リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ECのOTC化について

2017年にパブコメで出した文章

パブコメ(2019年でなく17年でした!)の内容だけではなく、それを引用して性と生殖を考える女性専門家の会ニューズレターに出した文章に差し替えました。

一般社団法人 性と健康を考える女性専門家の会
20周年記念及び法人化記念シンポジウム「メディカル・ギャップを考える」
3)リプロダクティヴ・ヘルス(&ライツ)の立場から
塚原久美

 「メディカル・ギャップ」をリプロダクションにまつわる領域で生じている諸問題として見るとき、そのリプロダクティヴ・ヘルスを受ける当事者が期待するような医療もしくは本来その当事者が受けられて当然である医療が提供されず、当事者が回避できるなら回避したいと思うような代替策が押し付けられている問題と捉えることができます。
 具体的に考えてみましょう。私は長年、避妊や人工妊娠中絶を巡る諸問題を研究してきました。古代から女性たちにとって、予期しない妊娠は自分の人生の前に立ちはだかる大きな問題でした。妊娠を天の采配と諦めて常に運命を受容する女性たちもいた一方で、できるだけ「妊娠」しないような手立てをしたり、自分の命を賭けてでも目の前の「妊娠」を終わらせようとしたりする女性たちもいました。生殖機能は女性たちに喜びももたらす半面、悲しみや痛みももたらしうるものでした。
 そうした女性たちの前に、科学技術の進化によってより安全で確実な避妊と中絶が提供されることで、女性たちは生殖に関する「運命」を自分で変えていけることを知ったのです。20世紀後半に開発された妊娠避妊薬と吸引中絶技術は、海外で20世紀後半に始まった生命倫理学(バイオエシックス)においてまっさきに取り上げられ、その議論を深めることにもなった重要なトピックスです。なぜなら、その頃にちょうど「避妊ピル」が開発され、ほどなく女性運動の高まりもあって「中絶合法化」が実現したためです。より安全でより確実な避妊と中絶を女性たちにもたらしうる力を秘めている避妊ピルや吸引中絶が登場したことで、女性たちのあいだにはニーズが生じました。ところが、法学者や倫理学者、医師たちの多くが様々な理由を持ち出して、女性たちが新しい手段に訴えることを阻んだのです。それに対して、避妊と中絶の手段は自分たちが自由に人生を歩んでいくために不可欠だと見た女性たちは「自分のからだは自分のもの」という標語を掲げて反論しました。そこから議論を重ねて、今では女性のリプロダクティヴ・ヘルス&ライツは人権として認められるにいたっています。その議論の発端には、女性が自分自身の性と生殖に関する自己決定を行い、可能な限り自己コントロールできるようにしていくという精神があります。
 リプロダクティヴ・ヘルスとはリプロダクションにまつわる身体的、精神的、社会的に最良のウェルビーイングの状態にあることを指します。望まない妊娠状態を続けている女性は、仮に身体的には健康であったとしても、そのためにうつに陥ったり、仕事を辞めねばならなくなったりするなら、彼女の精神的、社会的なウェルビーイングは阻害されていることになります。
 なお、リプロダクティヴ・ヘルスは単に「健康な状態」を意味するのではなく、獲得されるべき人権であることを明確にするために、しばしばリプロダクティヴ・ライツという概念とセットで提示されす。リプロダクティヴ・ライツは非常に広範な概念ですが、大きく二つの権利にまとめることができます。第一は、リプロダクションにまつわる事項について当人の自己決定が尊重されること(リプロダクティヴ自己決定権)、第二は、現時点で得られる最良のリプロダクティヴ・ヘルスケアを保証されること(リプロダクティヴ・ヘルスケアへの権利)です。
 さて、この原稿を依頼された直後に、本会のメーリングリストを通じて厚生労働省が緊急避妊薬レボノルゲストレルのOTCに関してパブリック・コメントを募集していることを知り、そこで行われている議論がまさにメディカル・ギャップが現れているように感じました。

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1.女性の生殖にまつわる健康と権利を保障し推進するために、レボノルゲストレルのOTC化は不可欠です
 WHOの最新(2017年)の緊急避妊に関する勧告では、「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性および少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は国内のあらゆる家族計画プログラムに常に含まれねばならない」と述べられています。現在の日本において、最も効果が高く最も安全な手段はレボノルゲストレルに他なりません。
 日本でも、無防備なセックスのリスクにさらされている女性や少女がこの薬に容易にアクセスできるようにすべきです。

2.緊急避妊薬としてのレボノルゲストレルの性質上、早期服薬は非常に重要です
 海外の専門家たちのあいだでは、レボノルゲストレルは、基本的に精子および/または卵子の卵管通過を邪魔して排卵または受精を妨げることで緊急避妊薬として機能する薬であり、さらに子宮内膜に作用することで着床を防げる可能性もあると考えられています。
 レボノルゲストレルは服用するタイミングで成功率が変動します。性交後72時間以内のいつでも構わないわけではなく、〈できるだけ早めに服用〉することで避妊の可能性は高まることが知られています。海外の多くの国々で、特に先進国のほぼすべてがこの薬を処方箋なく入手できるOTC扱いにしているのは、緊急事態に陥った女性が一刻も早くこの薬にアクセスできるようにするためです。日本でもOTCで購入できるようにすべきです。

3.薬の安全性・有効性は科学的エヴィデンスに基いて判断してください。
 レボノルゲストレルが非常に安全な薬であり、深刻な副作用を引き起こすことはないことは海外では何度もくりかえし報告されています。国際的にレボノルゲストレルが安全で有効な薬品であると見なされていることは、審査が非常に厳しいWHOの必須医薬品リストにも掲載されていることからも明らかです。
 最新のレビューによれば、この薬を用いても妊娠が継続した女性は1000人につきわずか11~24人であり、非常に多くの女性がこの薬を用いることで妊娠を回避できるのです。この大きなメリットの一方、この薬のリスクはたいへん低いと考えられています。
 なお、緊急避妊薬にアクセスしやすくすることで子宮外妊娠を見逃して死亡するリスクが高まるといった議論は、海外の信頼に足る文献には全く見当たりません。仮に、子宮外妊娠のリスクを理由にこの薬のOTC化を阻むのであれば、それを支持する科学的論拠を提示して議論すべきです。

4.女性のリプロダクションに関する自己決定を尊重してください
 レボノルゲストレルをOTC化しないのは、一種の「パターナリズム」であり、女性の自己決定を否定するものです。女性のリプロダクティヴ・ヘルスと自己決定を尊重するために、この薬は最低でも薬局でのOTC薬にすべきです。女性のリプロダクティヴ・ヘルスのニーズを充分に考慮し、特に意図せぬ妊娠をするという事態に鑑みるのであれば、女性たちの緊急避妊へのアクセスを第三者が妨害してはなりません。
 薬へのアクセスに様々な障害を設けることは、国際的な義務である到達可能である最高水準の医療を得る女性の権利を尊重、保護、達成することの妨げにもなり、医療に差別を持ち込まないという規定にも反します。

5.女性のみのニーズを阻害するのは性差別にあたります
 日本は女子差別撤廃条約の締結国であり、他の条約締結国同様に女性の人権としてのリプロダクティヴ・ヘルス&ライツを促進していく義務を負っています。海外の例にならって、科学的エヴィデンスと女性の権利尊重に基づき、日本でもレボノルゲストレルをOTC化していくべきです。
 また、海外諸国に比べて日本女性のあいだで避妊ピルの使用率が低いことは、この薬のOTC化を阻む理由にはなりえません。発展途上国の多くは避妊ピルの使用率が低いにも関わらず、ほとんどの国が緊急避妊薬を合法化し、導入しています。
 性教育の不足についても、むしろこの薬をOTC化するにあたって、女性たち自身や産婦人科医療や医薬品に携わる人々のあいだでリプロダクティヴ・ヘルスを守る意識を涵養していくことが重要でしょう。さらに、女性の健康と権利を尊重、保護、推進していくために、販売価格や販売方法、性教育や一般人への情報提供のあり方などについても再検討していく好機になるのではないかと期待しております。

以上