リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

1985年の衆議院外務委員会の記録から

偶然、こんな記録が出てきました。女性しか刑法で罪に問われることのない自己堕胎罪の規定が、女性差別撤廃条約に反するという話です。同様のことを国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)がくり返し指摘しています。国内でも25年も前にすでに指摘されていたのに、全然進展していないとは……驚きです。金子みつさんはすでに故人ですが、元社会党の議員さんですね。

第102回国会 外務委員会 第17号
昭和六十年五月三十一日(金曜日)

……
○金子(み)委員 
……
 次に、差別撤廃条約の問題について、具体的に入らしていただきます。
 差別撤廃条約の第二条の(g)というところを読んでみますと、時間がかかりますから読みたくないと思いますけれども、これは「女子に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止すること。」というところです。これに関しまして御意見を伺いたいと思いますが、何を私は言いたいかと申しますと、これを見まして、あ、それはこれだ、これをやれるじゃないかというふうなことを考えたわけです。
 それは何かと申しましたら、刑罰規定としての刑法の問題です。刑法の堕胎の罪というのがあります。堕胎罪です。刑法第二百十二条、ちょっと今資料が見当たりませんが、刑法の二百十二条。これは、懐妊した女性が薬を用いるかあるいはその他の方法で堕胎した場合に、たしか一年以下の懲役に処せられる、こういう条文がある。「懐胎ノ婦女薬物ヲ用ヒ又ハ其他ノ方法ヲ以テ堕胎シタルトキハ一年以下ノ懲役ニ処ス」という大変に厳しい条文がございます。これが今生きているわけですが、私が申し上げたいのは、優生保護法というのが一方にあります。この優生保護法の、できたときと違って改正が行われましたので、現在では、医師が優生手術を行うことによって人工妊娠中絶が合法的に実施できるようになっています。そうなりましたから、私は堕胎罪は成立しなくなったと思うのです。
 そこで、この条文をこのまま残しておくということは、その存在の意味がなくなっているということで、直ちに削除すべきだと思いますし、またこれが残っているということは、女子のみ処罰される差別だというふうにも考えられると思いますので、この点を改めていかなければいけないというふうに思いますが、法務省の御見解はどうですか。


○米澤説明員 お答えいたします。
 先生御指摘のように、刑法の二百十二条は、懐胎の婦女を犯罪主体といたしまして、その者が堕胎いたしますと、確かに一年以下の懲役に処するという現行法の規定がございます。ただ、先ほど、優生保護法が改正された結果として堕胎罪が成立しなくなったのではないかという御指摘について、まずお答えしたいと思います。
 先生御承知のように、優生保護法で医師が行い得ます人工妊娠中絶と申しますか、それは事実上の堕胎と言ってもいいわけでございますけれども、その場合の客体は、母体を離れては生存できないような、まだ成熟程度がその程度の胎児を客体といたしております。その上で、優生保護法第十四条の要件に合う場合だけ、医師が優生保護法によって人工妊娠中絶ができる、こういう構成になっておるわけでございます。
 他方、堕胎罪の客体になります胎児と申しますのは、自然に分娩期が参りまして、そして母体外に陣痛等があって自然に出産する、そういうふうな状態になる前に、人工的にこれを母体外へ排出する。したがいまして、胎児の成熟度の観点から申し上げますと、客体が少しずれるわけでございます。つまり、成熟程度がまだ母体を離れては生育できない、母体外へ出せば生存の見込みは全くないというような状態のときの胎児が対象になっておる。それから、優生保護法の十四条の要件に当たることが必要であります。
 したがいまして、十四条の要件に当たらない場合、これはもう堕胎罪の成否の関係からいいますと、まず堕胎罪が現行法がある以上は成立するということでございますし、それから、今申しましたような、母体を離れて生育し得るような程度にまで成熟した胎児を意図的に堕胎する、要するに母体外に排出するというようなことをいたしました場合には、優生保護法の対象からかけ離れておりまして、専ら刑法の問題になる、こういうことでございます。そこで、先生のおっしゃいますように、優生保護法の改正があったから刑法の堕胎罪は全く成立の余地がなくなったということは、この意味では当たらないかと思うわけでございます。
 他方、先生、もう一点御指摘がございました。この懐胎の婦女だけが罰せられるのは、婦人差別撤廃条約の精神に違反しないかという点を御指摘だろうと思いますので、その観点からさらに一言、二言つけ加えさせていただきますが、この堕胎罪の二百十二条だけをごらんになりますと、確かに懐胎の婦女だけが犯罪主体というふうに構成要件はなっておるわけでございます。
 ところで、この懐胎の婦女以外の男性が、この懐胎の婦女と一緒になってこのような行為をした場合、どういうことになるかと申しますと、その次の条文の二百十三条というのがございますが、同意による堕胎罪ということにまずなろうかと思うわけです。場合によってそれぞれ違いますが、男性が加功して、婦女の同意を得て、その婦女の胎児を人工的に流産させたというようなことになりますと、そちらの条文に参ります。そちらの条文の法定刑をごらんいただきますとおわかりのとおり、その場合は二年以下の懲役に処すということでございまして、懐胎の婦女みずからが堕胎した場合よりは一年多くなっております。つまり、罰則が倍になっておるわけでございます。
 さらに、同意による堕胎罪が成立しない場合でも、例えば、男性が懐胎している婦女に対しましてこれを唆して、彼女をして堕胎せしめた場合には、その罪の教唆犯なりあるいは幇助犯ということで、これまた男性も処罰されるわけでございます。男性が処罰されるという観点からは、女性と男性との間には、法律効果的には差がないというシステムになっておりますので、その意味では、婦人差別撤廃条約そのものの精神にもとるというような規定ぶりにはなっていないというふうに私ども考えております。


○金子(み)委員 その問題は議論したいのですけれども、時間があんなになっちゃったのです。大変残念ですが、これは別の機会にやらせていただくようにいたします。今のお話を伺っていますと、ケース・バイ・ケースみたいなふうにも聞こえました。要するに、胎児の月数の問題が問題になっているようですから、そうだとすれば、問題はまた別にあると思いますので、大変残念ですが、これはそれではペンディングにさせていただきたいと思います。
……

ペンディングにしたまま、議論は立ち消えになってしまったのでしょうか。お時間のある方はぜひ調べて教えてください。