リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

第4次男女共同参画基本計画におけるRH&R

第4次男女共同参画基本計画(平成27年12月25日決定)でもまた、日本女性の「リプロダクティヴ・ライツ」は後退しました。

第2部「施策の基本的方向と具体的な取組」II「安全・安心な暮らしの実現」の第6分野「生涯を通じた女性の健康支援」の<基本的考え方>は次の通りです。(以下、すべて内閣府男女共同参画局のサイトより引用)

 男女が互いの身体的性差を十分に理解し合い、人権を尊重しつつ、相手に対する思いやりを持って生きていくことは、男女共同参画社会の形成に当たっての前提と言える。心身及びその健康について正確な知識・情報を入手することは、主体的に行動し、健康を享受できるようにしていくために必要である。特に、女性は妊娠・出産や女性特有の更年期疾患を経験する可能性があるなど、生涯を通じて男女が異なる健康上の問題に直面することに留意する必要があり、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)の視点が殊に重要である。
 さらに、近年は、女性の就業等の増加、晩婚化等婚姻をめぐる変化、平均寿命の伸長等に伴う女性の健康に関わる問題の変化に応じた対策が必要となっている。
 また、生涯にわたる女性の健康づくりを支援するため、医療従事者等のワーク・ライフ・バランスの確保、就業継続・再就業支援などを進めるとともに、医療機関や関係団体の組織の多様化を図り、政策・方針決定過程への女性の参画拡大を働きかける。
 加えて、スポーツ分野においては、生涯を見通した健康な体づくり
を推進するため、男性に比べ女性の運動習慣者の割合が低いことに鑑み、女性のスポーツ参加を推進するなどの環境整備を行う。
 これらの観点から、男女が互いの性差に応じた健康について理解を深めつつ、男女の健康を生涯にわたり包括的に支援するための取組や、男女の性差に応じた健康を支援するための取組を総合的に推進する。

 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)の視点が殊に重要」という文言はあるのですが、その中身は不明です。リプロダクティヴ・ライツは人権であり、その根幹には「性と生殖に関する自己決定」と「性と生殖に関する健康への権利」の二つの要素が含まれなければならないため、たとえば「安全な中絶」の提供はこの権利を支える必須の条件なのですが、この文書の中で具体的な取組として、性差に応じた(女性の)健康の問題として「中絶」が言及されるのは、「10歳代の女性」にまつわる一か所のみです。以下の(2)のところをご覧ください。

イ「ライフステージ別の取組の推進」
(ア)幼少期・思春期
(1) 学校・行政・地域・家庭が連携し、若年層に対して、以下の性差による健康に関する事項について、医学的・科学的な知識を基に、個人が将来のライフデザインを描き、多様な希望を実現することができるよう、総合的な教育・普及啓発を実施するとともに、相談体制を整備する。
・ 医学的に妊娠・出産に適した年齢、子宮内膜症・子宮頸がん等の早期発見と治療による健康の保持、男女の不妊など妊娠・出産に関する事項
・ 子宮頸がん・乳がんや老年期の女性に多い骨粗しょう症など女性特有の疾病の予防・早期発見に関する事項
・ ライフスタイル、食事、運動、低体重(やせ過ぎ)・肥満、喫煙等のリスクファクターなど、女性の生涯を見通した健康な体づくりに関する事項

(2) 10歳代の女性の性感染症罹患率、人工妊娠中絶の実施率等の動向を踏まえつつ、性感染症の予防方法や避妊方法等を含めた性に関する正しい知識に基づいた教育を推進する。
 望まない妊娠や性感染症に関する適切な予防行動については、現状を踏まえた具体的かつ実践的な啓発を行うとともに、避妊や性感染症予防について的確な判断ができるよう、相談指導の充実を図る。

 しかもここでは、「10歳代の女性の性感染症罹患率、人工妊娠中絶の実施率等の動向」を政府がどのように踏まえているのかは語られていませんが、おそらく「若い未婚女性の性感染症や中絶が増えては困る」という認識なのでしょう。①のところで触れられている「多様な希望」の中には(10代以外の)「中絶の選択」など視野に入っていないのでしょう。
 一方、その次の「活動期・出産期」で挙げられている事項は、基本的に「妊娠・出産」し、かつ「働く」ための女性の健康が主眼です。一言「望まない妊娠や性感染症に関する適切な予防」には触れていますが、この「適切な予防」に中絶も含まれているのかどうかは不明です。

(イ) 活動期・出産期
(1) 女性の就業等の増加に鑑み、企業における健診の受診促進や妊娠・出産を含む女性の健康に関する相談体制の構築等を通じて、女性が仕事に打ち込める体力・気力を維持できる体制を整備する。
(2) 子宮頸がん検診・乳がん検診の受診率の向上を図る。
(3) HIVエイズを始めとする性感染症は、健康に甚大な影響を及ぼすものであり、その予防から治療までの総合的な対策を推進する。
 なお、子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染については、子宮頸がん予防ワクチン接種の副反応に関する調査・分析・評価を行った上で、必要な対策を検討する。
(4) 個人が将来のライフデザインを描き、妊娠・出産等についての希望を実現することができるよう、以下の事項について、行政・企業・地域が連携し、各々のライフデザインやキャリアの形成に関する普及啓発や相談体制を整備する。
・ 医学的に妊娠・出産に適した年齢、子宮内膜症・子宮頸がん等の早期発見と治療による健康の保持、男女の不妊など妊娠・出産に関する事項
・ 望まない妊娠や性感染症に関する適切な予防行動に関する事項
(5) 育児・介護の支援基盤の整備、妊娠・出産・子育てにわたる切れ目のない支援体制の構築、長時間労働の削減などワーク・ライフ・バランス及びライフイベントに対応した多様で柔軟な働き方の実現等の環境整備を推進する。

 ここでも、「望まない妊娠や性感染症」の予防には触れていますが、今でも国内の公的統計で年間20万人近くが経験している中絶への言及は皆無です。「産まない選択」というのは、全く保証されていないのがこの国の現実に他なりません。