リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

国際安全な中絶デー-2018年9月28日に寄せて

国連独立人権専門家グループのコメント

国際安全な中絶デー-2018年9月28日に寄せて

ジュネーブ(2018年9月27日)-
 9月28日の国際安全な中絶デーに先立ち、国連の独立人権専門家グループ は、世界中の政府に対して、人工妊娠中絶を非犯罪化することと、すべての女性や少女たちが自らの妊娠について自律的に意思決定する権利を保障するための努力をさらに推進することを要求しました。このことは、女性たちの基本的な平等権、プライバシー権、身体的及び精神的統合の権利の中核であり、他の様々な権利や自由を享受するための前提条件です。
 女性たちが生涯を通じて直面しているような、ジェンダー平等を脅かす数多くの困難の中でも、女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスの領域は、今もなお最も議論が紛糾し、女性が最大級のバックラッシュに直面している領域です。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスの領域において、女性たちの自律的判断を軽視するとともに女性や少女がもつ特有のニーズへの認識に欠けているがためになおも続いている差別は、女性たちが人生のあらゆる局面において平等な立場を主張することを全くもって妨げています。しかし、専門家グループは、これまで一部の国で女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ライツを回復するために採択されてきた重要な措置の数々が、他の国々にも反映されていくことを願っています。ごく最近の動きとしても、国民投票や立法手続きおよび司法手続きを通じて、安全な中絶への女性のアクセスを保障する様々な取り組みが行われつつあります。
 典型的な妊娠中絶に関する法的枠組みでは、刑法を適用することで女性の意思決定をコントロールするように組立てられています。多くの法的枠組みでは、人工妊娠中絶一般を禁止しする一方で、女性や少女たちが中絶を必要とする様々な状況を必ずしも網羅していない特定の事由に限って中絶を合法化しているのが一般的です。そればかりか、妊娠中絶可能期間が厳しく制限されているために、中絶が違法になってしまう女性も少なくありません。こうした法的制限が妊娠中絶を実質的に利用できなくするような障壁と結びつき、妊娠中の女性や少女たちの尊厳や幸福を損ねることもしばしばあります。
 女性たちは、人工妊娠中絶へのアクセスに対する多くの障壁に直面しています。例えば、中絶費用が高すぎること、地理に離れていたり情報が得られなかったりするために人工妊娠中絶にアクセスしにくいこと、サービスの質が低いこと、医療従事者の良心的拒否などの問題があります。特に、医療従事者の良心に基づく人工妊娠中絶の拒否は、女性たちの中絶へのアクセスを否定する理由にしてはならないもので、各国政府は中絶にアクセスできることを保障するような手続きを定める必要があります。
 さらに、もうひとつ懸念されている問題は、特に薬剤を用いる(薬による中絶の)場合に、中絶の手続きに医療が過剰に介入することです。WHO(世界保健機関)のガイドラインに従って、合併症が生じた場合には医療提供者へのアクセスを保障するのと同時に、女性たちがもっとプライベートな環境で薬剤による中絶を行えるようにすべきです。
 中絶後のケアにおいては、中絶を非難する懲罰的な法的枠組みのために数多くの非道な扱いが実践されているという、また別の憂慮すべき現実があります。国際法に違反し、多くの場合国内法や政策にさえ反しているにもかかわらず、ただ人工妊娠中絶を行ったというだけで、あまりにも多くの女性たちが身体的に不当な扱いを受け、言葉で傷つけられ、あるいは救急医療をあからさまに拒否されています。各国政府は、妊娠中絶を行った女性たちや少女たちが人道的に、なおかつ、その行為が違法であるとの判断や推定を受けることなく扱われることを保証する義務があります。
 人工妊娠中絶を通常の医療処置から切り離し、犯罪化することは、中絶に汚名を着せ、女性たちに烙印を押すことに寄与してきました。中絶は非難に値するという考えは文化的に構築されたものです。本当は、中絶は女性や少女が必要とするときにアクセスできるようにしなくてはならない安全な医療処置だとみなすべきです。妊娠中絶後のケアを求める女性がいたら、タイミングよく批難めいた態度をすることなくケアを提供し、犯罪として捜査されたり起訴されたりするリスクがないことを保障すべきです。安全でない中絶に関する懸念は、公衆衛生の問題や、該当する不適切な医療の問題、および民事法の問題として対処していく必要があります。女性しか必要としないサービスに女性たち自身がアクセスすることを拒否し、女性特有のリプロダクティブ・ヘルスのニーズに対応しないことは、本質的に差別にあたります。
 各国は、国際人権基準に従って、国内法に存する女性に対する差別を撤廃し、女性および思春期の少女のセクシュアル・リプロダクティブ・ライツを促進する政治的意思を示すべきです。この世に生を受けた人ならだれでも国際人権が付与されるということは、1948年の世界人権宣言で確立され、市民的および政治的権利に関する国際規約で支持されてきました。ただし、妊娠した女性の権利と胎児の利益はどちらも等しく保護しなければならないという危険なレトリックを広めようとしている人々もいます。しかしながら、そのような主張は国際人権法のなかには全く存在していません。
 安全でない中絶は、妊産婦死亡の主な原因の一つです。人工妊娠中絶を制限する法律が女性の命を危険にさらし、女性に困難を課していることに照らせば、中絶反対者がしばしば自らのスタンスを「プロライフ(生命肯定)」だと主張するのは語弊があります。妊娠中絶が法律によって制限されている国および/または他の理由で利用できない国では、安全な中絶は富裕層の特権であり、一方、金銭的に恵まれない女性たちは安全でない中絶提供者のもとで安全でない中絶を受ける以外に選択肢がないことが知られています。WHOのデータによれば、妊娠中絶を犯罪化しても中絶という手段に訴える女性の数が減らないことは明らかです。むしろ、中絶を犯罪化することで、闇に隠れて安全でない中絶を求める女性の数が増える可能性があります。女性たちに望まない妊娠を終わらせる権利が与えられており、正しい情報やあらゆる避妊の手段にアクセスできるような国々では、女性の中絶率は最も低いレベルを示しています。
 専門家グループは国際社会に対し、安全かつ合法的な中絶へのアクセスを保証することを含めて、ジェンダーの平等を推進することと、あらゆる後退を防ぐことを強く求めます。専門家グループは、日々奮闘している女性の人権の擁護者たちが世界的に展開している取り組みを賞賛しています。そうした擁護者たちは、家族や社会の中での女性の役割という悪しきステレオタイプを体現し、本質的に女性に対して差別的かつ抑圧的な宗教的・文化的規範に裏付けられている差別的な遺産に抵抗しています。いかなる法であっても、中絶が必要だとする女性自身の決断や中絶にアクセスすることを操作したり断念させたりする手段として、さらには中絶を理由に女性を罰する手段として悪用されるようなことがあってはなりません。科学的エビデンスを受け入れ、早急に進歩的な中絶法に改革していく必要があることを人権に基づいて議論することこそ奨励されるべきです。中絶は非犯罪化されるべきであり、女性たちは中絶を行うために、より一層の支援と自律性を与えられるべきです。ほとんどの妊娠中絶に関する法律は女性を罰するために使われていますが、これはやめるべきです。女性の生殖能力が、女性たち自身を攻撃するために使われるようなことがあってはなりません。
以上

原文:
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=23644&LangID=E

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*1 本文書を作成した4名の専門家:
Ivana Radačić、法律上及び事実上の女性に対する差別に関するワーキンググループ議長。
Dainius Pūrasすべての人にとっての達成可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受する権利の特別報告者。
Dubravka Simonovic、女性に対する暴力、及びその原因と結果に関する特別報告者。
Agnes Callamard、超法規的、即決・恣意的処刑に関する特別報告者

*2 編集者注:世界中で、推定2億2,500万人の女性たちが近代的な基本的な避妊法を利用できず、しばしば予期せぬ妊娠を引き起こしています。少女にとって、妊娠と出産は開発途上国で最も一般的な死因の1つであり、15歳未満の少女は5倍の危険に直面しています。安全でない中絶の結果として、毎年約47,000人の女性が死亡し、さらに500万人が一時的または永続的な障害に苦しんでいます。妊産婦死亡は、生命、健康、平等、および非差別の権利を侵害しています。人口と開発に関する国際会議(ICPD)行動計画の枠組みの中で、国家は安全でない中絶による死亡者数と罹患率を大幅に減らすことを約束しました。
2. For further information, please refer to the following documents: Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women
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Jeremy Laurence – Media Unit (+ 41 22 917 9383 / jlaurence@ohchr.org) lend our voice very strongly to the demand for decriminalization as a transformative goal and take this opportunity to highlight the much neglected issue of post-abortion care.