リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ピルと女性の自由と自律

日本女性がつかみそこねたもの?

レファレンス共同データベースレファレンス協同データベースなるものを見つけた。

レファレンス協同データベースとは?
レファレンス協同データベースは、国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築している、調べ物のためのデータベースです。

事業概要
目的
レファレンス協同データベース事業は、公共図書館大学図書館学校図書館専門図書館等におけるレファレンス事例、調べ方マニュアル、特別コレクション及び参加館プロファイルに係るデータを蓄積し、並びにデータをインターネットを通じて提供することにより、図書館等におけるレファレンスサービス及び一般利用者の調査研究活動を支援することを目的とする事業です。

おもしろい! 以下のような事例が出てきた。

質問(Question)
日本におけるピル使用をめぐっての、フェミニズム内部の対立や論争について知りたい。

回答(Answer)
①『女の子からの出発』
②『ピルはなぜ歓迎されないのか』
③『資料日本ウーマンリブ史Ⅱ』
④『現代日本女性史』
⑤『フェミニズムの主張3 生殖技術とジェンダー
⑥『産む産まないは女の権利か』
以上の資料を提供した。(後略)

なるほど……世界では避妊ピルの登場により女性たちは高等教育を受け、労働市場に進出していったと言われているのに、日本はピルなしで女は強くなった……。

いや、そうなんだろうか? ピルがなかったことで、日本のフェミニズムは海外の先進国と呼ばれる国々とは全く別物になっているのではないだろうか。なにしろ、あまりにも女性のリーダーが少なすぎる。社会進出は進んだといっても、社会の底辺を支えている低賃金で不安定な職に就かざるをえない女性があまりにも多い。


日本では避妊ピルの承認が米国より40年も遅れたばかりか、認可されて20年経った今もまだ広く普及してはいない。大学に進学し、働く女性は増えたとはいえ、過半数の女性は賃金の低い非正規職(男性の正規職の賃金の約半分=53.5%)で働いており、しかも景気の調整弁にされがちな不安定雇用にさらされている。男女共同参画社会などと言いながら、日本の女性の社会参画(単なる社会参加ではなく、方針決定、政策立案などから参加すること)は明らかに遅れている。そして、現在のコロナ危機においても、日本では「女性政策」はほぼ皆無である。エッセンシャル・ワーカーの多くは女性であり、ステイホームでDVや望まない妊娠が増え、女性の自死が増えているにも関わらず……。他の国なら、とっくに腹を立てた女性たちが大型のデモをくりひろげていることだろう。


「コロナ禍の貧困は女性に、より深刻に襲いかかっている。総務省労働力調査によると、緊急事態宣言が出た今年4月の女性雇用者数は、3月から約74万人減少した。男性の実に2倍で、多くは非正規労働者に従事していた女性たちだ。非正規、そして非婚または未婚の女性たちが大量に住む部屋を失い、ホームレス化する恐れが高まっている」(2020年12月20日付の東京新聞朝刊の女性の貧困を特集した「こちら特報部」からの引用:朝日論座から孫引き)


元々日本では、正規雇用で働く女性であっても正規雇用で働く男性の賃金の4分の3(75.6%)しか賃金を得ていない。母子世帯の収入は全世帯の収入の半分に満たず(49.5%)、子有り世帯の収入と比べると4割にも満たない(38.2%)。「生活が苦しい」と認識している母子家庭は8割以上(82.7%)に上る。(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h28_rev2.pdf:title=厚生労働省 平成30年国民生活基礎調査平成28年)の結果から グラフでみる世帯の状況 )


コロナ禍で性暴力や望まない妊娠に苦しみ、職や収入を失って困窮している女性は大勢いると思われるのに、政府はすみやかな実態調査すら行っていない。


日本では国を動かせるような立場にある女性はほとんどいない。2020年9月に発足した菅義偉内閣では20の閣僚のポストのうち女性大臣はわずか2名で、女性比率は10%に留まっている。昨年の調査では、世界では女性閣僚の割合が過半数である国が14ヵ国で、閣僚ポストに就く女性の割合は21.3%(4003中851)だった。この調査時点で日本の安倍内閣の女性閣僚は15.8%(19人中3人)で、全体(190ヵ国)の中で113位だったが、新内閣の10.0%をこの調査結果に照らし合わせると、148位のブータンマーシャル諸島サンマリノ(いずれも10.0%)と並ぶことになる。
ハフポスト2020年9月16日報道:列国議会同盟(IPU)とUN Womenの2020年1月1日時点のまとめによる。


国会議員に占める女性の割合も、2020年1月現在で衆議院9.9%はOECD諸国で最下位、世界191カ国中165位(2020年1月現在)にとどまる。(参議院は22.9%)。


2019年末には世界経済フォーラムジェンダー・ギャップ指数で、日本は153ヵ国中121位(2019年12月)となり前年より11もランキングを下げたことが話題になった。G7の中では圧倒的な最下位であり、中国(106位)や韓国(108位)よりも低かった。

女性一人で妊娠をコントロールできるピルは女性の自由と自律の象徴であり、海外の先進国の女性たちは1960年代から1970年代に男性社会と闘ってそれを獲得した。人口調整のための中絶を先に与えられていたために、日本女性がその自信と自尊心をつかみそこねたことが、根深い女性差別が今も蔓延していることに影響してはいないだろうか……とつい考えてしまう。