすすぐため、昨年10月、700人近くの若い産婦人科医ら「本当に産婦人科を心配する医師の集まり」(真OB)を結成し、中絶根絶運動に乗り出した。その傘下の「プロライフ医師会」が2月上旬に、常習的に違法中絶を行っている3カ所の産婦人科医院をソウル中央地検に告発した。

 プロライフとは「生命支持」という意味で、胎児の生命を守ろうという意思を示している。プロライフには現在、30〜40代の若手を中心に産婦人科の開業医600人余りが会員として登録。韓国全体で約3000〜4000人の産婦人科の開業医がいるとされ、決して少なくない数だ。「真OB」や「プロライフ」は、特定の宗教や信条とは無関係としている。

 この告発騒ぎに女性団体などが「望まない出産を女性に強いることはできない」「中絶は女性自身が選択する問題」「韓国社会には婚外妊娠を道徳的に問題視する社会風潮が残るため、中絶を選択するしかない」と反発。中絶に関する自己決定権は、幸福追求権に当たると主張している。

 一部の女性学者らは、韓国では「中絶」という言葉でなく、不道徳的なイメージが強い「落胎(堕胎)」を一般に使っていることも問題視。女性の権利の行使を表す「中絶」と呼ぶべきだとしている。

上記では「中絶に関する自己決定権」を「幸福追求権」としています。しかし、リプロダクションに関わる事項を自分で決定する権利は、人権としてのリプロダクティヴ・ライツの二本柱の一つであり、その後ろ盾として人権宣言、自由権規約社会権規約女性差別撤廃条約があるのですから、韓国がこれらを批准しているなら、こうした国際規約に反しているということを主張したほうが良いように思われます。

また、「中絶」と「堕胎」については、日本でもほとんど混同されていますが、「堕胎」とは刑法で禁止された行為であり、「人工妊娠中絶(中絶)」とは日本では母体保護法、韓国では母子保健法によって合法的に行われる行為のことを指します。

つまり、「中絶」は「女性の権利行使を表す」というよりも、「違法でない」もののこと。そう考えると、韓国の女性団体は、「中絶であるべき行為を堕胎にしている法律がおかしい」と批判するのが妥当のように思われます。