リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

赤ちゃんポスト

昨日付でYOMIURI ONLINE讀賣新聞のサイト)に次の記事が掲載されました。タイトルは「未婚・世間体・不倫…赤ちゃんポストに年15人

 熊本市は25日、親が育てられない子どもを匿名で預かっている慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)に、2009年度1年間で15人が預けられたと明らかにした。

 運用開始後の3年間で最も少なく、累計では57人となった。

 内訳は、生後1か月未満の乳児が13人と大半を占めた。母親の身元が確認できたのは14人で、預け入れの理由は「未婚」「世間体」「不倫」など。母親が思い直して引き取ったケースもあった。
(2010年5月25日21時43分 読売新聞)

預け入れの理由のいずれも、「子どもを育てるには結婚が前提」だという規範の強さと、女性が一人で育てることがあまりにも困難な現実を反映しているように思われます。

上記は全国版ですが、以下の熊本版では「母親保護の仕組みを」とのタイトルで、赤ちゃんポストの理事長や看護部長が全国的に同様の整備が必要だと強調した記者会見の様子が報じられています。

 慈恵病院(熊本市)の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)への昨年度の預け入れ人数が15人と公表された25日、熊本市役所で記者会見した同病院の蓮田太二理事長と田尻由貴子看護部長は「相談業務と一体となったシェルター(一時保護施設)を全国に整備すべき」と強調した。

 田尻看護部長は、ゆりかごの利用実態について、「へその緒がついたまま預け入れられた子どももいた。預け入れに来た母親が途中で命を落とすようなことがあっては大変だ」と話し、妊娠や出産に悩む母親を緊急的に保護する仕組みづくりを急ぐ必要性を訴えた。

 また、預け入れが前年度より10人減ったことについては、子どもを抱えて病院を訪れた親の相談に乗り、預け入れを思いとどまらせたケースが多かったことを明らかにした。

 蓮田理事長は、預け入れられた子どものうち、1人の特別養子縁組が成立したことに触れ、「子どもは家庭で育てられるべきで、行政は積極的に特別養子縁組を推進してほしい」と話した。
(2010年5月26日 読売新聞)

特別養子縁組は子の福祉のために良い制度だと思います。しかし、この制度では産んだ母の戸籍に出産の事実が残るはず。未婚や不倫を理由に挙げる女性たちは、妊娠した事実そのものを隠したいはずなので、それは痛手でしょう。だからこそ匿名で捨てるという選択をしているのだという点を忘れてはなりません。

一方、未婚で出産した場合は父の名が戸籍に記載されず、孕ませた男性の側の戸籍は手つかずになるという不平等があります。そのため、この男女の生物学的非対称性を解消する制度を構築していく必要があるように思います。すでに遺伝子診断などで父親の特定は困難ではなくなっている時代なのですから、たとえば、自分が妊娠させたという事実を認めず、何の責任も取ろうとしない男性に対して「父性」診断を義務づけるような制度を作れば、自分の快楽のために避妊を怠り妊娠させたら逃げるだけというずるい男が減るのではないでしょうか。子どもの福祉のためにも孕ませた男性にも責任を取ってもらうほうが良いはずです。


◆追加情報です。毎日jpの九州版には、以下の通り熊本市長の見解がありました。タイトルは「赤ちゃんポスト:過去3年間で最も少ない15人 熊本市長、引き続き運用検証」です。

 ◇幸山・熊本市長、全国的な対応の必要性訴え

 慈恵病院(熊本市)が設置した赤ちゃんポストこうのとりのゆりかご)に入れられた子供は、過去3年間で最も少ない15人だった。同病院はホームページなどを通じて利用前の相談を強く呼びかけており、会見した田尻由貴子看護部長は「私たちのメッセージが届いた結果」と述べた。一方、幸山政史市長は全国的な対応の必要性を国に訴えていく考えを示した。【澤本麻里子、結城かほる】

 市が発表した利用状況によると、15人中10人の母親が医療機関で出産していた。田尻看護部長は「医療機関で出産した場合、出生証明書は病院が書くが、届け出は本人に任されている。照合・確認がされないから、ゆりかごに預けられても分からない」と現状の問題点を改めて指摘した。県の検証会議が提案した、医療機関からの妊娠・出産届出制度のような行政と医療機関が連携できる制度への改善を求めた。

 今後の運用について蓮田太二理事長は「現状を見ると設置しておかないと、助けられるものも助けられない」と話し、継続する考えを示した。その上で養子縁組を進めて、子供が新しい家庭で育っていくよう施策を講ずることを行政などの関係機関に求めた。

 その後、会見した幸山市長は「一人一人の命の重みと今後の人生に思いをはせて対応していかなければならない」と述べ、引き続き運用を検証していくとした。また、国に対しては今回の利用状況を説明し、全国的な対応の必要性を求めていくとした。

出生証明書と出生届の確認をするとなると、今度は医療機関での出産を避ける人たちが出てくる恐れはないのでしょうか。そうでなくとも、こうしたケースでは妊娠中のケアなどを受けずに来た人もけっこういるんじゃないかと心配になります。赤ちゃんの命を救うことは大切です。だけど、産む女性の人生と健康も重視しなくては。