リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「月経困難症」という作られた病

海外の「避妊薬」が日本では「治療薬」として高く売られている!

宋美玄先生の記事によれば、10年ほど前にルナベルという薬が月経困難症治療薬として導入されたとき、薬価が高く設定されたという。
開業してわかった 日本でピルが普及しない理由 - リプロな日記

ルナベル配合錠の製造販売元はノーベルファーマ株式会社、販売元は富士製薬工業株式会社。成分の若干違う2種類ある:

  • ルナベルLDがノルエチステロン1mgとエチニルエストラジオール0.035mg配合
  • ルナベルULDがノルエチステロン1mgとエチニルエストラジオール0.02mg配合

以上は、https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2482009F1031_2_14/にて確認した。


いずれにしても、2種類のホルモン製剤を組み合わせた薬だ。

ノルエチステロン(norethisterone)はプロゲスチン製剤
エチニルエストラジオール(ethinylestradiol)は卵胞ホルモン(エストロゲン)の一種


海外でこの2つのホルモン剤を組み合わせた薬の一般名は、Ethinylestradiol/norethisterone(略EE/NET)であり、Alyacen, Aranelle, Balzivaなどの商標名で販売されているという。


アメリカ政府のDAILYMEDというデータベースでAlyacenを検索すると次がヒットした:

ALYACEN 7/7/7 and ALYACEN 1/35 Tabletsare indicated for the prevention of pregnancy in women who elect to use this product as a method of contraception.

製品添付文書によれば、ALYACEN 7/7/7はNET0.5mgとEE0.035 mg、ALYACEN1/35はNET1mgとEE0.035mg配合で、どちらも経口避妊薬だと明記されている。


この添付文書において、月経困難症(dysmenorrhea)は2か所で登場している。1つは「臨床試験や市販後の経験から報告された副作用」、もう1つは「避妊以外の健康上の利益」として「月経への影響:月経困難症の出現の減少」とある。つまり、副作用と副効用の両方が掲載されており、どう見てもこの薬は月経困難症を治療するための薬ではない。


他のEE/NET剤であるAranelleとBalzivaも、経口避妊薬として売られていた。ちなみに、本日の時点でのWikipediaの”Ethinylestradiol/norethisterone”の説明の中に、dysmenorrheaは見られないし生理痛に該当する言葉も全く出てこない。


さて、宗先生の嘆きに戻ろう。日本では月経困難治療薬として発売されたルナベルは薬価が高く設定され、女性たちにアクセスしにくいものになってしまった。しかし、海外では同じ薬が経口避妊薬として販売されており、3か月分のパックで48ドルとあるので、ひと月にすれば千数百円だ。


一方のルナベルは、保険適用(3割負担)で2000円くらいからで、2700円以上に設定しているクリニックもあった。となると、薬の販売価格は6700円から9000円にも膨れあがる。つまり、製薬会社としては同じ薬を海外で避妊薬として安く売るよりも、日本で月経困難症治療薬として売る方がはるかに儲けが大きくなる仕組みが作られているのだ。


先日来調べてきたヤーズとヤーズ・フレックスの正体も同様なのだろう。

日本ではレボノルゲストレル(Levonorgestrel (LNG))含有の91日タイプが販売されていないと思っていたら、ノベルファーマ社がジェミーナというレボノルゲストレル(0.09mg)・エチニルエストラジオール(0.02mg)配合製剤(77日間連続投与、7日間休薬)を開発していたとの情報が入ってきた。


より血栓が起こりやすく海外では膨大な数の訴訟まで起きているドロスピレノン(drospirenone)含有のヤーズを用いた最長120日タイプのヤーズ・フレックスしか国内で認可されていないと思っていたので、これはいちおうの朗報だと言えよう。(値段の問題はまだ残っているが。なお、保険がきくといっても、その費用は税金から出ているわけで、健康保険を経由して国民が7割を製薬会社に支払っていることになる。)


なお、経口避妊薬(ピル)が「月経困難症の出現の減少」という副効用をもたらすのが確かであれば、ピルが普及していないぶん、日本の女性たちは「月経困難症」に苦しめられる可能性が高くなる。


宋医師の証言によれば、「産婦人科の女性医師は低用量ピルをはじめとしたホルモン療法により、月経随伴症状に煩わされっぱなしという人はあまりいない」。つまり、ピルを飲んでいれば「月経随伴症状」に煩わされることは少ないのだという。


今、「月経困難治療薬」は「LEP」という新たな言葉を使っていかにも科学的で最先端のもののように喧伝されている。しかし、あなたが製薬会社の売り上げに貢献したいと思っているわけでなければ、わざわざ高いお金を払うことはない。おそらく普通の避妊ピルさえ普及すれば「生理痛」に悩む女性はぐっと減ることだろう。普及させるためには価格を抑え、アクセスを向上させることだ。


もちろん本当に病的な月経困難症に苦しめられている人もいるだろう。器質的な問題がある場合は、たぶん「治療」が不可欠な人もいるのだろう。それでも、いわゆる生理痛に「月経困難症」という診断名がつき、「いい薬がある」ということで治療に誘導されていく人も中にはいるのではないか。


海外では何種類もの経口避妊薬が当たり前のように店頭販売されていて、国によっては若者に無料配布されてもいる。そんな国では、当たり前に経口避妊薬の恩恵を得ている女性や少女たちもいることを思えば、日本の状況は女性にも少女にも酷である。

情報追加(2021年7月16日)
日本産婦人科医会の「月経困難症」の説明(治療薬情報含む)