リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ミフェプリストンで堕胎罪容疑

ついに懸念されていた事態が起こったか、という感じです。世界各地で妊娠7週までの初期妊娠中絶に使われている妊娠阻害薬ミフェプリストン(RU486)を適用外の時期に使用した女性が、病院に搬送され、堕胎罪に問われるという事件が起きました。

ミフェプリストンを用いた薬理中絶(内科的中絶)は、吸引による外科的中絶と並んで妊娠初期に安全に中絶を行える方法としてWHOも推奨しているのですが、妊娠中期に用いた場合の効果と安全性はまだ確認されていません。妊娠に悩んでいる女性には、決して真似しないでほしいです。

時事通信毎日新聞が次のように報じていました。まずは時事ドットコム

中絶薬服用、自ら堕胎=容疑で22歳女性を書類送検−警視庁

 国内で未承認の経口妊娠中絶薬を服用し、自ら中絶したとして、堕胎容疑で、警視庁新宿署が東京都内の無職女性(22)を書類送検していたことが19日、同署への取材で分かった。
 同署によると、自ら中絶した女性が同容疑で立件されるのは異例。
 送検容疑は昨年5月22日から24日の間、自宅で、インターネットで購入した経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」など2種類を十数錠服用し、6月27日、妊娠20週目の男児を堕胎した疑い。
 同署によると、女性は出血するなど具合が悪くなり、自ら119番し、搬送先の病院で中絶。病院から同署に通報があり、発覚した。
 女性は交際相手の男性から「中絶しないと付き合っていられない」と迫られていたといい、「別れたくなかった」と話しているという。
 薬は中国製で、北海道の業者から約2万5000円で購入した。(2010/11/19-18:30)

以下の毎日jpの方は署名記事で独自取材のようです。

堕胎容疑:未承認の中絶薬飲み 22歳女を書類送検

 インターネットで入手した国内未承認の経口妊娠中絶薬を飲んで堕胎したとして、警視庁新宿署は19日、東京都の無職の女(22)について堕胎容疑で東京地検に書類を送付した。

 容疑は、妊娠20週だった昨年6月27日午後4時25分ごろ、男児を堕胎したとしている。

 新宿署によると、女は昨年5月、中国製の妊娠中絶薬をネットで購入。自宅で飲んだが、激しい出血などで体調を崩し、病院に運ばれた。医師が同署に通報し発覚した。女は、交際相手から言われて中絶を決めたといい、「(費用面で)親に迷惑を掛けたくなかったので自分でやろうとした」と話しているという。

 捜査関係者によると、「通報に基づき捜査したが、加罰性は低い」として、起訴は求めていないという。

 母体保護法は医師が本人らの同意を得て人工妊娠中絶を行うことができるとしている。刑法の堕胎罪は、妊娠中の女性が堕胎した場合は懲役1年以下に処すると定めている。【袴田貴行】

毎日新聞 2010年11月19日 20時20分

時事によれば「自ら中絶した女性が同容疑で立件されるのは異例」であり、毎日によれば「起訴は求めていない」ということで、結局、刑法堕胎罪の空文化が改めて確認されることになるかもしれませんね。

なおミフェプリストンは日本では承認されていませんが、正しく使う限りは決して危険な薬ではありません。むしろ妊娠初期の中絶では掻爬手術に比べてはるかに安全であることが、世界では医学的にすでに確証されているということを指摘しておきます。

それにしても、妊娠がこれほど進んでから中絶を選ばざるをえなくなった女性は相当な葛藤を経験したのではないでしょうか。このような悲惨な事件が起こらないようにするためには、産めるようにするためのサポートを充実させることが重要ですが、それと平行して安全で確実な避妊/中絶方法へのアクセスを高める必要もあるように思います。