リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

人工妊娠中絶の地域格差に関する研究

私が女性学vol.28で批判した調査報告書

厚生労働省科学研究成果データベースに以下の通り掲載されています。

201312002A
研究年度:
平成25(2013)年度
総括/総合:
総括
人工妊娠中絶の地域格差に関する研究
研究代表者(所属機関): 池田 智明(三重大学 大学院医学系研究科 臨床医学系講座 産科婦人科学)

私の論文では分担研究報告の内容を精査しています。
以下の2つのファイルが該当します。
201312002A0001.pdf
201312002A0002.pdf


私の論文のタイトル:「日本の中絶の安全性は確認されたのか――日本産婦人科医会の医師らによる中絶実態調査報告の見直し」

経緯を少しまとめておきます。

 2010年、金沢大学の打出喜義医師の科研プロジェクトで、「医師を対象とした人工妊娠中絶の医療実態調査」が行われ、私も研究協力者として調査に加わった。この調査は日本の中絶でどのような方法が使われているのかを調べた初のものであり、その結果、妊娠12週未満の初期中絶の8割で搔爬法が用いられていることが判明した。私たちは2011年に学会で調査結果を発表し、2012年にその調査結果について、「日本の中絶、母体に重い負担 WHOが勧める方法、1割」という見出しをつけて朝日新聞が取り上げた。するとその直後に医会の医師たちは自前で調査を行い、その結果として、「搔爬が多用されていても日本の中絶は安全」と報告したのである。
 ところがこの調査報告書を精査したところ、その調査方法には数々の問題があることが判明した。まず、医会のトップが関与して日本の中絶の安全性への疑念を晴らすために行う調査だと挨拶文に明記することで、事故が過少報告される方向に誘導していた。また、日本の中絶は安全だというイメージを読み手に与えるために、アメリカの中絶は合併症が非常に多いとして挙げていたデータが、実は中絶が合法化された直後の1970年代の統計から取ったものだった。まだ中絶に慣れていない医師たちが手術に失敗する例が多かった時期のものだったのである。
 また、統計的な正確さを要しない「患者への説明」文に書かれたアバウトな数値を「中絶10万件につき」と置き換えることで、いかにも正当な統計値であるかのように見せかけていたり、合併症が普通より多く出るような海外の研究のデータと比較していたり、合併症のリスクは1000件につき4件未満と書いてあるところを10万件につき400件発生していると断言する形で書いたりと、海外の合併症のリスクが不当に高いように見せかける操作が各所で行われていたのである。
 しかも、吸引を用いた方が搔爬を用いた場合よりも合併症率が低いことは明らかであったのに、強引に「問題ない」とまとめることで改善の可能性を頭から否定していたのである。詳しくは日本女性学会誌28号(2021)の論文「日本の中絶の安全性は確認されたのか―日本産婦人科医会の医師らによる中絶実態調査報告の見直し」を参照して頂きたい。

概要:
 2012年に日本産婦人科医会の医師たちは日本の中絶方法と合併症率に関する調査を行いました。その結果、医師たちは搔爬が多用されている日本の実態を明らかにし、搔爬より吸引法の方が合併症の発生率が高いことを認めていながら、「日本の中絶医療の安全性には大きな問題はない 」と結論づけています。私の論文は、なぜ医師たちがこのような結論に至ったのか、またその結論は妥当なのかについて考察したものです。
 医師たちの報告書を詳細に検討した結果、比較データの選択、比較の方法、引用の方法が不適切かつ異常であることが判明しました。恣意的に選択したデータに基づいて結論を出しており、とても合理的とは言い難いのです。単なる不注意や偶然の一致と思われるミスもありますが、「日本の中絶は安全」と思わせる方向にすべてが操作されているため、意図的なものと思われます。
さらに、アンケート調査への協力依頼を分析したところ、日本の中絶の安全性を証明したいという強い意志も見受けられました。吸引法は搔爬より安全であると言いながら、搔爬多用の日本の中絶の安全性には大きな問題はないと結論しているこの研究は、元々日本での中絶は安全であると結論づけることを目的にしていたように思われます。実際、そうした結論を示す英語論文も発表されています。
この研究報告には、医会会員の共通の利害が報告者に影響を与えた可能性が高いと思われます。搔爬の使用が引き続き容認されることを支持する証拠はほとんどなく、この報告書の結論は恣意的なものと言わざるをえません。