リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

第5次男女共同参画基本計画-令和2年度中に策定

男女共同参画基本計画とリプロ

現行の第4次男女共同参画基本計画で「リプロダクティブ・ヘルス」が登場するのは次の下りのみです。

第6分野 生涯を通じた女性の健康支援
<基本的考え方>
 男女が互いの身体的性差を十分に理解し合い、人権を尊重しつつ、相手に対する思いやりを持って生きていくことは、男女共同参画社会の形成に当たっての前提と言える。
 心身及びその健康について正確な知識・情報を入手することは、主体的に行動し、健康を享受できるようにしていくために必要である。特に、女性は妊娠・出産や女性特有の更年期疾患を経験する可能性があるなど、生涯を通じて男女が異なる健康上の問題に直面することに留意する必要があり、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)の視点が殊に重要である。
 さらに、近年は、女性の就業等の増加、晩婚化等婚姻をめぐる変化、平均寿命の伸長等に伴う女性の健康に関わる問題の変化に応じた対策が必要となっている。
 また、生涯にわたる女性の健康づくりを支援するため、医療従事者等のワーク・ライフ・バランスの確保、就業継続・再就業支援などを進めるとともに、医療機関や関係団体の組織の多様化を図り、政策・方針決定過程への女性の参画拡大を働きかける。
 加えて、スポーツ分野においては、生涯を見通した健康な体づくりを推進するため、男性に比べ女性の運動習慣者の割合が低いことに鑑み、女性のスポーツ参加を推進するなどの環境整備を行う。
 これらの観点から、男女が互いの性差に応じた健康について理解を深めつつ、男女の健康を生涯にわたり包括的に支援するための取組や、男女の性差に応じた健康を支援するための取組を総合的に推進する。

そこで、<成果目標>に挙げられているのは、次の項目:

  • 健康寿命を1歳以上延伸
  • 子宮頸がん検診、乳がん検診受診率向上
  • 自殺死亡率減少(男女別目標)
  • マタニティマークの認知度向上
  • 妊娠中の喫煙率・飲酒率ゼロに(目標)
  • 不妊専門相談センターの増加
  • 25 歳から 44 歳までの就業医師に占める女性の割合 向上
  • 運動習慣のある者の割合 増加

驚いたことに、どれひとつ「リプロダクティブ・ヘルス」の根幹にかかわらない周辺的な内容ばかり。)にあることを指す。

これで「やった感」を出しているつもりなら大間違いだし、こうした政府の姿勢への批判もあまり出てこなかったことにも問題があると思う。

カイロ行動計画のリプロダクティブ・ヘルスの定義は次のとおりである。

リプロダクティヴ・ヘルスは,人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ,生殖能力をもち,子どもを産むか産まないか,いつ産むか,何人産むかを決める自由をもつことを意味する。この最後の条件で示唆されるのは,男女とも自ら選択した安全かつ効果的で,経済的にも無理がなく,受け入れやすい家族計画の方法,ならびに法に反しない他の出生調節の方法についての情報を得て,その方法を利用する権利,および,女性が安全に妊娠・出産でき,またカップルが健康な子どもを持てる最善の機 会を与えるよう適切なヘルスケア・サービスを利用できる権利が含まれる。……( United Nations [1994], cf. UNFPA

自己決定権はリプロダクティブ・ヘルスに不可欠なのだ。

第5次男女共同参画基本計画は令和2年度中に策定されるとか。意見を出していきたい……。

参考までに第5次基本計画策定専門調査会 開催状況及び会議資料はこちら。

平成27(2015)年度第4次男女共同参画基本計画はこちら。

「リプロ」の文言が全くない平成22(2010)年度第3次男女共同参画基本計画はこちら。

唯一「リプロダクティブ・ヘルス」とその説明が盛り込まれていた平成17(2005)年度(第2次)男女共同参画基本計画

8.生涯を通じた女性の健康支援

〈目標〉
 女性も男性も、各人が互いの身体的特質を十分に理解し合い、人権を尊重しつつ、相手に対する思いやりをもって生きていくことは、男女共同参画社会の形成に当たっての前提と言える。そのためには、心身及びその健康について正確な知識・情報を入手し、主体的に行動し、健康を享受できるようにしていく必要がある。特に、女性は、妊娠や出産をする可能性もあり、ライフサイクルを通じて男性と異なる健康上の問題に直面することに男女とも留意する必要がある。
 平成6年(1994年)にカイロで開催された国際人口/開発会議においても、性と生殖の健康・権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)(*)に関し、すべての人々が身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを求められたところである。このことに付いては、1995年の第4回世界女性会議で我が国を含め採択した行動綱領においても、女性の人権として確認されたところである。
 国連特別総会「女性2000年会議においては、「北京宣言及び行動綱領実施のためのさらなる行動とイニシアティブ」をわが国を含め採択し、その中で、男女の力関係が平等でないことや、女性の健康を守るニーズに関する男女間のコミュニケーションや理解が欠如していることが障害となって、女性の健康が脅かされていると指摘している。
 こうしたことに配慮しつつ、男女の、特に女性の生涯を通じた健康を支援するための総合的な対策の推進を図ることが必要である。

*性と生殖の権利・健康(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)
 性と生殖の健康(リプロダクティブ・ヘルス)とは、平成6年(1994年)の国際人口/開発会議の「行動計画」及び平成7年(1995年)の第4回世界女性会議の「北京宣言及び行動綱領において、「人間の生殖システム、その機能と(活動)過程のすべての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあることを指す」とされている。
 性と生殖の権利(リプロダクティブ・ライツ)とは、「性と生殖の健康(リプロダクティブ・ヘルス)を得る権利」とされている。
 なお、妊娠中絶に関しては「妊娠中絶に関わる施策の決定またはその変更は、国の法的手順に従い、国または地方レベルでのみ行うことができる」ことが明記されているところであり、我が国では、人工妊娠中絶については刑法及び母体保護法において規定されていることから、それらに反し中絶の自由を認めるものではない。

最後の箇所(変更は各国に権限がある)は、カイロ会議で中絶権を否定する国々の反対を押して「リプロダクティブ・ライツ」を通すために、妥協的に入れた文言であり、日本政府はまさにそれを戦略的に採り入れているわけですが、最近、堕胎罪を撤廃した韓国やアイルランドをはじめ、他の国々では、中絶を犯罪化することは女性に対する人権侵害であるという判断が下されているわけで、これを放置しているのはまさに「女性差別を撤廃しない」ことになり、条約の精神に反します。

平成12(2000)年の最初の(第1次)男女共同参画基本計画の目次はこちら。全文を表示できるサイトは見つけられず、少しは関連があるかと思ってリンクをクリックしてみた「母性健康管理対策の推進」はリンク切れになっていました。

しかも、この「母体健康管理対策の推進」は「3 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保」という項目の中に入っているのです。

厚生労働省」という組織名からしても、日本政府にとって国民とは常に労働者でしかなく、個人として尊重してなどいないように感じます。

なお、上記のほとんどのサイトがコピペのできないPDFファイルになっていたため、条文を表示したのは、私がプリントアウトしたページを手打ちで入力しています。女性差別やリプロのこと、特に中絶に関わる公的資料は非常に分かりにくくなっていたり、コピペ不能になっていることがとても多いように感じています。情報を広めないように、わざとしているのではないかと勘繰ってしまいたくなります。