日本産婦人科医会のサイトより
母体保護法第2条第2項では、人工妊娠中絶を次のように規定している。
この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその付属物を母体外に排出することをいう。なお、胎児付属物とは胎盤、卵膜、暖帯、羊水のことである。
この胎児が母体外において生命を保続できない時期、すなわち胎児が生存の可能性がない時期の判断に関しては、母体保護法第14条に基づいて指定された医師(指定医師)によって個々の事例について行われるものであるが、当初は、昭和28年6月の厚生事務次官通知「優生保護法の施行について」をもってその時期の基準は、通常妊娠8月未満とされてきたのである。
ここにおける生命の保続すなわち、生存の可能性とは、出産時の生死のことではなく、その予後のことである。
しかし、医学の進歩にともない、未熟児保育の医学的水準等も向上してきており、また指定医師は、その医学水準に基づいて生命の保続の時期についての判断を行っているところである。このような現状に鑑み、厚生省では関連団体等の意見を聴取し、厚生事務次官通知をもって当時の優生保護法により人工妊娠中絶を実施することのできる時期を昭和51年1月には「通常満24週未満」に、さらに平成3年1月からは「通常満22週未満」に改めた。
優生保護法第2条第2項の「胎児が、母体外において生命を保続することのできない時期」の基準は、通常妊娠満22週未満であること。この時期の判断は、個々の事例について優生保護法第14条に基づいて指定された医師によって行われるものであること。
(平成2年3月20日、厚生省発健医第55号、厚生事務次官通知)さらに、人工妊娠中絶を実施する時期の基準の変更に伴い、その円滑な実施を図るため出された保健医療局精神保健課長通知によると
1. 優生保護法第2条第2項の「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」の基準の変更は、最近における未熟児に対する医療水準の向上等により、妊娠満24週未満においても生育している事例がみられることにかんがみ行われたものであること。
2.事務次官通知により示している基準は、優生保護法第2条第2項の「胎児が、母体外において、生命を保続することができない時期」に関する医学的な観点からの基準であり、高度な医療施設において胎児が生育できる限界に基づいて定めたものであって、当該時期以降のすべての胎児が生育することを必ずしも意味しないものであること。
3.優生保護法により人工妊娠中絶を実施することができる時期の判定は、優生保護法第14条の規定に基づき都道府県の医師会が指定した医師が個々の事例において、医学的観点から客観的に判断するものであること
(平成2年3月20日、健医精発第12号)即ち、この基準はあくまで医学的な観点からの基準であり、一般医療レベルでの可能性をとりあげているものではない。中絶を実施できる時期は、個々に指定医が医学的観点から客観的に「胎児が母体外において生命を保続できない」と判断する時期であり、その判定は、専門家である指定医に委ねられ、指定医の裁量権が強調されている。指定医の責任は重く、その判断は明確な医学的理由があげられ、他医も納得するような客観的な判断でなくてはならない。