リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

Is the future of abortion online?(中絶の未来はオンラインにある?)

世界中でテレメディシン(遠隔診療)による中絶薬(人工流産薬)処方が行われている

アメリカでは現大統領の下でロウ判決が覆されることを懸念した女性グループが、中絶薬のオンラインサービスに力を入れ始めている。

中絶医療の進歩に法がついていってない、と彼女たちは指摘する。アメリカの多くの州で薬物による中絶はクリニック内で行うことが法律で義務付けられているからだ。今や妊娠9週までなら自宅で薬を用いて安全に流産を引き起こすことが可能な時代である。しかも、自宅で自分で服用する場合と、クリニックで服用する場合のリスクに違いはないという。成功率は98%。残り2%になってしまった場合に医療の助けを借りられる先進国に適した方法だという。

だけどこれを日本に当てはめることは難しい。刑法「堕胎罪」が行く手を阻んでいるからだ。

第212条  妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懸役に処する。

だけど、この刑法「自己堕胎罪」の条項は、いずれにせよ女性のrights to health(健康権)にも、RHR(リプロダクティヴ・ヘルス&ライツ)にも反している人権侵害なのだから、撤廃すべきなのである。女性差別禁止条約の委員会からも、「この事項は女性差別にあたるから削除せよ」と命じられている。なのに、日本政府はのらりくらりと言い逃ればかりしている。

この法は時代にも即していない。この堕胎罪ができた時、想定されていた「薬」とは医学的な観点からして「危険」なものだった。現代の人工妊娠中絶薬(効果を考えると人工流産薬の方が正しい)のようなものが開発されるとは、全く予想外だったはずだ。

おまけに、今や日本では、避妊薬も事後避妊薬も違法ではないのに、「妊娠」が確認されたとたんに「違法」になるというのも不条理だ。女にとっては一続きの状態なのに。ならば、「妊娠」を確認しないで服用すれば合法だというのか? 

実際、中絶が禁止されている国々では、妊娠が危ぶまれる時点で妊娠したかどうかを確認しないまま「予防」のために月経血を吸引したり、薬をのんだりする例もあるという。そして、どちらの措置も、仮に妊娠していない女性に施したとしても危険なわけではない。(唯一、問題になるのは子宮外妊娠している場合で、「中絶した」と思い込んで放置しておくと、卵管などで胚が大きくなり、危険な状態にいたる恐れがある。)

法をかいくぐって救いを求める道もあるのかもしれない。だけど、「中絶は悪いもの」と決めつけている刑法堕胎罪をまずはなくすことこそ、女性の精神衛生上、そして社会の通念を変えるためにも、大事なことだと思う。

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