リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本の中絶 体に負担 WHO推奨法は1割

本日付朝日新聞朝刊に、わたし自身も参加している中絶問題研究グループによる調査の結果が紹介されました!

見出しは「日本の中絶 体に負担 WHO推奨法は1割」

記事冒頭は次のとおりです。

日本で行われている人工妊娠中絶では、世界保健機構(WHO)が安全と認めている「吸引法」は1割に過ぎず、事故が比較的起きやすい方法が8割を占めていた。
・・・中絶に関連した深刻な事故は、この5年で72件あった。WHOが勧める中絶薬も認可されておらず、日本の女性は体への負担が軽い手法を選びにくい実態が浮かんだ。

2003年にWHOが出した『Safe Abortion』という医療ガイドラインによれば、「拡張掻爬法(D&C)=いわゆる「掻爬法」」は、より安全な他の方法が使えない場合の代替法と位置付けられていました。(事後の追記:2012年に公表された『Safe Abortion 第2版』では、D&Cは「廃れた方法」、「吸引に置き換えるべき」と記載されました。)

だけど日本は、世界では「代替法」でしかない旧式な方法(「掻爬」)に、戦後ずっと(3分の2世紀以上)、相当な比率で頼り続けてきたのです。その間に、世界では、より新しくより良い方法が開発され、WHO(世界保健機構)までが、それら新しい方法の優位性を明らかに認めたというのに!

日本の医療レベルが、世界的に見て「高度」であるのは間違いありませんが、素人目に見ても、日本の中絶医療で行われている方法が「高度」だとは到底言えません。むしろ、現在取られている主流の中絶医療の中身を、国際的に「より良い方法」と明らかに認められている方法に変えていくことで、より安全性が保証され、より良い医療が提供され、その医療を受ける側にとっても、提供する側にとっても、より良い状況が得られるのではないか・・・と思わずにはいられません。

実際、今の日本の中絶医療における「事故」率が(世界に比べて相対的に)低いのだとしても、国際的に認められている方法(中絶薬および吸引中絶)をメインにしていくことで、現在の日本の低い事故率の記録をさらに更新し、コンマを1つか2つ下げることが可能になると思うためです。(もっと具体的に言えば、日本の中絶医療に、世界のスタンダードが採用されていれば、本来、遭う必要はなかった「事故」や「苦しみ」や「痛み」に遭わずにすむ女性が増えるということです。)

もし、万が一ですが、現行の日本で主流の方法が世界のスタンダード「よりも優れている」ということが科学的に立証されうるものなのであれば、ぜひそれを世界に示して、地球上における中絶医療のスタンダードをさらに改善するために、日本の産科医の知見を披露してほしいと思います!!

わたしたち・・・現行の日本の中絶医療を憂えている私やその仲間たちは、決して、「掻爬をやめて吸引にすればいい」とか、「中絶薬を入れれば万々歳」なんて思っているわけではありません。

あくまでも、人工妊娠中絶という、様々な意味で特殊で、倫理的問題もさまざまに絡み合う医療処置についてであろうとも、それを「より悪い形」、「より危険な方法」で受けさせる、という選択をするのは間違っているのではないかと思うのです。

その医療を受ける「患者」(その多くは、思わぬ妊娠に愕然とし、思い悩み、仕方なくその「医療」を受けている人々)にとっても、その医療を遂行する「医療者」(自分の良心にかけても、患者のためを思っても、より納得できる、より良い、ほんの少しでもマシな医療を遂行したいと思っている良心的な方々)にも、ぜひ検討しなおしていただきたいと思っています。
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