リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

コロナ禍の欧米であったニュース

3月11日WHOパンデミック宣言の後で世界であったニュース抜粋

 3月12日、刑法堕胎罪で終身刑に問われることもあるというジブラルタルで、新型コロナウィルス感染拡大のために(主に高齢者が投票できなくなることを案じて)1週間後に予定されていた堕胎罪の有無に関する(そして事前調査では7割の人が堕胎罪撤廃を承諾するだろうと見込まれていた)住民投票を延期した。同じ日にアメリカでは、民主党が提出したコロナウィルス救済法案について、連邦資金が中絶に使われる可能性があることを理由に共和党の議員たちが棄却した。それでも、まだその時にはウィルスが中絶そのものを脅かしたわけではなかった。さらに、3月18日にはニュージーランドで刑法から堕胎罪を撤廃する法案が可決し、中絶は犯罪ではなく健康問題として扱われるようになったとの朗報もあった。
 一方、ヨーロッパの多くの国々でコロナ対策として3月14日に国境が閉鎖された。アメリカでもいくつかの都市が封鎖され、企業や学校が閉鎖されていく中、3月17日のリワイア・ニュース・グループは、COVID-19ウィルスが中絶ケアや他のリプロダクティブ・ヘルス・ケアを中断させる可能性が懸念されているとして、「リプロダクティブ・ヘルスを支持する医師団」の産婦人科医に「最も差し迫った質問」を行ったインタビュー記事を掲載した。その医師は、医療従事者も今や自分自身のリスクを考えて行動しなければならない事態になっているが、中絶は延期するわけにはいかないので、中絶クリニックは従来の方法からテレヘルス(遠隔医療)に切り替えるべきだとの持論を述べた。さらに、トランプ政権の反中絶策のためにコロナ禍以前から中絶を受けにくくなっている州では遠隔医療が禁じられているため、社会的に最も弱い立場の人々が自分自身の健康を犠牲にせざるをえなくなっていると警鐘を鳴らした。
 3月18日、アメリ産婦人科医協会は関連諸団体と共に「中絶は包括的医療において必須の構成要素である」との声明を出した。すでにアメリカのみならず世界中の中絶反対派は「中絶は必須(エッセンシャルな)医療ではない」として他の急を要さない医療と同様に「延期すべき」だとの論戦を張っていたが、この頃から中絶提供者の側からの大反撃が始まったのだ。
 3月21日には、前の週にコロナ対策で国境が封鎖されたポーランドのヘルプライン(中絶に関する情報や薬の提供を行っている活動グループの窓口)に相談の電話が殺到していることが報じられた。カトリック信者の多いポーランドでは近代的な避妊法や緊急避妊薬は処方箋が必要で、中絶は禁じられている。ただし、女性が自分で薬をのんで中絶を行うことは合法であるため、コロナ禍以前に中絶を求める女性たちは海外からの違法の薬を取り寄せて自分でのんだり、国外に中絶を受けに行ったりすることで対応していた。だが郵便物が止められ、国境が閉ざされたために、中絶を求める女性たちは完全に行き場を失ってしまった。3月31日の別の報道によれば、経済の急速な悪化のために中絶を求める女性の数はうなぎのぼりに増えており、状況はますます深刻化しているとのことだった。
 世界では「中絶はエッセンシャル・メディシンかどうか」の議論が盛んに行われるようになっており、世界の産婦人科医療を束ねる国際産婦人科連盟(FIGO)や英米それぞれの産科婦人科協会(RCOGとACOG)はCOVID-19対策の方針を練り、医療マニュアルや患者のための急ピッチでQ&A作りを進めていることが明らかにされた。3月末までにはすべての準備が整って、FIGOは、世界規模で産科医と婦人科医の専門学会を統括する唯一の国際機関である。