リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

HWH:女を助ける女たちの提言

「セルフ・コントロールアボーション」とスティグマの回避

海外ーー特に現代の西欧社会――では、一回限りの妊娠初期の中絶については、ほとんど心の傷を負うことはないと考えられています。一般的に、傷ついたり、悩み苦しんだりするのは、中絶そのものではなく、中絶に至った相手との関係や宗教的信念など、他に原因があると見なされます。

今回、ご紹介するサイト
WHW: abortion and contraceptives — Women Help Women
(「女を助ける女たち」)では、基本的に100%完全な避妊方法は存在しないし、(日本を含む多くの国々で)事後避妊薬をタイミングよく手に入れることはまだ困難であり(事後避妊薬もまた100%確実ではないし)、性や性的同意や避妊に関する情報が不足している限り、(少なくとも男性と性的関係をもつ)女性にとって、中絶はいつなんどき自分自身が必要とするかもしれないものだと位置付けています。

ところがそんな社会でも、くり返し中絶(複数回の中絶)を受けた女性たちは「罪悪視」を内面化して心に傷(スティグマ)を負って沈黙してしまいがちになるのだそうです。「中絶を避妊代わりにするだなんて!」と批判されるのを恐れて、自分を恥じ、本当は中絶できてほっとしたとか良かったと感じている……なんてことを決して人に知られてはならないと口を閉ざし、一人でじっと「秘密」を抱え込んでしまいがちになるのです。

だけど実際には、くり返し中絶は決して珍しいことではありません。アメリカでは非白人や30代を超えた女性の場合、特にそれが顕著になるそうです。また、パートナーの男性が避妊に同意しなかったり非協力的だったりする場合には、妊娠をくり返してしまう女性は常に存在します。そうした人々のなかには、妊娠することや中絶を受けることを強要する男性たちの「リプロダクティヴ・コアーション(性や生殖に関する強要)」に苛まれている女性たちも含まれます。(つまり、生殖に関連したDV関係です。)

そのようなくり返し中絶によるスティグマを避けるために、WHWは人工流産薬(中絶薬)を用いた「自己管理流産(self managed abortion)」の可能性を示しています。自己管理流産とは、「今、妊娠を続けるわけにはいかない」人が、他人の目を気にせず頼ることのできる薬を自分で服用して妊娠を終わらせる(流産させる)ことを意味しています。

WHWのメッセージによれば、「中絶は医療であり、誰かがそれを必要とするとき、アクセスできるようにすべきです。本当は、ただそれだけのことなのです。」

妊娠のごくごく初期に人工流産薬(中絶薬)を用いると、「遅れていた月経が戻って来た」くらいの感覚で妊娠を終わらせることができるそうです。「この薬があって助かった!」というメッセージも何度も読んだことがあります。「(中絶は)子どもを殺す(ことだ)と聞いていたけど、出てきた血の塊を目で確かめてほっとした」といった感想も……なんと日本とはかけ離れた状況なんでしょう。

「薬で中絶できるとなると、安易な中絶、安易なセックスが増える」と言う人もいるでしょう。では、ミフェプリストンを解禁している諸外国では安易なセックスが増えているのでしょうか? そんなことは聞いたことがありません。ミフェプリストンを解禁するような国々では、一般に日本に比べてはるかに性教育リプロダクティヴ・ヘルスへの支援が行き届いているからです。そして何よりも、中絶は女性が安心して生きていくために不可欠のものだという社会的信念があるからです。(宗教上の理由で中絶を厳禁していたアイルランドでさえ、ついに中絶が合法化されたのは、「女性の尊厳」を重視してのことです。)

日本では一回限りであろうと複数回だろうと、中絶を受けたことでトラウマを受けて自分を恥じ、苛み、自己否定し、苦しんだり、後悔したりしている女性が今も少なくないと思われます。その一方で、実は中絶という手段があって助かった、良かった、ほっとしたという思いもきっとあるはずです。実のところ、たいていの人はネガティブな気持とポジティブな気持の両方をもっているのでしょう。ただ、問題はそのバランスであり、彼女自身に及ぼす影響力です。

中絶は悪いこと、いけないこと、怖いものだと「脅す」ばかりで、ちゃんとした性教育も人権教育も行わず、商業主義に則った性的なメッセージやイメージを野放しにし、なんやかんや言いながら実質的には女性差別が蔓延しているこの国では、減ったとはいえ今でも年間十数万件にものぼる中絶を受けている女性たちは未だに「サイレント・マジョリティ」です。どこから手を出していいのか分からないような状況が続いていますが、私は今年も自分なりの視点から「日本の中絶問題」にとりくんでいくつもりです。

womenhelp.org