リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

“格安中絶”のカラクリ ネット広告で危険な手術へ…元職員が告発

AERA dot.の記事 西岡千史2020.7.13 08:00週刊朝日

どこかでちらっと見出しだけ見ていて、出産一時金が出るからだと思ってはいたけど、まさか病院で搾取していたとは……驚きです。

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以下、前編の1ページ目です。
“格安中絶”のカラクリ ネット広告で危険な手術へ…元職員が告発 (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

“格安中絶”のカラクリ ネット広告で危険な手術へ…元職員が告発

 インターネット広告で「妊娠12週まで待てば5万円」と格安で中絶手術ができると宣伝し、全国から中絶希望の女性を集めている病院がある。12週以降の中絶手術はリスクが高いため、国会で問題になり、医師会も指導に入っていた。格安中絶手術のカラクリを、病院の元職員らが告発した。

【図解】中絶費用5万円のカラク

 2018年に日本で実施された人工妊娠中絶手術は約16万件。同年の出生数が約92万人なので、妊娠した人の約7人に1人が中絶を選択していることになる。

 背景には望まない妊娠や経済的な問題など、さまざまな理由がある。女性にとって中絶は重い決断だ。ところが、そのような女性に対し、危険な中絶手術に誘導している医師がいる。

 神奈川県内にあるX産婦人科は、表向きはどこにでもありそうな病院だ。ホームページには、中絶に関する記述はない。しかし、実態は異なるという。

 神奈川県内の産婦人科医は言う。

「X産婦人科では、公式ホームページとは別に中絶専用のホームページを持っています。妊娠12週以降の中絶手術が『5万円』というインターネット広告も出し、全国から中絶希望の女性を集めているのです」

 12週以降の中絶手術は母体へのリスクが高まる。中絶手術が実施できる母体保護法指定医に向けて制作された『指定医師必携』(日本産婦人科医会)には、12週以降の中絶手術の危険性についてこう書かれている。

<中絶による母体障害率は、妊娠12~15週における中絶が最も高い>

<妊娠初期の中絶に比して事故の頻度が高いので注意する。できるだけ中期中絶にならぬような指導が大切である>

 前出の医師は怒りを隠さない。

「12週以降の中絶手術は、子宮を傷つけて次の妊娠・出産に影響する可能性があります。中絶時期を遅らせるように誘導することは、医師として許されない行為です」

 この医師の言うとおり、グーグル検索で「中絶」とキーワードを入れると、検索結果の上位にX産婦人科の広告が出てくる。

 広告には<保険証を使える無痛中絶手術><妊娠12週まで待てば5万円><12週から保険証で割安に>とも書かれている。

 なぜ、12週以降の中絶手術が割安なのか。

以下、前編の2ページ目です。
“格安中絶”のカラクリ ネット広告で危険な手術へ…元職員が告発 (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

「12週以降の中絶手術は通常の出産と同じような処置が必要で、中絶希望の女性は40万円以上の医療費を支払わなければなりません。一方、12週以降の中絶手術では、40万4千円の出産育児一時金健康保険組合から支給されるので、結果として自己負担分は減ることになります」(前出の医師)

 つまり、12週以降の中絶手術の価格を安くしても、病院としては売り上げは減らないということだ。

 これだけではない。X産婦人科の中絶専用ホームページには<妊娠15週台まで日帰り手術可>と書かれている。休みが取りづらい女性にとってありがたいサービスのように思えるが、ここにもカラクリがある。X産婦人科の元職員は、こう証言する。

「X産婦人科では、12週以降の中絶手術でも手術当日に来て、終わったら自宅に帰る女性がたくさんいました。術後の診察も来ない人が多い。入院しても、日帰りでも、病院が受け取る約40万円の出産育児一時金の額は同じ。日帰りで手術を受けてくれる女性のほうが、病院にとって利益率が高いといえます」

 妊娠11週以前を含めると、X産婦人科の中絶手術は「月に300件を超えることもある」(元職員)という。中絶専用のホームページにも、年間で3千件以上の手術を実施していることがアピールされている。神奈川県内の同じ規模の病院では「中絶件数は月に5、6件程度」(前出の産婦人科医)というから、ネット広告の効果は大きい。

 前出の元職員によると、「熊本から中絶手術を受けに来る人もいた」という。遠方から来院する女性を意識してか、X産婦人科のホームページでは、羽田空港や東京駅からのアクセスがいいことがアピールされている。

 グーグルなどの検索エンジンで表示される広告は「リスティング広告」と呼ばれ、検索したキーワードに応じて最適の広告が表示される仕組みになっている。ある医師は、こう解説する。

「中絶のリスティング広告は、費用に対して効果が高い。1千万円以上かけてインターネット広告を出している産婦人科もあります」

 この医師が言うように、中絶の広告は他の病院も出している。「妊娠12週まで待てば5万円」といった、あからさまに中期中絶に誘導するような言葉ではなくても、ホームページなどで12週以降の中絶手術は価格が下がるとアピールする病院は後を絶たない。

(本誌・西岡千史)

週刊朝日  2020年7月17日号より抜粋

以下、後編の1ページ目です。
母体のリスク高い“格安中絶” 神奈川県のX産婦人科院長との一問一答 (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

母体のリスク高い“格安中絶” 神奈川県のX産婦人科院長との一問一答

 神奈川県内にあるX産婦人科では、インターネット広告で「妊娠12週まで待てば5万円」と格安で中絶手術ができると宣伝し、全国から中絶希望の女性を集めていた。12週以降の中絶手術は母体へのリスクが高まるため、危険性が指摘されているにもかかわらずだ。

【前編/「“格安中絶”のカラクリ ネット広告で危険な手術へ…元職員が告発」】より続く

 この問題は、昨年11月に国会の参院厚生労働委員会でも取り上げられた。質問したのは、医師の資格を持つ梅村聡参院議員(日本維新の会)。梅村氏は、厚生労働省にこう質した。

「多くの産婦人科のホームページは、12週から後は中期中絶なので体に対する負担が重いと書いてある。(X産婦人科は)そういうことではなくて、経済で(12週以降の中絶に)誘導していく。(中略)母体保護法上の違反になるのか」

 これに対して厚労省の担当者は、X産婦人科の記述が「ただちに母体保護法違反ということはできない」との認識を示した。梅村氏は言う。

「これは制度の穴をついた問題のある医療行為です。12週以降に中絶手術を延ばして出産育児一時金を得ることについて、国民の命と健康を守るべき厚労省が法律違反だと断言しないから、こういった広告が広まっているのです」

 中絶手術を実施する医師は、各都道府県の医師会から母体保護法指定医の認定を受けなければならない。国会で問題が取り上げられたことで、神奈川県医師会がX産婦人科に調査に入った。そのことは、日本産婦人科医会の会報「JAOGnews」20年3月号で、県医師会の関係者の発言としてこう書かれている。

<国会でも問題となった出産育児一時金取得目的で妊娠12週以降の中期中絶を多数施行する施設について現在調査を行っており、指定資格停止等の処分を検討している>

 県医師会の関係者によると、X産婦人科には今年1月までに複数回の指導が入ったという。その後、X産婦人科の中絶専用のホームページからは、12週以降の中絶手術に誘導するような記述は削除された。

以下、後編の2ページ目です。
母体のリスク高い“格安中絶” 神奈川県のX産婦人科院長との一問一答 (2/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

 医療機関による広告は、厚労省の「医療広告ガイドライン」によって規制されている。不当な広告によって患者が身体的な被害を受けた場合、ほかの商品やサービスに比べて消費者の損失が大きいからだ。

 12週以降の中絶手術に誘導するかのような広告に問題はないのか。

 厚労省は「個別の事案については回答できない」としたものの、「人を誤認させる広告」が禁止されていることを例に、12週以降の中期中絶に誘導する広告は「ガイドラインに抵触する可能性がある」と回答した。

 そこで本誌は、X産婦人科のA院長に取材を求めた。面会での取材は拒否されたが、A院長はメールで回答。問題となっている「妊娠12週まで待てば5万円」の広告については、出産育児一時金の制度を知らせることが目的だったが、本誌の指摘を受けて現在は削除したという(下記、一問一答参照)。

 医師の職業倫理を示した「ヒポクラテスの誓い」には、こう書かれている。

<養生治療を施すに当たっては、能力と判断の及ぶ限り患者の利益になることを考え、危害を加えたり不正を行う目的で治療することはいたしません>

 目先の利益になびく医師を増やさないためにも、新たなルールづくりが急務だ。(本誌・西岡千史)

■A院長との一問一答

──グーグルの広告では「妊娠12週まで待てば5万円」と書いている。出産育児一時金制度の趣旨に反し、12週以降の中絶に誘導しているのでは。

 患者の中には経済的に困っている方もおり、出産育児一時金の制度をお知らせする趣旨で掲載していました。しかし、県医師会から指摘を受け、当院のホームページを修正することになりました。そのほかの当院の広告で修正が未了だったものがありますが、現在、修正を完了しています。

──「妊娠15週まで日帰り可」とも書かれている。

 妊娠15週までの患者に対しては、術後の経過を観察のうえ、問題ないと判断した場合はその日のうちに帰宅することを許可しています。反対に、入院をお願いする患者もいます。「妊娠15週まで日帰り可」というのは、必ず何日か入院が必要になると考えている患者に、必ずしもそうとは限らないということをお伝えする趣旨です。

以下、後編の3ページ目です。
母体のリスク高い“格安中絶” 神奈川県のX産婦人科院長との一問一答 (3/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

──病院のホームページには、広告を出していないから出産費用が安いと書いている。

「出産の広告は掲載していない」という意味合いです。誤解を招かないように修正しました。

──毎月の広告費用は。

 公表を控えさせていただきたいと思います。

──出産用と中絶用でホームページを使い分けている理由は。

 ホームページの管理会社の社員に女性が多く、中絶手術にタッチしたくないとのことでした。結果的に別々になっています。

──病院の2階が中絶専用のフロアになっているというのは事実か。

 施設内部のことは回答を控えさせていただきます。

──中絶手術の件数は。

 ホームページに記載していること以外は公表を控えさせていただきます

週刊朝日  2020年7月17日号より抜粋