リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

村上正邦 母体保護法から経済条項の削除を求める(2000年)

国会議事録 第147回国会 参議院 本会議 第3号 平成12年2月1日

 総理は、ことし年頭の「五つの未来」の中で子供の未来を熱っぽく語っておられましたが、私も同感であります。この国の未来を託すのは子供たちだからであります。
 しかし、その子供たちの出生が年々少なくなり、二〇〇七年ごろからは日本の人口は減少していくと見られています。かつて経験したことのない重大な事態であります。その主要な背景を探ると、女性の社会進出による意識の変化や家族のあり方、価値観の多様化、それに伴う晩婚化の傾向などが挙げられましょう。
 戦後の「新生活運動」の名のもとに少なく産んでよい子に育てるという運動が続けられてまいりましたが、行き過ぎが生じたのではないかと私は案じております。
 「なんでこんなに 可愛いのかよ 孫という名の 宝もの じいちゃんあんたに そっくりだよと 人に言われりゃ 嬉しくなって 下がる目じりが えびす顔」、これは七十万以上の今大ヒットを続けている「孫」という歌の一節であります。作詞も作曲も歌い手も、ともに山形のサクランボ農家のおじいちゃんコンビが孫の誕生を祝って手づくりでつくったものであります。肉親の情愛が切々と伝わってくるではありませんか。
 今後は、子育てに若い世代がもっともっと誇りや喜びを感じ、また家族のぬくもりのある家庭の幸せを感じられるような意識改革が必要であります。
 一方、社会、政治全体で安心して子育てができるような環境改善の取り組みも行っていかなければなりません。児童手当を充実した経緯は承知いたしておりますが、さらに税制を含めて長期的な取り組みが必要であります。
 また、出生率を上げる目的を持って例えば子供三人財団のようなものを設立し、三人以上の子供を産み育てることが大事だよという精神的土壌を培う国民運動を官民一体となって推進することも大事なことではないかと思いますが、総理、いかがでしょうか。
 ここで私が少子化現象とあわせて言及したいと思いますのは、生命の尊厳という人類社会の最も根源的な問題であります。
 今世紀後半の五十年において、優生保護法の名のもとに、厚生省に報告があっただけでも何と三千五百万もの母体に宿った生命が誕生を見ずに、やみからやみへと葬られたのであります。やみを入れれば五千万と言われるこの命の神秘と尊厳に対する自覚を欠いた大きくて重い事実であります。
 人には、父と母で二人、父と母の両親で四人、そのまた両親で八人の親があります。こうして数えていくと、数字の上では、十代さかのぼって一千人、二十代で百万人、三十代では何と十億人を超える祖先が存在することになります。そのどの一人の命が欠けても今日の自分は存在しないのであります。逆に言えば、自分の命は十代後には一千の子孫となり、三十代後には十億の子孫の命となって未来へ幸はえていくのであります。一人の個の命のとうとさに今さらながら神秘と感動を覚えるではありませんか。
 優生保護法は、今は母体保護法と名を改めておりますが、もとはといえば、終戦間もないころの苦しい生活、住むに家なし食糧不足という時代に、いわば経済的理由から緊急避難的な規定として中絶を法律の傘の中に入れて黙認してきたものであります。生命の尊厳が失われてきたのであります。生命軽視の諸悪はここにあると言っても過言ではありません。戦後日本において、経済発展が光だとするならば、この問題はまさしく影であります。
 総理、新世紀を迎えようとする今日、一日も早くこの影を払拭して、国際国家日本、人道国家日本にふさわしい経済的理由の条項を削除した母体保護法に改めるべきであると考えます。見解をお伺いします。厚生大臣に強くこのことを申し上げておきます。

小渕恵三総理の答弁

 議員から母体保護法に関連し指摘された人工妊娠中絶の問題については、胎児の生命尊重、女性の自己決定についての考え方などをめぐり、国民各層に多様な意見が存在いたしております。また、国際的にも対応は分かれているものと承知をいたしております。国民個々人の倫理観、道徳観、宗教観とも深く関係しており、国民各層における議論の深まりが重要であると考えております。

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第147回国会 参議院 予算委員会 第6号 平成12年3月7日

今度は小山孝雄議員がくらいつきました。大野由利子厚生政務次官が「リプロダクティブヘルス・アンド・ライツ」「子供を産むことの女性の自己決定権」に言及しています。

次に、憲法十三条と胎児の生命尊重という問題についてお尋ねをいたします。法制局長官、お見えでしょうか。
 昭和五十七年三月十五日に、十七年前でありますが、現在の我が党の議員会長の村上正邦議員と当時の鈴木総理、森下厚生大臣、角田法制局長官の間で非常に注目されるやりとりがありました。憲法十三条と胎児の生命尊重に関する質疑でございます。
 その内容につき法制局長官にお尋ねいたしますが、資料として議事録をお配りしてあるはずでございますが、簡単に申しますと、一つは、人間の生命は受胎に始まり、受胎をして生命が宿ったときから人間の生命というものを尊重し、これを守っていかなければならない。こうした生命尊重は、憲法十三条にうたわれているとおり、あらゆる立法、施策を通じて最大限尊重されなければならないという趣旨である。
 二つ目は、生命の宿った新しい命の象徴である胎児を人工的に中絶するということは、生命尊重の基本に触れる問題である。当時は優生保護法と言いましたが、その優生保護法の中に経済的理由による中絶ということが掲げられているが、これは単なる経済的事由ではなしに、継続して妊娠、分娩することが母体の健康を著しく害するおそれがある場合と、厳しくこれは解釈されるべきものであるという点が第二点。
 第三点が、憲法十三条で、「すべて国民は、個人として尊重される。」に言う、個人が尊重されなければならない理由は、人間性そのものの価値のゆえんであり、近い将来生まれてくる胎児もまた尊厳なものである、したがって胎児の生命を尊重することは憲法十三条の趣旨に沿うものである、このように要約できるかと思います。
 この見解は現在も変わっていないと思いますが、確認の意味で内閣法制局長官に見解を尋ねます。

○政府特別補佐人(津野修君) お答えいたします。
 憲法十三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」というふうに規定されているわけでございます。
 そこで、お尋ねの胎児との関係でございますけれども、これは先ほど先生の方から御指摘がございました、角田法制局長官が昭和五十七年三月十五日の参議院予算委員会でお答えしているとおりでございますけれども、内容を申し上げますと、胎児は近い将来基本的人権の享有者である人となるのであるから、その生命を保護し、尊重することは憲法十三条の趣旨に沿うものと解されるというふうにお答えしているわけでございまして、私どもも現在においても同様の見解を持っているところでございます。

小山孝雄君 すなわち、胎児の生命は憲法十三条で最大限尊重されなければならないものであり、だからこそ、資料もお配りしておりますように、刑法第二百十二条は堕胎罪を設けております。そして、その罪は一年以下の懲役刑も科してあるわけでございます。憲法、刑法がこのように重く規定しているところに大穴をあけたのが昭和二十四年の優生保護法という法律でございます。
 憲法調査会が設置されました今、論議が本院でも始まりました。私もメンバーの一人として加わらせていただいておりますが、現在、論議されておりますその中で憲法と現実の乖離という問題が言われておりまして、私は、この生命尊重の問題につきましても、今確認いただいた憲法の趣旨と現実が非常に乖離している大きな問題だと思っているところであります。なぜなら、これは生まれるべくして授かった生命が大量に失われているという現実があるからでございます。
 厚生省にお尋ねいたしますけれども、平成十年度の人工妊娠中絶件数と、それが母体保護法のどの条文により許可されたものなのか、トータルとそのおのおのの分類の数をお示しいただきます。

○政府参考人(真野章君) 平成十年度人工妊娠中絶件数は、厚生省の母体保護統計報告でございますが、三十三万三千二百二十件でございます。
 先生御指摘の人工妊娠中絶の要件でございますが、母体保護法第十四条におきまして、「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」、第二号といたしまして、「暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」に対して、都道府県の医師会の指定する医師が本人及び配偶者の同意を得て実施することができるとされております。

小山孝雄君 大半が母体保護法十四条一項一号に基づいて行われている。このお配りしている資料、「出生数と人工妊娠中絶数の推移」というのをごらんいただきたいと思いますが、昭和二十四年がこの母体保護法の前身の優生保護法が制定され、施行された年であります。それから今日までちょうど五十年でございます。その間に生まれた子供の数は八千二百二十七万六千四百三十七人、そして正式に届け出られた数字だけでも人工妊娠中絶数が三千四百四万一千十四件と、このように膨大な数でございます。実際にはこの二倍から三倍あるというのが常識だ、このように報ずる機関もございます。したがって、累々たる胎児のしかばねの上に築かれた戦後の日本だ、このようにも言えるかと思います。
 厚生省に尋ねますが、この中絶理由、大量の中絶件数の大半が身体的または経済的理由によって母体の健康を著しく害するおそれのある場合、このような事由で中絶された、こういうことでありますが、その中の身体的理由とは何でしょうか。また、経済的理由とは何でしょうか。

○政府参考人(真野章君) 身体的理由につきましては、疾病などによりまして妊娠を継続し、または分娩することが母体の健康を著しく害するおそれがあるものと医学的に判断された場合であると考えております。
 また、経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるものにつきましては、平成八年の厚生事務次官通知におきまして、「妊娠を継続し、又は分娩することがその者の世帯の生活に重大な経済的支障を及ぼし、その結果母体の健康が著しく害されるおそれのある場合をいうものであること。 従って、現に生活保護法の適用を受けている者が妊娠した場合又は現に生活保護法の適用は受けていないが、妊娠又は分娩によって生活が著しく困窮し、生活保護法の適用を受けるに至るような場合は、通常これに当たるものであること。」ということをお示しいたしております。

小山孝雄君 そうすると、経済的理由というのは、例えばことしはちょっと収入が減ったからとか、あるいは車を買いかえたいからとか、そういう理由ではないということですね。
 現に生活保護法の適用を受けている者が妊娠した場合、または現に生活保護法の適用は受けていないが受けざるを得ない状態になる場合というふうに決められている、このような事由が関係者に徹底されていると思いますか、政務次官

政務次官大野由利子君) 現場で守られているかどうかという御質問でございましたが、母体保護法におきましては、人工妊娠中絶の要件に該当するかどうかの認定を指定医師が行うこととするとともに、人工妊娠中絶を実施した場合には指定医師の都道府県知事に対する届け出義務を課しているところでございます。
 また、こうした取り扱いにおいて人工妊娠中絶が指定医師により適正に実施されるように、厚生省と日本医師会が共催で研修会を毎年実施しております。母体保護法の趣旨を徹底する、そしてまた指定医師の団体である社団法人の日本母性保護産婦人科医会が母体保護法の適正な運用を図るため、会員に対する指導を行うなどの取り組みを行っているところでございます。
 厚生省としては、この認定を行う指定医師の一人一人が生命尊重の観点から母体保護法の適正な運用を図るよう、関係団体と協力しつつ指導や研修をより一層推進してまいりたいと考えております。

小山孝雄君 今の説明聞きましたが、こんなことを言いたくはありませんけれども、政務次官、大臣にも伝えてください。
 先ほど局長が御答弁になりましたけれども、この問題について少し意見を聞きたいということでお越しをいただきましたときに、局長、担当課長もおられました。経済的理由ということが実態としては大半の理由になっているけれども、経済的理由というのは何ですか、何に定められておりますかとお聞きした。担当局長、担当課長が答えられなかったじゃないか。そのようなことで現場に徹底しているなどと言えませんよ。数日後だ、私のところへ来たのは。
 事ほどさように、経済的理由というこの法が決めたことは非常に重いもので、生活保護法の適用を受けているか、または受けざるを得ないような状態をいうんだということをこの際認識しなきゃいけないんじゃないでしょうか。政務次官、いかがですか。

政務次官大野由利子君) 先日、小さなお子さんを抱えて凍死をされたというような大変悲惨な事件もございました。委員が御指摘のように、生命の尊厳というのが大変大事であり、そのためには生命の尊重が大事だ、こういう御趣旨はよく理解できることでございます。
 経済的理由というのもさまざまな観点、さまざまな立場で論じることもできるのではないか、大変難しい問題である、このように思っております。

小山孝雄君 この出生数と人工妊娠中絶数の推移を見ますと、人口妊娠中絶が百万台に乗った年が昭和二十八年であります。
 それは、昭和二十四年に法律ができて、二十七年に今私が申し上げたところは大幅に換骨奪胎、骨を抜かれたからでございまして、皆さん奇異に感じられると思うので申し上げますが、経済的理由について定めた厚生事務次官通知が平成八年となっていますが、これは母体保護法という法律が改まったから改めて出し直ししたんだろうと、こう理解しておりますけれども、昭和二十七年までは今申し上げたような経済的理由という、生活保護法の適用を受けているとか受けざるを得ないとかそんな状態になるなというようなことは民生委員が判断をし、そして身体的理由、これ以上妊娠、分娩が続けられないというその判断は、中絶を施行する医師以外のほかの医師が判断をして、その同意書をつけて初めて実行できるという取り決めになっていたんです。それを外したがために大幅に中絶件数が増加したという、こういう経緯があります。そして、だからこそ日本の優生保護法はざる法だと、そして堕胎天国日本だという不名誉なことも言われてきたわけであります。
 どうですか、このようなざる法のままでよろしいと思いますか。

政務次官大野由利子君) ざる法という御指摘がございました。法律と実態に乖離があるのであれば、またいろいろと立法府においても御検討をいただきたいと思います。
 厚生省といたしましては、このような認定を行う指定医師の一人一人が生命尊重の観点から母体保護法の適正な運用を図るよう、関係団体と協力しつつ指導や研修をより一層推進してまいりたい、このように考えております。

小山孝雄君 政務次官にもう一つお尋ねしますけれども、少子化対策ということで、これはもう本当に莫大な予算も使いながら、政府を挙げて、国を挙げて今その対策が進められているわけでありまして、その陰で現在も、届け出された正式な数字だけでも年間三十三万もの生まれるべくして宿った命が失われているというこの現実をやはり重く受けとめて、そのようなことを少しでも防げるようにするのが厚生行政の重要な務めだと。
 一方では少子化対策でどかどか金を使う、一方では生まれるべくして宿ったのを抹殺している。この矛盾をどうお考えになりますか。

政務次官大野由利子君) 大変難しい質問でございますが、少子化対策少子化に対しましては、子育てに対する夢と希望がなかなか持てないというような現状もあって少子化が進んでいる、こういう現状もございます。確かに、先ほど生活保護云々のお話がございました。しかし、子供を産めば仕事を続けたくても仕事を続けることができないというような、なかなか仕事、雇用と育児の両立がまだまだ難しいというような現状もございます。
 そういう意味では、私は、この少子化対策というものはもっとトータルにこれは考えていかなければいけない問題でございまして、今の社会の慣行の問題、またさまざまな経済的な負担、こうしたものの軽減も必要でございましょうし、結婚することやまた子育てに対する喜びや希望が持てるような、こういう環境づくりが必要でございまして、このことの厳しい運用を図ることが即少子化対策というものとはまた違った角度の問題点も多々あるのではないか、このように思っております。
 また、国際的にも、リプロダクティブヘルス・アンド・ライツ、子供を産むことの女性の自己決定権というものについての大きな国際的な世論もございます。また、さまざまな考え方、宗教的な考え方、また思想的な考え方、これは多岐にわたる大変難しい問題であると思いますので、委員の御指摘は御指摘として、重要な御指摘として、また検討課題として受けとめてまいりたい、このように思います。

小山孝雄君 厚生省には、今の点、くれぐれも心を込めて進めていただきたいと思います。