リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「日本女性は恐ろしい状況にいる」避妊の選択肢が示す“女の人権”とは?【早乙女智子×福田和子対談】

cyzo woman

 望まない妊娠を防ぐ“避妊”。女性の体やライフプランを形成する上で、大切な行為であるにもかかわらず、「ピルを飲むのは遊び人」「コンドームは男性に着けてもらうもの」などのイメージから、女性が主体的に行いにくい面もあります。しかし、多くの国で避妊について考えることは、「自立」した女性の証しとして当たり前に受け止められており、避妊の種類も豊富で無料で配布される場合や低価格で提供する国もあるほど。そんな日本と海外の避妊事情の違いを、前回、公益社団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員で産婦人科医の早乙女智子医師と、日本の性を考える「#なんでないの」プロジェクト代表の福田和子さんに対談していただきました。後編となる今回は、日本の避妊事情をクローズアップしながら、女性主体の避妊について考えていきます。

(前回:日本の避妊は「途上国」以下――ガーナ人女性が激怒した現実)

コンドームは避妊方法にカウントされていない!
――前回、海外の避妊法を一覧にしたシートを拝見して、選択肢の多さに驚きました。

福田和子さん(以下、福田) 日本で選べるのは、コンドーム、低用量経口避妊薬ピル(以下、ピル)、子宮内避妊システムのIUSとか(以下、IUS)くらいですよね。ただ、IUSは使っている人も少ないし、避妊目的なら原則で経産婦が対象になっているから、出産経験のない女性だとピルかコンドームのほぼ2択になってしまいます。「#なんでないの」プロジェクトの活動をしている中で「ピルが体に合わなくて、でも自分で避妊したい」という相談をいただくこともありますが、すごい切実な問題だと感じています。

――ピルが体質に合わないなら、コンドームを使用すればいいのでは?

早乙女智子医師(以下、早乙女) そもそもコンドームをちゃんと使用しても避妊の失敗率は2%もあり、正しく使えていなければ失敗率は15%とされているため完璧とは到底言えません。例え話ですが、雨が降っている日に会議をするとしたら、傘をさしながら野外で話すのと室内のどちらを選びますか? みなさん当然のように室内を選択すると思いますが、言い換えるとコンドームは傘でしかないんです。傘をさしても雨に濡れるでしょう。つまり、それが避妊失敗ということ。いかにコンドームの避妊率が低いのかわかると思いますが、何も特別なことを言ってるのではなく、当たり前の選択として「室内=成功率の高い避妊法」を使おうという話なんです。

福田 この表は13種類の避妊法が避妊の効果別に3列に分けられていて、一番上の方法が避妊効果の高いもので、下に行くほど低くなっています。多くの日本人が使用しているコンドームは一番下の列に表示されていますが、同列にある膣外射精やオギノ式は“伝統的”や“昔ながらの習慣”という意味の「トラディショナル」と呼ばれているんです。つまり、海外での認識としては、コンドームによる避妊はものすごく遅れていて、避妊法としてカウントされてないようなもの。


コンドームに頼りきりの日本

表1 出典:Trends in Contraceptive Use Worldwide 2015より #なんでないのプロジェクト調べ

表2 出典:Trends in Contraceptive Use Worldwide 2015より #なんでないのプロジェクト調べ
――日本では最もポピュラーな避妊法なのに、避妊効果がこんなに低いんですね。

福田 2015年にWHOが発表したTrends in Contraceptive Use Worldwide2015を参考に、現代的避妊法が用いられている場合、どういった方法が使用されているのかを円グラフ化(表1)すると、世界的にはIUDや避妊注射、避妊インプラント、ピルなどいろいろな避妊法に分散している様子がわかります。しかし、日本だけに絞ったグラフを見るとほぼコンドーム一色。さらに、同資料を元に作成した、現代的避妊をする場合の男女主体率を表す棒グラフ(表2)では、日本だけ男性主体率が90%以上になっています。

早乙女 恥ずかしいですよね。確実な避妊法がいくつもある21世紀に、旧態依然として20世紀の避妊法にしがみついている理由がわからない。「男性も避妊に責任を持つべきだから、コンドームを使う」と言っている人もいるけど、それはもう「勝手に使え」って話で、女性が“自分”で避妊を考えることとはまったく別の話。それに、男性が避妊することについては「どうぞ」と思いますが、決して女性がお願いするものじゃない。私たちは自分で自分を守る選択を、確実な選択肢の中からすればいいんだから。

福田 日本は「男の人が避妊をしてくれる素敵な国」っていう考え方の女性もいるけど、逆を言えば、男性が最後の最後で避妊をしないって決めたら、女性はどうしようもないという脆弱性があるんですよね。そもそもコンドーム自体の成功率って一番下なわけじゃないですか。そう考えると、日本女性は恐ろしい状況下にいるよな……と私は思います。女性が主体的にライフプランを組んで、キャリアを積んでかつ家庭やパートナーを持つことって難しすぎますよ。

――産婦人科の現場感覚でも、日本ではコンドームの使用者が大半だと感じますか?

早乙女 カップルでも夫婦間でもコンドーム。ある程度クローズな関係であれば、性感染症のリスクも少ないので、コンドームより“確実”な避妊法を取り入れたほうがいいと思います。リサーチしてみたところ、コンドームを“好き”で使っているという人はほぼおらず、みんな「なんとなく」とか「ほかに方法がないから」という理由で使い続けているようです。

――ピルやIUSという選択肢にはつながらないんですね。

早乙女 特にIUSは、子宮の中に入れるのが怖いという人が結構多いんですよね。でも、ピアスも開けるし、コンタクトも入れるのに(笑)。それに、“みんな”コンドームだからという人もかなり多い印象です。でも、あなたの人生において、どんな仕事をするか、どんな人とお付き合いをするか、どのタイミングで子どもを持つかなど、全部含めて考えたときに、「あなた」のその避妊で、「あなたの人生完結しますか?」 ということを本当に聞きたい。仕事だってみんな違うんだから、避妊法だって“人それぞれ”でいいはずです。「あなたはどうなんですか?」と聞かれたときに、「私はね」と言える女性になってほしいと思いますね。


日本はめちゃくちゃ子宮に踏み込まれている

――日本でコンドームが絶対的になっているのは、どうしてなんでしょうか?

早乙女 性教育の中で“ちゃんと”大事な情報が省いてあるからですよ(笑)。

福田 保健体育などの教科書を調べてみると、最初に出てくるのがコンドームについてで、ピルはその後ろ。しかもその説明も、「コンドームは副作用なし、ピルはあり」とか「コンドームはすぐ買えて安い、ピルは高くて医療機関に行かなきゃいけない」などのお粗末な書き方。避妊をよく知らない学生が授業で習ったら、「絶対にピル買わない」と思ってしまうような説明です。コンドームばかり推されて、全然フェアじゃないんです。

早乙女 ピルは値段とハードルもバカ高いと思わせれば、「コンドームは簡単で手軽」という結論に導かせられます。そして、男性主体の避妊が当たり前になれば、女性を“管理”しやすくなる。

福田 ピルが承認される前夜の国会答弁でも、「コンドームは安くて簡単だし、ちゃんと使えば避妊効果も十分に高いからいいんじゃない?」という内容の発言がありましたよね。でも、世界的に見るとコンドームは最低ランクの避妊法ですし、それを十分って言われてしまうのは、女性の切実さがないがしろにされているような気がして、おかしいと思いました。

早乙女 バイアグラは半年で認可が下りたけれど、ピルは40年かかっています。そのことからもわかるように、日本は「女性に人権」がないんですよ。以前、IUS治験の段階で、すべての女性を対象にしましょうよって提案したことがあるんだけど、「とりあえず経産婦で」って怒られたこともありますよ。

福田 その「とりあえず」で奪われた私の選択肢はいつ手に入れられるの? って感じですね。アメリカのアラバマ州では、人工妊娠中絶が実質ほぼ全面的に禁止されたことに対して、プロテストの女性たちが声を上げたのですが、そのワードの一つに「私の子宮に踏み込まないで」というものがありました。その言葉を借りれば、「日本はめちゃくちゃ子宮に踏み込まれている」のに、女性がそれに気付いていないような気がします。

海外ではアフターピルを薬局でも買えるのに……。遅れすぎの日本
――先日、アフターピルのオンライン処方に関する厚生労働省の検討会が話題になりましたが、そこでも“子宮に踏み込まれた”出来事があったと聞きました。

福田 検討員12人中女性は1人だけで、しかも、「3週間後の受診をどう確保するか? 首に縄付けて引っ張っていくわけにはいかないし……」とか、「オンラインなら確実にトラッキングできる」など、人権を無視した発言を平気で言えちゃう感覚の下に検討会が進んでいたんです。

早乙女 検討員に女性が1人って、ピルの検討会をしていた20年以上前と、ほとんど状況が変わっていないじゃないですか。

福田 そうなんです。女性だからわかる、男性だからわからないとは言わないけれど、女性の使う薬の検討会の場であるのに、女性の検討員が勇気をもたないと発言できない環境って、すごくおかしいことだと思います。

早乙女 通販でピルを購入している女性がいるようなので、女性の健康管理をちゃんとしたルートに乗せませんかって話なのにね。

福田 緊急避妊が必要になるのって、若い人や高校生だって少なくない。日本だと、その年齢で産婦人科に行くのってすごくスティグマが強いから、オンライン診療や薬局で購入できるのは、精神的ハードルの面から見ても大切だと思うんです。私が調べた中でも、そう感じている人は多かった。でも、結局は「条件付きオンライン診療」(※)しか通らず、「世界だとその辺の薬局で普通に買える薬なのに、なんなの?」 って思いましたね。

※条件付きオンライン診療:厚生労働省は、緊急避妊薬を求める女性に「近隣の対面診療可能な医療機関」の受診を原則としているが、例外的に「地理的な事情のある場合」「心理的な状態に鑑みて対面受診が困難な場合」などを条件としてオンライン処方を検討中。


避妊を知ることが日本の避妊事情を変える一歩


――この先、日本の避妊事情が改善されていくにはどうしたらいいと思いますか?

早乙女 何でも選ぼうと思えば選べる今の時代ですし、まずは日本で使えるピルやIUSから選んでいき、「自分の人生ってなんだろう」、「自分の人生の中でセックスってなんなんだろう」と突き詰めて考えていくということを、「一人ひとり」女性がやっていくことが大切です。製薬会社からしてみれば、ピルも売れていないのにほかの避妊法が売れるのだろうか? と疑問にもなりますし、それが避妊法が増えない理由のひとつになっていますからね。

福田 大学の卒論を書く時に、「何で日本にパッチがないんですか」と製薬会社へ問い合わせたのですが、「ピルが売れてから」という返事がすごく多かった。ピルの普及率が4%ということもあり、女性主体の避妊はマーケットがないと見られているんです。ただ、知らないものが求められないのは当然ですし、勝手に市場がないと判断されるのはちょっと違うかな。

早乙女 そこもスティグマを作り出すのに十分で、「ないなら認可されるように動いて行こう」という方向より、「コンドームしかない」という話に追い込まれちゃうんだよね。

福田 これだけ避妊法があるという話を女性にしたら、パッチを試してみたいとか、いろいろな避妊法に手が挙がるから、まずは知ることから広げていって、「ほしい」という声が出てくれば、女性の願いがかなえられていない現状も変えられるのではないかと思います。今の日本には、“普通”に“当たり前”にあっていいはずのものがないということにまずは気付いてほしい。そんな思いでやっている「#なんでないの」プロジェクトの活動やこの対談などが、多くの女性のマインドセットが変わるきっかけになってくれたらと思います。

早乙女智子(さおとめ・ともこ)
日本産科婦人科学会専門医。日本性科学会認定セックスセラピスト。1986年筑波大学医学専門学群卒業。2015年京都大学大学院医学研究科単位取得退学。2019年京都大学博士(人間健康科学)取得。世界性の健康学会(WAS)学術委員、厚生労働省社会保障審議会人口部会委員。1997年に経口避妊薬の認可に向けて結成した一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会代表理事。ジョイセフ理事。現在は、倖生会身原病院産婦人科常勤医および公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員。著書『避妊』(主婦の友社)、監訳『ピル博士のピルブック』(メディカルトリビューン)他。

福田和子(ふくだ・かずこ)
#なんでないのプロジェクト代表、世界性の健康学会(WAS)Youth Initiative Committee委員、I LADY.ACTIVIST、性の健康医学財団機関誌『性の健康』編集委員国際基督教大学
大学入学後、日本の性産業の歴史を学ぶ。その中で、どのような法的枠組みであれば特に女性の健康、権利がどのような状況にあっても守られるのかということに関心を持ち、学びの軸を公共政策に転換。その後、スウェーデンに1年間留学。そこでの日々から日本では職業等にかかわらず、誰もがセクシャルヘルスを守れない環境にいることに気付く。「私たちにも、選択肢とか情報とか、あって当然じゃない?」 との思いから、17年5月、『#なんでないのプロジェクト』をスタート。


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