リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

後期中絶医のドキュメンタリー映画

msn.comの記事「後期中絶の医師に声与える『After Tiller』」]によれば、妊娠後期の中絶を提供しているアメリカの医師たちのドキュメンタリー映画「アフター・ティラー(After Tiller)」がサンダンス・フィルム・フェスティバルで上映されたそうです。

後期中絶施術医として知られながら2009年にプロライフ派の襲撃を受け殺害されたジョージ・ティラー(George Tiller)以後、今も後期中絶を続ける医師たちを描いたものらしい。日本以上に厳しい批判と敵意と身の危険に晒されるなか、今やアメリカでは後期中絶を行う医師はわずか4人しかいないのだとか。

 映画の共同監督を務めたマーサ・シェーン(Martha Shane)氏はこう語っている。「(攻撃の)標的となったり、毎日抗議を受けるという(医師らの)苦難は予想していた。けれど、これほど感情をすり減らすような仕事だとは思っていなかった。人生で最も辛い時期の1つをくぐり抜けている女性たちを相手にするのですから」

ティラー医師のかつての同僚であり、今も信念に基づき後期中絶を続けているスーザン・ロビンソン(Susan Robinson)医師は次のように述べたそうです。

「私のところに来る女性、特に悩んだ末に私を訪れた女性たちは、中絶が必要だという強い確信を持ち、国内だけではなくカナダやフランスからもやってきます。スーパーへの買い物がてらにたまたま見かけたクリニックに入ってくるわけではないのです。私がしていること、その全ての根底には、女性には倫理的な問いを自問自答し、自分にとって最良の決断をする能力があるという信条があります」

これはモラル・エージェント(道徳的判断主体)として女性を扱うべきというフェミニスト倫理学者スーザン・シャーウィンの主張とつながりますね。さらに、

 映画のもう1人の共同監督ラナ・ウィルソン(Lana Wilson)氏も「(ロビンソン氏は)医師なのであって、倫理の審判者ではない」と強調する。「彼女は患者の安全と健康を念頭に置いている。これは白か黒かという判断の問題ではなく、共感の問題です」

コロラド州で後期中絶を行っていることで知られるDr. Warren Hernのサイトによれば、後期中絶とは26週以降を指すそうで、日本では認められていません。そこまで中絶が遅れてしまった女性たちには、それぞれに重い理由があるのでしょうけど・・・何にしても痛ましい。

英文ですが、こちらで監督のコメントも読めます。後期中絶を受けにくる女性たちについて語っている部分をちょっと試訳してみます。

後期中絶を求める女性たちは決して傲慢な決定をしているわけではない。まさに絶望的な状況に置かれながら、これが最良の選択肢だと決断したのだ。

逆に言えば、日本のように後期中絶が認められていない国では、絶望的な状況にありながら中絶を得られない女性たちもいる・・・とも考えられます。それもまた痛ましいことです。