リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

韓国の中絶事情

最近、韓国のフェミニスト・ジャーナルILDAから取材を受け、記事が掲載されました。原文はハングルなので、日本語版の提供を受けました。許可を得て転載します。

原文「堕胎罪廃止する時期に韓国では告発だなんて」

日本語訳:堕胎罪廃止の時期に、韓国では告発だなんて


日本の女性ら‘堕胎罪’ 廃止運動中

女性主義ジャーナルILDA

 リム・ヘヨン ユン・ジョンウン

 現在、日本では女性たちが 刑法・堕胎罪廃止運動をしている。韓国と違い、日本は母体保護法(韓国の母子保健法に相当する) に「経済的事由」条項があり、姙娠 22週未満では人工妊娠中絶が合法的に成り立つ。それにも関わらず日本の女性たちが堕胎罪廃止運動をするのはどうしてだろう?それは、刑法では相変らず 堕胎を禁止しているからだ。


2009 国連女性差別撤廃委員会 “堕胎罪廃止” 勧告

 韓国でも母子保健法上には制限的に ‘人工妊娠中絶’を許可しているが、刑法では相変わらず厳格に 「堕胎」を禁じているためだ。これと関して 2009年国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は日本政府を相手で刑法上 ‘堕胎罪’ 規定を廃止することを勧告した。そして今日本では ‘堕胎罪廃止’ 署名運動が展開されている(www.shomei.tv/project-1442.httml)。過去の歴史で、すでに日本では、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツと直結した法案に対し、女性運動と障害運動が連動し、法改正を導き出した経験がある。日本は 「堕胎罪」を禁止する刑法とともに、女性たちの人工姙娠中絶を許容する内容が含まれた優生保護法(1948年に制定)が存在した。優生保護法では 「経済的事由」で中絶を許容しており、女性たちは事実上、合法的に中絶手術ができたが、この法は 「不良な子孫の出生を防止する」という名目で障害者が出産できないようにする規定が含まれていた。


優生保護法改悪に対立し「女性運動と障害運動の出会い」

 そういった状況だったが、1982年何名かの政治家らにより、優生保護法に規定された 「経済的事由」条項を削除しようとする動きが起こった。人工妊娠中絶を禁止しようとするものだった。参院予算委員会でこの条項の削除を要求する政治家たちの質疑があったことを受け、日本の女性らが立ち上がった。女性らは政治家の優生保護法改悪の動きに反対し 「中絶を禁止するな!」と主張し、その結集された声はソシレン(SOSHIREN)という団体を結成するに至る。政治家たちの優生保護法改悪に立ち向かった女性運動は、障害者差別を理由に優生保護法自体に問題提起していた「障害者運動と出会い対話」するようになった。以後ふたつの運動陣営の連帯が大きな役割を果たし、1996年には優生保護法が廃止され、現在の母体保護法が制定された。

 したがって、母体保護法では優生保護法に存在した 「不良な子孫出生を防止する」という目的や 「特定障害者や疾病患者に実施する不姙手術,中絶手術」を規定する条項はなくなり、「経済的条項」はそのまま据え置いた。互いに異なる声を挙げていた女性運動と障害者運動が連帯を通じた声を挙げ、法改正を導いた事例だ。


プロライフ医師会の堕胎告発,時代錯誤的

 現在、日本では母体保護法の「経済的事由」 条項により、実質的に合法的な人工妊娠中絶が成り立っている。しかし、刑法上相変らず堕胎罪は存在しており、母体保護法と衝突している。また、刑法・堕胎罪が国際協約ともずれており、勧告を受けるほど、廃止されて当然だという声が弾みをつけている。皮肉なことに、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)から国際協約に違反しているという理由で日本政府が刑法・堕胎罪廃止の勧告を受けている同時期に、韓国では、プロライフ医師会が、現実と乖離した韓国でほとんど私文化された法だといえる刑法・堕胎罪を持ち出し、病院と医師を告発する事態が起きた。日本の女性活動家と関連研究者らは、韓国のプロライフ医師会の時代錯の動きに対し「自分決定権は国際的規範」であり、「韓国も国連女性差別撤廃条約批准国であるなら、堕胎罪規定をなくさねばならない」と口を揃えた。


「韓国の女性が安全に中絶できますように」

韓国の女性が、安全に中絶できますように

日本では 「経済的事由」で合法的人工妊娠中絶可能


女性主義ジャーナルILDA 

リム・ヘヨン ユン・ジョンウン

 プロライフ医師会の告発に触発された「堕胎」論争が伝わり、日本の女性たちが韓国で起きている状況に対し、至大な関心を見せ、「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ要求」に連帯意志を明らかにして来た。特に、人工妊娠中絶問題を研究して来た研究者と報道・関連団体活動家らは、日本の状況と自分たちの経験を例に挙げ 「韓国の女性が安全に中絶手術ができることを願う」というメッセージを届けてくれた。


「堕胎」の代わりに 「人工妊娠中絶」 用語使用が適切

 リプロダクティブ・ヘルス&ライツの研究をして来た塚原久美氏(金沢大学大学院)は 「日本でもそうだが、韓国でも 『堕胎』と 『中絶』という用語が混同されて使われている現実」を問題だと指摘した。韓国と日本は刑法で 「堕胎」を禁止している。これを破った時には処罰される。しかし、母子保健法(日本の母体保護法)では幾つかの事由を挙げ「人工姙娠中絶」を許可している。塚原氏は 「『堕胎』とは、刑法で禁止された行為(犯罪)を称する用語」であり、「一方 『人工妊娠中絶』は母体保護法(韓国では母子保健法)を通じて 『合法的』に行われる行為のことを言う」と説明した。国連を含め、リプロダクティブ・ヘルス&ライツを支持する団体と個人たちは刑法・堕胎罪を無くさねばならないと主張している。よって、罪としての 「堕胎」ではない、合法的に成り立つ 「人工妊娠中絶」が適切な言葉だというのだ。また塚原氏は韓国の市民社会で 「堕胎」(刑法)と 「人工妊娠中絶」(母子保健法) という言葉を分けて用いるよう勧めた。従って、日本の女性たちの経験を伝えるこの記事では中絶と表現していく。


竹内記者,21歳の時の自身の中絶手術経験を語る

 日本のフェミニズムジャーナル・ふぇみん記者の竹内絢氏(31歳)は韓国の現況を伝え聞き、自らが経験した人工妊娠中絶経験を話してくれた。当時 21歳だった絢さんは、妊娠事実を確認し、パートナーにそのことを知らせて病院へ行った。「中絶へのパートナーの同意が必要だ」とのことで署名し、母親にも電話で妊娠の事実を伝えた。絢さんの事例のように、日本の場合は母体保護法によって指定された医師(地域単位に設立された公益社団法である医師会が指定する医師)を訪ね、女性たちが 「安全に」 中絶手術を受けることができる。刑法上、堕胎が禁止されているにも関わらず、韓国とは違い、「日なたで」人工妊娠中絶手術を受けられるのは、人工妊娠中絶許容条項のためである。日本の母体保護法によると、妊娠22週未満で「身体的または経済的理由によって母体の健康を著しく害する恐れがあるもの」は 「本人及び配偶者の同意を得て人工妊娠中絶を行うことができる」となっている。


「経済的事由」 合法的人工妊娠中絶可能

★ここをクリックすると「刑法・堕胎罪の撤廃を求めている団体・ソシレン(SOSHIREN) 冊子表紙」を見ることができます。

 刑法・堕胎罪の撤廃を求めているグループ・ソシレン(SOSHIREN)の大橋由香子氏は 「日本では 『経済的事由』 条項があって実質的には中絶を合法化している」 のと同じと説明する。すなわち、「経済的事由」による人工妊娠中絶が可能なため、事実上、日本の女性たちは中絶手術を受けることに大きな困難がないということだ。ただ、人工妊娠中絶手術は保険が適用されないため、 10万円(約 80万ウォン) 程度が必要になる。絢さんの場合、「パートナーと半分ずつ負担」したし、その半分を母親から借りて準備したと言う。「当時、母は中絶することについて非難もしなかったし、私の決断を認めてくれた。ただ私の体を心配してくれていたと思う。」絢さんは 「病院で安全に手術を受けることができたことと、母からお金(手術費用)を借りることができた境遇に対して感謝していた。”と言った。 また絢さんは友達の前でも 「女性の健康と身体」に関連した集まりなどで「何度となく人工妊娠中絶についての話題が出る」と、何度か 「私、中絶したことあるよ。」と話したことがあるという。中絶経験のことを話した時、誰からも 「否定された記憶も、非難された記憶もない」という絢さん。3年前に、シェアメートが妊娠した際、「私が中絶経験があるから遠慮なく相談」して来て、お互いに「あれこれ話した」 記憶もあると付け加えた。


合法的手術が成り立たねばならない理由

 日本の女性が「経済的事由」条項のために人工妊娠中絶を安全にできるのとは違い、韓国は厳格な法・条項と「闇」手術という現実の間の間隙が大きい。法と現実が別々に動いているため、韓国には人工妊娠中絶についての正確な統計や記録も存在しない。さらに手術中に医療事故が起きても、解決する適当な方策を探しにくい。このような状況は、望まない妊娠をした女性が病院で安全に中絶できる権利を脅かす。日本では、人工妊娠中絶に関する公式的な統計が出ている。厚生労動省によると、2008年に行われた人工妊娠中絶件数は 24万2、292件。15~49歳女性人口に対する割合は 0.88%,出生100に対する中絶数の割合は 22.2件(全体の妊娠の中でおよそ 5人に 1人)だ。また、母体保護法では妊娠22週未満まで人工妊娠中絶をするよう許容しているが、90%を越える中絶手術が妊娠11週未満(初期中絶)に行われる。12週以降(中期中絶)に手術する場合(流産も含む)、胎児を死産すると死産届の対象になるからだ。


中絶の権利は 「女の人生において必ず必要なこと」

 ソシレン(SOSHIREN) 大橋由香子氏は 「「プロライフ」といいながら、生きている女性の命は大切にしない勢力によって、いま、韓国で安全に中絶を受けることが脅かされていると聞きました。」と憂慮した。大橋氏は「日本にも堕胎罪があり、子どもの数が減っていることに危機感をもつ政治家は、母体保護法の許可条件を狭めて、堕胎罪を適用させようと主張します。」と説明した。また、「避妊が大切なのはもちろんですが、それでも予期しない妊娠をして産めないとき、中絶は女の人生にとって必要なことです。中絶を非合法にして処罰することは、女の健康や命を奪うことにつながります。」と強調した。「韓国の女たちが安全に中絶できることを願います」と、「女が自由に自分の人生を選び、生きるために、共にがんばりましょう。」とのメッセージをくださった。