リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶で悩む女性のために

今は修正している暇はないのだけど、以下、見つけてしまったので、メモしておきます。

英語のwikipediaで"Abortion and Mental Health"を読めば、中絶の心理的悪影響が一般的には否定されていることが分かります。「初めての妊娠初期の中絶」を一回受けただけでは、ほとんどの人はその妊娠を継続した場合に比べてメンタルヘルスに悪影響が及ぶリスクが高まりはしないというのが、欧米での中絶論争の末に明らかにされています。論争の全容はいずれまとめますが、当面、一例として以下のアメリカ心理学会の報告書を参照してください。

APA Task Force on Mental Health and Abortion

一方、日本語のウィキペディアの「人工妊娠中絶」の最後に出てくる「中絶とメンタルヘルス」の記述では、中絶の精神衛生上のリスクを否定したクープレポートは紹介されているものの、それをきっかけに「中絶後症候群」の有無を巡って行われた一群の調査の結果として、欧米では上記の結論が出ていることにはまったく触れず、すでに論争上は否定された中絶のメンタルヘルスに対する「(悪)影響を指摘する調査」のみ言及されています。これは科学的にも誤りだし、一種の情報操作のようにも見えてしまう。

実際、日本語ウィキで紹介されている調査結果のほとんどは、科学的には質が悪く統制されていないと批判されている研究例なのです。

中絶のためにメンタルヘルスが阻害される人がいるのは確認されていますが、欧米の研究ではそれは中絶それ自体の影響ではなく、そもそも望まない妊娠をすることに至った様々な事情やその人がもともと持っていた特性や信念の影響が大きいとされています。

むしろ、「中絶はこんなに当人への心理的悪影響があるのだ」という言説を垂れ流しにすることのほうが、よっぽど女性たちに悪影響を与えるのではないでしょうか。実際、「中絶を即断し悩まなかった私がおかしいの?」といった悩み相談を見かけることもありますし、「悩まない女は残酷だ」といった批判を後押しすることにもなりそうです。

望まない妊娠に悩んで、それを解決するために中絶をした場合に、まず「安堵」するのは当たり前。何もおかしいことはありません。

とりあえずオンラインで日本語で読めるものとして、以下の杵淵先生のご研究を紹介しておきますね。

人工妊娠中絶を経験した女性の心理経過

自分も時間ができたら日本語ウィキペディアの記述を修正したいと思いますが、直せる人がいたら、どんどん直してくださいね!

中絶で悩む女性がひとりでも減ることを願っています。