リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「中絶薬は危険」という誤解

2003年に大学院に入って以来,ずっと中絶問題を研究してきて,今,とても気になっているのは人工妊娠中絶薬(実際には流産を誘発する薬)ミフェプリストン(RU486)に関するひどい誤解が流通していることです。

インターネットを「中絶薬」で検索してみると,ヒットするサイト10件中,たいてい3件くらいが中国製RU486を販売するサイトで,あとはときたま正しい情報を知らせているサイトが1〜2件混じるだけ。残りは2004年の厚労省の報道発表資料と,その情報に基づいて「中絶薬の危険」に警鐘を鳴らす様々なブログやサイトの記事で埋め尽くされています。しかし,この「中絶薬の危険」にまつわる情報のほとんどが誤解に基づいています。

「中絶薬は危険」だという認識のほとんどが,先に触れた2004年の厚労省の報道発表資料と,そこで引用されている2004年時点でのFDAの警告に基づいているようなのですが,それは二重に間違っています。

まず,厚生労働省が危険だと注意を発したのは,あくまでも日本人向けに宣伝されているネット店舗で扱われている薬のことであり,そうした薬を個人輸入して,よく分からないまま使うことに対してなのです。

ミフェプリストンそのものが危険だというわけではありません。

また,今回は簡単に指摘するだけにとどめておきますが,中絶薬使用者の死亡という事件に基づいて,アメリカのFDAが2004年にミフェプリストンのラベルに「警告」を添付するよう命じたのは事実ですが,すでに過去の話です。この「警告」は,当時の死亡例とミフェプリストンとの因果関係がなかったことが後々解明されたことで撤回されており,ラベルに添付を命ぜられた「感染症の危険」という言葉も,今では完全に抹消されています。

なお,日本人相手に販売されている中絶薬のほとんどは中国製の薬であり,中国製の中絶薬は精度が低く,失敗率が高いことは,私が今年参加した国際会議でも多くの専門家が指摘していた事実です。

一方,欧米で正規のルートで(つまり医療機関を通じて)流通しているミフェプリストン(RU486)はとても安全な薬ですし,WHOの必須薬品リストにも掲載されているほど,女性の健康を守るために(安全な中絶を行えるようにするために)欠かせない薬でもあります。

ミフェプリストンをむやみに「危険視」することで,安全な導入の道(厚生労働省が認可し,日本の医療機関で使えるようにするという道)を閉ざしてはなりません。

世界の中絶方法のスタンダードと日本の遅れについては、過去ログ「女性への無関心と蔑視」も参照してください。