リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

掻爬を続けていいのか!?

本年1月8日に日本記者クラブで行われた第72回日本産婦人科医会記者懇談会で,「偶発事例報告事業 平成24年の事例解析結果」が発表されました。それによると,流産手術・人工妊娠中絶に関わる事例は平成16〜24年までに155件あり,子宮損傷・穿孔がうち104件を占めていることが分かります。

さらに「子宮内容除去術での注意点」として,次の8項目が挙げられています。

  • 未産婦や既往帝切例では,事前に頸管拡張を積極的に考慮する。
  • 頸管拡張操作の際,超音波で子宮頸管や体部の方向を確認する。
  • 超音波ガイド下に手術を行うことが望ましい。特に子宮後屈が強いなどゾンデ挿入が難しい場合には,超音波ガイド下に手術を行う。
  • 妊娠12週以降では特に注意が必要であり,十分な頸管拡張や超音波ガイド下での手術など検討する。
  • 妊娠継続や絨毛遺残による出血事例などを防ぐため,術後に必ず絨毛を確認するとともに,超音波検査で胎嚢の消失を確認する。
  • 麻酔事故防止のため,麻酔中は心電図・血圧・酸素飽和度のモニターを継続的に行う。
  • 必ず1週間後に遺残(特に妊娠継続)のないことを確認する。
  • 迷走神経反射で心停止を起こすことがあるので,救急用薬剤や蘇生器具を準備する。

こうした注意が行われているということは,このような基本的なことさえ,これまではきちんと守られてこなかったことになります。

さらにこの下に,「妊娠何週まで子宮内容除去術による妊娠中断が可能か???」とはてなマーク3つもつけて記載されていることに愕然としました。そんなことも知らずにやっているのですか……!!!???

著書にも書きましたが,子宮内容除去術=D&C(いわゆる「掻爬」)は,WHOが「廃れた方法」として,「吸引もしくは薬による中絶に置き換えるべき」と指摘していることを,日本の産婦人科医,特に指定医の方々にはきちんとわきまえておいていただきたいものです。

以下を参照してください。
WHO, "Safe Abortion 2nd version", 2012.

この冊子の日本語版はすぺーすアライズで入手できます。日本語版を紹介したWANの記事にリンクを貼っておきます。

それでも,日本人は掻爬でいいのだ,安全なのだと強弁なさるお医者さまには,エビデンスを示していただきたいと思います。少なくとも,今,現在は日本人医師の多くが行っている掻把(D&C)の方が,海外で主流の中絶薬やプラスチック製カニューレを使った吸引よりも安全だというエビデンスは,私が英語圏と日本の医学雑誌を検索している限り,どこにも見当たらないのですが……。