強制不妊手術に対する国家賠償責任を棄却した地裁判決に対して
政府は、違憲判断を真摯に受けとめ、被害者救済の抜本的な見直しを行うことを強く求める-旧優生保護法国賠訴訟・仙台地裁判決を受けて
2019年6月6日 全日本民主医療機関連合会 会長 藤末 衛
5 月 28 日、旧優生保護法下で不妊手術を強制された宮城県の 60 代、 70 代の女性 2 人が国を相手に計 7150 万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は、旧優生保護法は違憲との判断を示す一方、被害者救済を怠ってきた国の責任を認めず、 2 人の賠償請求を棄却した。
判決は、「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)」を、幸福追求権を保障する憲法 13 条に基づく基本的人権として認め、旧優生保護法下での強制不妊手術が、「子を産み育てる意思を有していた者にとってその幸福の可能性を一方的に奪い去り、個人の尊厳をふみにじるもの」とした上で、同規定が「憲法 13 条に違反し、無効である」とした。画期的な内容であり評価する。
しかし、原告の賠償請求については、 20 年を経過すると請求権が消滅する除斥期間の規定を適用し一切認めなかった。これは、判決自身が、除斥期間内に賠償請求を行うことは被害者の置かれてきた状態等から「現実的には困難」と述べている点とも矛盾しており、除斥期間を機械的に当てはめた、あまりにも杓子定規な内容であり全く承服できない。
さらに、被害者救済のための立法措置を講じてこなかった国の責任を、リプロダクティブ権の司法判断の機会がなかったこと等を理由に不問とした点も重大である。これは被害者に「起こせない裁判を起こせ」と言っているのに等しく、法的議論や訴訟の責任を被害者に一方的に負わせるものであり、到底納得できるものではない。
以上のように、今回の判決は、権利侵害の重大性、旧優生保護法自体の違憲性を判示しながら、他方で、国の立法不作為を免罪し、賠償請求を棄却するという理不尽なものであり、被害者原告にとってきわめて冷酷な不当判決と言わざるを得ない。原告、弁護団は控訴する方針を明らかにしており、控訴審において、被害者原告の思いに寄り添い、尊厳の回復に資する判決が出されるよう強く求めるものである。
併せて、政府は、仙台地裁判決の違憲判断を重く受けとめ、被害者の真の救済と尊厳の回復に向け、抜本的な対策を講じるべきである。
4 月に成立した一時金支給法は、旧優生保護法が「合憲」だったという認識を前提に、補償対象の限定(本人のみ)、当事者への制度の周知方法、被害認定のあり方など、被害者や家族の願いと大きく乖離した内容のまま実施に移された。 1 人一律 320 万円という一時金の支給金額も、子どもを産む権利を強制的に剥奪され、個人としての尊厳を大きく傷つけられた被害者に向き合う水準とは到底いえない。今回の違憲判断をふまえ、個々の被害者への確実な制度の周知や補償額の再検討など、現行の一時金救済法の改正・改善をはじめとする救済措置全体の見直しを早急に行うことが必要であると考える。
さらに、国が、基本的人権を定めた日本国憲法のもとで、憲法違反の旧優生保護法を制定し、半世紀近くそれを運用し、廃止後も長期にわたって被害者を放置してきた自らの責任を明らかにすることは、被害者の真の救済、尊厳の回復を図る上で、また、優生政策の再発防止、優生思想の克服に向けた全面的な検証作業を行う上で不可欠であることを改めて強調したい。
私たち全日本民医連は、政府に対して、旧優生保護法下での強制不妊手術に対する国の責任を明らかにすることを重ねて求めるとともに、一時金支給法をふくむ救済措置の抜本的な見直しを行うことを重ねて強く要請する。また、現在各地で闘われている国家賠償請求訴訟に対して支援を強めていく。個人の尊厳と多様性が尊重される社会、障害をもっても生きやすい社会の実現をめざし、引き続き力を尽くしていく所存である。
以 上
全日本民医連の声明・