リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

国連女性差別撤廃条約委員会 日本に堕胎罪改正要求

ずっと気になっていたのですが、余裕がなくて、今になって原文を確認できました。2016年3月7日付で発行された国連の女性差別撤廃条約委員会(CEDAW)による日本に対する最終見解と勧告の内容を試訳します。

以下で原文を読めますが、今のところ未訳であり、また日本の政府も報道機関も、中絶に関する下りは全く無視しています。

http://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CEDAW/Shared%20Documents/JPN/CEDAW_C_JPN_CO_7-8_21666_E.pdf

海外のほとんどの先進国で「女性のメンタルヘルス」を理由にした中絶、「オンリクエスト(事情を問わず、当人が求める限り常に認める)」の中絶が合法化されていることを考えると、女性の自殺率が高いこととセットとして提示されていることの意味がおのずと浮かび上がってくるように思います。

以前の評価でも日本人女性の精神的健康への無関心が批判されていましたが、今回は「32.教育」の中で懸念事項として次のような文言も示されています。

(d)性と生殖の健康と権利に関する年齢に合った適切な教育内容に関する政治家や公務員の不適切な感受性。


「33.勧告」の中には、次も含まれています。

(c)性と生殖の健康と権利に関する年齢に合った適切な教育の内容と提供に関する一般の関心を高め、そうした教育が学校のカリキュラムに組織的に統合されるようにすること。

中絶率と女性の自殺率が高い問題についても明確に言及されています。特に、中絶については刑法堕胎罪と母体保護法の改正が求められています。

38. 委員会は日本国における少女や女性の中絶率と自殺率が高いことを懸念している。特に懸念される事項としては、
(a)母体保護法14条と刑法212条のために、女性たちは個人の身体的健康を著しく害する恐れがある場合、ならびに暴行もしくは脅迫によってまたは抵抗もしくは拒絶することができない場合に姦淫されて妊娠した場合でなければ中絶を受けることができない状況にあること、
(b)中絶を受けるために配偶者の同意が必要であること、
(c)日本国における少女および女性の自殺率が高い状況が続いていることである。

根拠は女性差別撤廃条約そのもの(日本は締結国ですから)と北京宣言です(これも日本は従う義務があります)。

39. 女性と健康に関する一般的勧告第24号(1999)ならびに北京宣言ならびに行動要領に従い、日本国は:
(a)妊娠した女性の生命および/または健康が脅かされる場合に限らず、暴力、脅迫、女性の抵抗の有無に関わらずすべての強姦、近親姦、深刻な胎児障害による妊娠の中絶について合法化すると共に、その他あらゆるケースの中絶について脱犯罪化するように刑法および母体保護法を改正すること、
(b)妊娠した女性が中絶を受けるために配偶者の同意を要件から外すように母体保護法を改正すること、
(c)女性や少女の自殺を防止することを目的とし、はっきりとした指標をもつ総合的な計画を採用すること。

日本は「男性の自殺」が多いとよく報道されるので、おかしいなと思い、WHOの元データを探しにいきました。その結果わかったことを次にまとめておきます。

世界の自殺数ワースト5は次のとおり(T=内訳、M=男性、W=女性、W/M=対男性女性の比率)。統計年はロシアのみ2011年で他は2013年でした。

1.米国   T:41,149(M:32,055, F:9,094, F/M:0.28)
2.ロシア   T:31,144(M:25,564, F:5,580, F/M:0.22)
3.日本   T:26,080(M:18,165, F:7,915, F/M:0.44)
4.韓国   T:14,427(M:10,060, F:4,367, F/M:0.43)
5.ブラジル T:10,537(M:8,311, F:2,226, F/M:0.27)

WHO Mortality Databaseをもとに作成

香港など対男性比の女性自殺率がもっと高い国もいくつかあるのですが、自殺数そのものが少ない(たとえば香港 T:999, M:619, F:380, F/M:0.61)ので、日本の場合は、そもそもの自殺数も多く、他国に比べて女性の自殺率が高いことが(おそらく韓国と並んで)問題視されたのだと思われます。自殺件数1万件を超える国で女性の比率が高いのは、日本と韓国が突出しています。

ちなみに上記の表はWHOのデータをもとに自作したもので、6位フランス(F/M:0.34)、7位ドイツ(F/M:0.35)でした。

修正2016年5月7日10:04