リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

優生保護法に関する加藤シヅエ議員の発言

忘備録

国会議事録データベースで見つけた記録

第1回国会 衆議院 厚生委員会 第21号 昭和22年10月9日
10月6日 優生保護法案(福田昌子君2名提出)(第11号)

第1回国会 衆議院 予算委員会 第19号 昭和22年11月10日

094 加藤シヅエ
○加藤(シ)委員 私は先ほど總理大臣に人口國策の確立に關連して、産兒制限の問題について伺つたのでありますが、今囘はやはりこの産兒調節の問題は、特に厚生省の所管事項でございますので、厚生大臣に同じくこの問題について伺いたいと存じます。
 この豫算委員會におきまして、すでに千八百圓ベース堅持の政府の方針に關連いたしまして、耐乏の生活が國民に強要されて、これに關する論議がたびたび展開されたのでございますが、今冬を目前に控えまして、繊維製品の配給は見るべきものもなく、特に都會生活者にとりましては、燃料不足が深刻を極めておりまして、家庭を守ります主婦にとりまして、經濟安定本部より先だつて發表されました、この十月から三月までの冬の燃料は、五人家族に木炭に換算して九俵と發表され、この割當量は食生活を賄うのに、ぎりぎりの量であるということであります。燃料不足の際には、都會地の家庭の主婦にとりまして、命の綱とも思つておりました電熱器の使用は、十一月七日の閣議決定によりますと、朝の六時前と夜の八時過ぎでなければ、使用が許されないという現状にさらされ、しかも食生活におきまして主食の遲配、缺配は、昨今はやや緩和されておりますが、何分にも粉だの芋だのというものを配給されておる現状では、これを主食として食膳に上せば、家族に滿足をいたさせるために、主婦は容易ならぬ工夫をいたしましたり、手間をかけなければならぬということが、今日の耐乏生活の婦人に及ぼしておるところの姿でございます。しかも住居の問題、これまたはなはだ不自由を極めまして、三百八十五萬世帶は未だに家がないと申しておりますし、さいわいにして屋根の下に住んでおります者でも、六疊、四疊半に二家族一緒に住んでおる。またそんなひどい状態でないまでも、窮屈な間借りの生活をしておるということは、今日あたりまえだという状態であります。そこで私が厚生大臣にお伺いいたしたいのは、このような文字通りの耐乏生活の中にあつて、現在以上に生活に負擔を過重させる結果となるような主婦の妊娠出産は、ほんとうに子供を愛しわが子の幸福を願う視たちにとつては、決してよい條件を備えていないということを、お考えになつていらつしやらないでしようか。また乳幼兒をもつている家庭は、大人の食生活に必要な燃料のほかに、隨時お湯を沸かしたり、あるいは乳を暖める燃料が必要である。また妊産婦は十分な榮養、また人口榮養兒についてはミルクその他の確保がなくては、健康なる次のゼネレーシヨンを望むことはできないのであります。今日の耐乏生活は妊娠出産に、最低限度必要なる條件をも備えていないということは、最近における乳幼兒の死亡率が非常に高いこと、兒童の體位が非常に劣惡化しておること等によつて、はつきりと證明されておると思います。私はこの現状に對しまして、政府は妊産婦、乳幼兒、虚弱兒等の保健問題には、十分具體的な對策を講ぜらるべきだと考えますが、これらの問題に對する對策が、豫算の面においてもはなはだ輕視されておるように思いますのは、非常に遺憾だと思います。文化國家、民主主義を唱えます政府が、自分の主張する力において一番弱い妊産婦、乳幼兒の保護、あるいは問題は少しそれますが、未亡人、戰災孤兒、傷病兵、それらの保護對策の強化を行つて、初めて國民はその説くところの民主主義に共鳴し、納得し得るものであると存じます。そこで妊産婦と乳幼兒の保護問題に立ち返りますが、保護策の強化はもとより望むところでございますが、國家の財政も、個人の經濟も、ともに豐かでない今日、保護對策に無限の費用を捻出することの困難を考えまして、むしろこの際政府は積極的に産兒調節の知識を普及するという問題をお取り上げになるべきではないかと存じますが、いかがでございましようか。産兒調節の知識は、戰爭前も、また今日も、一部民間のなすがままに放任してございます。この際政府はこの産兒調節の知識を普及する機關を設けて、歐米において今日權威ありと認められている科學的な方法を、國家的見地から普及するお考えはございませんでしようか。この點について承りたいと存じます。
095 一松定吉
○一松國務大臣 加藤委員の豐富なる産兒制限に關する御活躍や、それらの知識等について、幾多參考に供すべき重要な事柄のあることは、私平素あなたのお話を新聞もしくはラジオ等によつて承知しておりまして、非常に尊敬をいたしております。お示しのごとく、出産した子供の哺育、發育に關して、耐乏生活をいたしておる今日、いろいろの點に缺陥のあることを私はよく認めております。こういう點については、厚生省といたしましては、今囘御承知の通り兒童福祉法の御協贊を仰ぎました。これがいよいよ發令されることになりますれば、そういうような缺陥も、だんだん是正されるであろうと、私は非常に期待しておるのであります。ところが今日そういうような耐乏生活をいたしておつて、乳幼兒の保護政策が十分に行われないことに牽連して、これらの點を幾分でも是正すべく産兒の調節をという御意見は、私はごもつともだと思うのであります。しかしながら、産兒の調節をすることを、政府が法律をもつて指導奬勵するとかいうようなことは、ただいま考えておりません。これら點につきまして、いろいろな政策の行き詰まりとか、その他の點において、そういうことを實施する必要があるときにあたつては、大いに研究實施しなければならぬ必要があろうと思いまするけれども、ただいまのところでは、そこまで考えておりません。ただここで私の非常に氣にかかつておりますることは、受胎調節ということと、産兒の制限を國民の間において誤解をしております。いわゆる妊娠しておるものでもこれを堕胎することができるというふうに考えて、むやみやたらにそういうような間違つた考えで、これを實施せんとし、もしくは實施しておるような者が、ある階級にあることを私は恐れておるのでありまして、これらの點に對しましては、今あなたのお示しになりましたように、いわゆる受胎の調節という言葉であれば、國民も間違えないと思うのでありますが、それらの點は、その人々によつて、もしくはその地位、境遇によつて、自然に行われるということの方がいいのではないかと考えております。かしその結果政策が行き詰まつて、それらの弊害がますます多くなるというよう事實がここに現われる場合には、政府は大いに研究して、これらのことを實施しなければならぬ立場になるかもしれません。そういうときには、あなた方のような權威の人に、十分に御協力を願わなければならぬと考えておりますが、ただいまのところでは、まだ考えておりません。
096 加藤シヅエ
○加藤(シ)委員 厚生大臣は今日の時勢に對して非常に正しい御認識をおもちになり、殊に耐乏生活の中にあつて、非常に苦しい生活をいたしております日本の婦人たちの立場にも、非常な御理解のある御答辯をいただきましたことは、私も非常に嬉しく存ずるのでございますが、問題は産兒調節、つまり受胎を未然に防ぐということの問題を、法律をもつて何人にも強制することはできない性質のものであることは、私どももよく承知いたしております。從いまして、法律で産兒調節をむしろ命令のように、ある人には産兒調節はぜひしなければならぬと、國家から命令で指導するというようなことは、私は未だかつて考えたことはないのでございますが、今日歐米先進國におきまして、受胎を未然に防ぎますことは、乳幼兒の死亡率を下げますことと、母性の保護の見地から、豫防醫學として、どうしても採用しなければならない知識であるという結論に到達いたしておりますので、私はこういう意味の豫防醫學として、何らかの形でこの研究をますます盛んならしめ、かつこれを必要に應じて指導するような機關をおもちになることが必要でないかということに關して承りたいと存じます。
 そこで私は乳幼兒の保護については、このたび議會を通過いたしました兒童福祉法のことについて、ただいま厚生大臣の御所見を承りましたのでございますが、もちろん兒童福祉法案の通過も非常に結構なことで、私は多くの期待をいたしておるのでありますが、もつと見體的に、殊に醫學的に乳幼兒の死亡率を下げますためには、豫防醫學として、先ほど申し上げましたように、妊娠を調節させる知識がどうしても取り入れられなくてはならぬ。殊に日本が今日文化國家の體面を整えようとしますならば、乳幼兒の死亡率は絶對に急速に引下げる必要があるのではないかと存じます。そこでアメリカのワシントンの小兒局で發表いたしております受胎調節の知識を利用いたしまして、同じ子供を産みますにも、無制限、あるいは無計畫に子供を産むよりも、一定の計畫を立てて、そうして相當の間隔をおいて子供を産むことが、如實に、具體的に、乳幼兒の死亡率を下げるものであることを、統計を示して發表いたしております。私はこの知識は日本としてもどうしても採用されなくてはならぬと存じます。從つてこういう知識を採用するには、國家的指導機關が必要になつてくる。こういうことを申し上げておるのでございますが、ただいま承るところによりますると、現在ございます國民優生法、これは戰爭中にできましたもので、私どもはこの内容については、はなはだ不滿をもつておる者でございますので、近く厚生委員會の方に優生保護法案を提出いたしまして、十分皆樣に審議していただこうということになつて、私も提案者の一人になつておるのでありますが、こういうような法律が通過いたしました場合には、これを實施するために、來年の本豫算においては、十二分にこれをおとりになつていただきたい。これについて、厚生大臣はどういうふうにただいまお考えになつていらつしやるか。もう一度承りたいと存じます。
097 一松定吉
○一松國務大臣 乳幼兒の死亡率を引下げることにつきましては、全然同感であります。でございまするから、私どもの方の所管といたしまして、これらのことについては、十分な認識をもつておりまする結果、兒童福祉法を通過していただいて、これを實施して、それらの點を十分保護して、これらの死亡率をなるたけ少くしよう。そして健全にして健やかなる子供を發育せしめるように努力しようという考えでおるのでありまして、これは兒童福祉法の際に、皆樣が熱心に御審議を賜わつたことによつて、十分厚生省の意のあるところは、御了承願つておることと思うのであります。そこでしからば、このいわゆる受胎調節の知識を國民の間に指導することが必要ではないか。これは私は必ずしもそれが必要でないとは言わない。でありますから、どうもおれはあまりたくさん子供を産んで、それがために生活が困る。ひとつ子供を産まないようにしようという程度の避妊は、これは法律上制限も何もないのでありますから、御勝手に受胎を避けるということについての知識をもつて、これを實施なさることについては、政府はこれに何らの干渉もいたしませんが、政府は進んでこういうようにすれば子供を産まない、こういうようにすれば妊娠しないというようなことを進んでは言わない。こういうように考えているということを申し上げるのであります。あなたのおつしやるように、それらの知識を國民に普及せしめ、自由自在にこれを調節するということは、これができるならば私は必ずしも反對はいたしませんが、政府は法律をもつてこれを指導するということについては、ただいまの程度においては考えていない。そのことと、出産した乳幼兒の死亡率ということについては、なるほど一連の關係はある。たくさんの子供がむやみやたらに生れる、生れることによつて、食生活その他について保護の十分行き屆かぬ、それがために乳幼兒の死亡率が高くなるということはありましようけれども、私の立場としては、できた乳幼兒に對しては、どこまでもこれを發育させて、りつぱに健全に育つようにいたしたい、こういうことを考えて、これが兒童福祉法に盛られたということは、あなたが御承知の通り、しかしあなたが説明するように、こうすれば妊娠しない、こうすれば身持ちにならないということを、今積極的に取上げて指導するということは、考えていない、こういうつもりであります。
098 加藤シヅエ
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○加藤(シ)委員 厚生大臣の御答辯は、まで私にとりましては十分に納得ができるものではないのでございます。それはなぜかと申しますと、乳幼兒の死亡率を下げるために、あるいは母體保護のために、今日の耐乏生活の中にある日本の多くの歸人たち、及びその夫たちが、その産兒調節の知識をもつと徹底的に普及してくれということは、もう輿論として非常に高まつておるのでございます。從つてこれを普及いたそうといたしましても、何分にもいろいろの道具とか、あるいは藥品とかが必要になつてまいります。それがみんな統制を受けております關係上、實際に指導いたそうと思えば、どうしても國家的な見地からなる指導機關というもの、そうしてその指導機關が統制を受けているその器具、あるは藥品等をどんどん廉價で、しかもよい品物をつくつて必要な人たちに與えて保護するというようなところまで一歩前進していただきたい。これを私は希望いたしまして、私の質問を終ります。
099 一松定吉
○一松國務大臣 今あなたの例にお引きになりました受胎の調節をすることについての器具だとか、藥品だとかいうようなものにつきましては、これは有害なものは私の方としては十分に取締らなければなりません。でございますから、こういう藥品を使つてはいけない、こういう器具を使つてはいけないということにつきまして、それぞれその業者に對しても嚴重なる取締りをいたしておるということは、これは事實でありますが、政府が直接にこういうような藥を飲めば妊娠しない、こういうような道具を使えばこういう結果を生ずるのだということをするについては、政府は今そこまで考えておらないということであります。
 さつきの優生法の問題についてお答えをすることを忘れておりましたが、承りますと、あなたなり福田さんなりが、ああいうような法律案をお出しになつておるということは聽きました。それはいずれ私の手もとにまいりますれば、十分に檢討して、御贊成するところのものは御贊成し、御贊成のできないようなところは、腹藏なき意見を述べる、こういう考えを實はもつておりますが、十分にそれらの點について御研究の上、政府の納得するように、それらのことがもつともだということになりますれば、喜んで贊成いたしますが、しかしその點はまだいかぬと思うようなことには、これは反對しなければなりません。今あらかじめそういう法案が通れば協力して實施に努力するとか、豫算をどうするとかいうことは考えておりませんが、さいわいに國會を經ましてそれが法律ということになりますれば、もちろん喜んでその法案を十分に運用するだけの豫算は、大藏省に交渉してとるということは、これはもう當然であります。

第1回国会 衆議院 厚生委員会 第35号 昭和22年12月1日

033 加藤シヅエ
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加藤シヅエ君 この優生保護法案は、他の多くの法案と違いまして、議員提出であるということ非常に意義があると存じます。
 御承知のように、戰爭中に國民優生法という法律が出ました。これは名は優生法と申しておりますけれども、その法案の律案の精神は、軍國主義的な、生めよ殖やせよの精神によつてできた法律であることは、御承知の通りであります。そうしてその手續が非常に煩雜で、實際には悪質の遺傳防止の目的を達することが、ほとんどできないでいるということは、この國民優生法ができてから今日まで、實際どのくらいの人がこの法律を利用したかという報告を見ますと、よくわかることでございます。また現行法の國民優生法は、むしろ出産を強要することを目的といたしておりますために、實際に出産が適當でない人が、出産を逃れるようないろいろの醫學的な處置を醫師に求めることを不可能にする結果、國民殊に妊娠、出産をいたさなくてはならない婦人たちが、非常に苦しんでおるという現状でございます。殊に現行法の國民優生法は、その第十六條においては、斷種手術竝びに妊娠中絶の届出制ということをいたしておりますので、斷種を受けるべき者、あるいは妊娠中絶の處置を醫師に受ける當然の理由があると思われる者でも、その醫學的な適應症が、非常に煩雑な届けを必要とすることになつておりますので、その結果非常に婦人たちは苦しんでおるというのが現状でございます。そこで私どもはこの法案を提出いたしまして、その目的は第一章の總則に書いてある簡單な條項がすべてを説明しております。すなわち第一條に、「この法律は、母體の生命健康を保護し、且つ、不良なる孫の出産を妨ぎ、以て文化國家建設に寄與することを目的とする。」と申しておりますが、これはこの法案すべてを説明しておると私は思つております。元來今までも母體の生命、健康を保護するとか、あるいは不良な子孫の出生を防ぐというようなことは廣く言われておつたのでございます。けれども實際の母體の保護の方法をどういうふうにするか、あるいは不良な子孫の出生を防ぐ方法はどうするかということになると、非常な消極的な方法のみを選んでおつたのでございます。今日世界の醫學は非常に進歩しておりまして、衞生の見地からは、すベて事が起つてからそれを處置するというやり方は、非常に舊式なことになつておりまして、今日は生命の健康を保護するためには、むしろ豫防醫學の見地から處置をしなければならないというのが、文化國家の諸外國においてやつておるところでございます。豫防醫學の知識を採用するということになると、わが國の醫學界の現状は、今日非常にこれに立後れておるということは事實でございます。從いまして私どもは、あくまでもこの豫防醫學を全面的に採用して、母體を保護し、優良な子孫を生みたいということを主張いたすものでございます。竝びに私はこの法案において、母體の保護と優良な子孫を生みたいということを目的とするとは申しておりますけれども、事柄が斷種の手術というようなことに及んでおりますし、あるいは妊娠の中絶というようなことにもなつておりますし、また現在の日本の法律は、受胎を未然に防ぐところの、いわゆる産兒の調節ということについては、法をもつてこれを禁止するということは何らいたしておりませんけれども、この法案の中においては、こういう受胎を未然に防ぐところの處置は、醫師のみがこれを指導するということを、特に明記いたしております關係上、この優生保護法案は、産兒調節の趣旨をもつた法案であるというふうに世間で見られております。その結果はこれが必然的に日本の人口の問題と、多くの關連をもつて考えられることは當然でございます。しかし提案者といたしましては、この優生保護法がすぐに日本の將来の人口を減らすものとか、あるいは殖やすものとかいうような結論を下すことは、決してできないと信じております。ただあくまでも今日敗戰の日本の實情として、この狭い國土の中に人口が過剩であるということは、だれしも認めておる事實でございます。從つて日本の人口の問題を考慮いたしますときに、多くのヨーロツパあるいはアメリカの民主主義國家が、文化國家の建前として、人口の問題に對してどのような考え方をもつて對處しているかということを見ますときに、その國々は人口の問題に對しては一定の計畫性をもつことは絶對に必要である。非文化國家においては生み、殖えようと、あるいは自然に減退しようと、何ら計畫性というものをもつておりません。けれどもいやしくも文化の發達しております國々においては、一つの計畫性というものを考えております。この意味においてこの優生保護法案は、日本の將來の人口に對しての一種の計畫性を與える文化國家の建前を、日本に備える一つの方法ともなると信じておるものでございます。しかし私どもは、特にこの法案を審議していただきますときには、人口問題との結びつきよりは、むしろ如實に迫つております母體の生命保護、母體の健康増進と、生れてくる幼兒の優良なるベきものを求めるというその點に重點を置いて御審議あらんことを希望いたすものでございます。私は先だつて豫算委員會の席上において、やはりこの問題に關連した質問を厚生大臣にいたしました。今日の實際の私ども日本の婦人の生活の現状といたしまして、食糧は決して足りてはおりません。殊に住居の問題においては、まだ四百萬世帶近いものが、住む家がないという實情でございます。たといまた家のあるものとしても、さいわいに屋根の下に住んでおるとはいえ、四疊半あるいは六疊というような狭い部屋に、二家族あるいは三世帶という多くの家族が雜居いたしておるという實情でございます。しかも燃料も非常に不足いたし、纎維製品もほとんど見るべき配給もないというような實情でございます。このような状態におきまして婦人が妊娠し、出産し、そうして育兒をしなければならないというのに、はたして今日の多くの状態が、これらの妊娠、出産に適當な條件が備わつておるかどうかということを考えますときに、私は多くの婦人たちが聲を上げて、今日子供を生みたくない。でき得るならばもう少し何とか住居の問題、燃料の問題、食糧の問題等に餘裕ができてから、愛するわが子を生みたいというのが、今日の婦人の聲であると信じております。こういう今日のわが國の現状に即應しまして、この法案を御審議願いたいと存ずる次第でございます。
 なおこの法案には、非常に醫學的に關連をもつた事柄が多いので、私と同じ提案者であるところの太田典體、福田昌子、この兩醫學博士は、醫學的な見地より、なお十分に御審議にあたつては皆さま方の御質問に答える用意がございますので、その點をお含みくださいまして、今日よい子供を生みたい、愛する子供には十分な條件のものに子供を生んで、りつぱに育てたいと考えておりますところの多くの母親たちの聲として、この法案が生れておりますということを御考慮に置きまして、どうか御審議御贊成あらんことを、提案者の一人としてお願いいたす次第でございます。