リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

【重要】中絶薬の安全性と違法性

残念ながら,中絶薬について,正しい情報と間違った情報が入り乱れているのが現状です。

現在,GoogleやYahooで「中絶薬」をキーワードに検索すると,最初に表示される情報10件のうち,2〜3件が個人輸入のネット販売業者の宣伝で,残りは正しい情報と間違った情報が半々くらいを占めています。こんな状態では,いったい何を信じたらいいの? と思う人も多いことでしょう。

そこで,ここでは十数年にわたって中絶問題を研究してきた私なりに,「中絶薬」の安全性と違法性について,できるだけ正しく簡単に説明してみます。

一般に中絶薬と言われているのは,1980年代の終わりくらいにフランスで開発されたミフェプリストンのことです。ミフェプリストンとは物質名で,開発名RU486で呼ばれることもあります。欧米では「ミフェジン」や「ミフェプレックス」という商品名で知られていますが,中国製では「息隠」などの商品があります。ただし,今や多くの国で後発品(ジェネリック)が出回っており,特にインド製や中国製では数多くの商品名があるようです。

まず安全性ですが,ミフェプリストンは,WHOの必須医薬品にも指定されている安全で確実な薬です。正しく使う限りは,とても安全な薬なのですが,アメリカで2000年に導入されてから,服用者が感染症によって死亡するという事故が若干数ありました。このことは特に中絶そのものに反対している勢力によって大きく取り上げられ,いったんはラベルに「警告」が貼られることになりました。ところが,事実関係が判明していくにつれ,結局はこの薬との関連性は薄いということが分かり,今ではアメリカで販売されているこの薬のラベルから,感染症を含み,この薬の危険性を警告する内容は全面的に削除されています。

なお,日本でこの薬の安全性について誤解が広まっているのは,厚生労働省国民生活センターが「ネットで購入した中絶薬は危険」だとの見解を示しているからです。しかし,これには裏があります。欧米で使われている正規の医薬品は,非常に厳しく管理されているためネットショップで買うことはできません。ネットを通じて購入できる薬の大半が,中国製やインド製のジェネリック医薬品で,こうした薬の製造会社や販売会社の中にはかなり怪しい業者が含まれています。そうした怪しい業者の製品の中には,薬としての精度が低かったり,失敗率が高かったりするものがあります。また,お金だけ取って送ってこないなどのトラブルもあるようです。つまり,ミフェプリストン自体が危険なのではありません。そこは誤解しないでください。

一方,違法性に問われるというのは事実です。現在,この薬を日本に輸入して妊娠している女性が自分で服用して中絶を引き起こすことは,刑法堕胎罪の対象になります。男性が女性に飲ませて中絶を引き起こすのも,やはり違法です。日本では「母体保護法指定医」の産婦人科しか合法的に中絶を行えないことになっているからです。逆に言えば,母体保護法指定医の先生であれば,合法的に中絶薬を入手し,それを使って中絶を行うことができます。ただし,現在,この薬を使って中絶を行っている日本の産婦人科医はほとんどいません。国が承認していない薬なので,万が一の事故などがあった場合に,産婦人科個人が責任を負わされることになるためです。

さらに,最近,日本語のホームページをもつようになったWoWも,頻繁に検索に引っかかるようになりました。WoWは,安全な中絶を行えない国に中絶薬を送付する活動を行っている国際ボランティア団体で,以前,日本は支援に該当しない(安全に中絶できる)国に分類されていたのですが,日本の中絶医療の実態*1が判明したためか昨年あたりから支援対象国に入れたようです。WoWはオンラインで該当者(妊娠週数や異常妊娠でないことなど)をスクリーニングした上で薬を送付し,カンパを払える人には払ってもらうという形で運営されています。(世界の国々の中には,WoWにカンパできないほど貧しい人々が大勢います。)残念ながら,WoWで入手した薬を使って中絶を行うことも,やはり日本では違法になってしまいます。

ただ,元々,妊娠というのものは,そうと判明してからも1〜2割は流産に終わるものです。(当人が妊娠に気付かないまま終わってしまうケースも入れれば,3分の1は流産に至るとも言われています。)実のところ,薬を飲んだから流産したのかどうか,本当のところは誰にも分からないでしょう。もしかしたら,もともと流産しかかっていたのであって,薬をのまなくても流れていたのかもしれませんから。その意味で,刑法で取り締まろうとしても立証は難しいのではないかという気もします。

しかし,それが違法行為である限り,私は自分で中絶薬を入手してのむことをお勧めすることはできません。逆に,本当は合法的に中絶薬を使えるようにすべきだと考えています。長くなるので今回は触れませんが,ブログや論文などでいろいろ書いてきたように,現行の中絶手術の内容もきちんと見直す必要があります。薬も手術も安全な方法が導入された上で,薬か手術かを女性たち自身が選べるようになるといいですね。さらに,中絶で傷つく女性が一人でも減るように,またタブーに包まれてきた「中絶」をもっと自由に語れるようにするために,中絶患者のメンタルヘルスがきちんとケアされ,女性たちがエンパワーされることも必要だと思います。

*1:比較的危険な「掻把」による中絶手術が一般的であること