リプロな日記ー産む/産まないの選択と決断、妊娠、中絶、流産…を超えて

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

でっちあげられる中絶薬の危険性

「インド製中絶薬で多量出血 個人輸入、厚労省が注意喚起」の見出しで2018年5月15日05時34分朝日デジタルに掲載された記事に対して、朝日新聞社のサイトを通じて記者の方宛に以下の意見を出しました。返信がきたらご報告いたします。

黒田壮吉様
 私は日本の中絶技術が世界に立ち遅れていることを研究しています。
 上記記事に出てくる経口妊娠中絶薬ミフェプリストンは、WHOが「エッセンシャルドラッグ」にしているほど有効で安全な薬ですが、この記事の書き方では中絶薬が危険なものであると読者を誤解させてしまいかねません。
 ミフェプリストンは妊娠中の胎盤を維持するホルモンの作用を抑制する薬で、続いて服用するミソプロストールは剥がれた胎盤や妊娠組織を(通常の月経血同様に)膣を通じて体外に排出させるように作用します。つまり、これらの薬を正しく用いれば「膣から大量出血」するのは当然です。妊娠週数次第では、素人がびっくりするような出血があってもおかしくありません。
 この事件の真相は、医師の指導を受けられず知識もないまま中絶を試みた女性が大量の血を見て怖くなり病院に駆け込んだのでしょう。中絶薬を認可し、医療下で用いていたら起きなかった事件です。
 厚労省は中絶薬導入直後の米国で生じた感染症事件持ち出して危険だと主張していますが、当の米国では事件直後に速やかに調査した結果、翌年には中絶薬との関係を否定し、数年後には感染症の危険ありとした警告を全面解除しました。
 なお、中絶薬導入直後の米国で感染症が発生したのは、当時、ミソプロストールを膣座薬として用いることがあったことも影響していると考えられています。現在ではどの国でも、二薬とも経口で服用することになっているので、仮に感染のリスクがあったとしても経口服用する他の薬と同じ程度でしかありません。
 WHOが中絶の方法として一押ししている安全で確かな中絶薬ミフェプリストンを今も認可していない国は、イスラム諸国やカトリック国のごく一部、また女性の権利が非常に侵害されているような国々を除けば、日本くらいです。この国は世界のリプロダクティヴ・ヘルスに大きく立ち遅れているのです。
 「中絶薬は危険」といった誤ったイメージを新聞で広めることのないように、ぜひ訂正記事をお願いします。なお、WHOが危険視している「搔爬」が日本では今も多用されています。安全な薬を禁じ、危険な手術に頼ることこそリスクを高めます。女性の健康を守るためにも、そうした事実に目を向けて、真実に基づいた報道をしてくださいますようお願いいたします。拙著『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ』もご参照頂ければ幸いです。

追伸(2018年5月22日):朝日デジタルは読めない人もいると思ったので、ここに讀賣と毎日の記事を貼り付けておいたのですが、讀賣の方は今日の昼頃の時点でリンク先の記事が消えていました。毎日は残っていたので、そのままにしておきますが、讀賣の代わりに、両社の記事の出典である共同通信ニュースのリンク先を貼っておきます。

こちらに共同通信の記事を貼り付けておきます。この記事によれば腹痛やけいれんもあったとのことです。

毎日新聞の記事も貼っておきます。この記事によれば製品はMisocareですが、ググってみたらMisocareはインドネシアの会社のような……? 

さらなる追伸:朝日のご意見板には字数制限があったので書かなかったのですが、搔爬は後に妊娠したいときに不妊になるリスクを高めること、海外では今や中期中絶にもミフェプリストンを安全に使用できることが確認されていること(つまり、日本のように「生産」してしまうーー当事者が出産を経験してしまうーー恐れがないこと)、さらには薬に切り替えれば中絶費用が抑えられる(当事者にとってはアクセシビリティが高まる)ことも押さえておきたいポイントだと思います。