リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

女子差別撤廃条約実施状況第9回報告(女子差別撤廃委員会からの事前質問票への回答)(仮訳)

2021年9月付でCEDAWに提出された報告

女子差別撤廃条約実施状況第9回報告

以下、「健康」の中で中絶に関して回答した部分。

問 20
 委員会に寄せられた情報によると、締約国の刑法は、中絶を犯罪化しており、一方、母体保護法の下では、人工中絶の際に配偶者の同意を必要としている。前回の委員会の勧告(パラ 39(a)及び(b))に沿ってこれらの規定を改正するために締約国が講じようとしている措置について情報を提供されたい。
 女性の安全な中絶へのアクセスと利用可能性を増加させるために講じられた措置について報告されたい。
 安全な中絶方法に関する科学的に正しい情報を、中絶を必要とする女性に提供するための締約国の取組を示されたい。委員会の前回の勧告(パラ 39)に沿って、女性及び女児の自殺を防止することを目指した、目標と指標を含む包括的な計画の採用のために、締約国によって行われた取組に関する情報を提供されたい。
 自殺問題に対処するために導入されたその他の措置とそれによって生じた結果に関し、データと統計とともに詳述されたい。

(答)
51 母体保護法においては、人工妊娠中絶には原則として配偶者の同意を必要としているが、以下の場合は本人の同意だけで人工妊娠中絶が可能である。
(1)配偶者が知れないときやその意思を表示することができないとき。
(2)妊娠後に配偶者がなくなったとき。


 「配偶者が知れないとき」には事実上所在不明の場合も含まれ、また、「その意思を表示することができないとき」には事実上その意思を表示することができない場合も含まれる。
 母体保護法は、「暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」のみならず、「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」の要件を満たした場合には、適法に人工妊娠中絶を行うことができる。この場合には刑法の堕胎罪は成立しない。また、強制性交の加害者の同意を求める趣旨ではないことや、妊婦が配偶者暴力被害を受けているなど、婚姻関係が実質破綻しており、人工妊娠中絶について配偶者の同意を得ることが困難な場合は、本人の同意だけで足りる場合に該当することについて、解釈を明確化し、関係機関に周知を行っている。


52 母体保護法は、人工妊娠中絶を実施することができる医師を、「都道府県の医師会が指定する医師」としている。医師会は、申請に対する審査及び2年ごとの資格審査による更新を行っている。


 第5次基本計画は、以下のことを定めている。
(1)性犯罪・性暴力やDVが背景にある場合に関係機関の連携が重要であること。
(2)性や妊娠に関し、助産師などの相談支援体制を強化すること。

53 第5次基本計画は、予期せぬ妊娠に関する悩みに対し、女性健康支援センターにおいて専門相談員を配置する等、相談体制を強化し、市町村及び医療機関への同行支援や、学校及び地域の関係機関と連携することを定めている。妊娠・出産、その後の子育て、または、人工妊娠中絶の悩みを抱える者に対して、訪問指導等の母子保健事業を活用した相談支援のほか、女性健康支援センター及び児童相談所での相談援助を行っている。


54 自殺対策基本法に基づき、「自殺総合対策大綱」を定め、包括的な取組を進めている。社会全体の自殺リスクを低下させるため、自殺を考えている者に対する電話相談や SNS 相談等の相談体制を拡充している。また、様々な困難を抱えた若年女性を支援するため、2018 年度に「若年被害女性等支援モデル事業」を創設し、公的機関及び民間団体が密接に連携して、夜間の見回り・声掛けなどアウトリーチ支援や居場所の確保、相談対応及び自立支援を実施している。

 データについては別添資料 10 のとおり。

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別添資料10


なお、前回の委員会の最終見解は以下の通り。

第7回及び第8回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解
健康
……
38.委員会は、締約国の十代の女児や女性の間で人工妊娠中絶及び自殺の比率が高いことを懸念する。委員会は、特に以下について懸念する。
(a) 刑法第 212 条と合わせ読まれる「母体保護法」第 14 条の下で、女性が人工妊娠中絶を受けることができるのは妊娠の継続又は分娩が母体の身体的健康を著しく害するおそれがある場合及び暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠した場合に限られること、
(b) 女性が人工妊娠中絶を受けるためには配偶者の同意を得る必要があること、並びに
(c) 締約国の女性や女児の間では自殺死亡率が依然高い水準にあること。


39.女性と健康に関する一般勧告第 24 号(1999 年)と「北京宣言及び行動綱領」に沿い、委員会は、締約国が以下を行うよう勧告する。
(a) 刑法及び母体保護法を改正し、妊婦の生命及び/又は健康にとって危険な場合だけでなく、被害者に対する暴行若しくは脅迫又は被害者の抵抗の有無に関わりなく、強姦、近親姦及び胎児の深刻な機能障害の全ての場合において人工妊娠中絶の合法化を確保するとともに、他の全ての場合の人工妊娠中絶を処罰の対象から外すこと
(b) 母体保護法を改正し、人工妊娠中絶を受ける妊婦が配偶者の同意を必要とする要件を除外するとともに、人工妊娠中絶が胎児の深刻な機能障害を理由とする場合は、妊婦から自由意思と情報に基づいた同意を確実に得ること、及び
(c) 女性や女児の自殺防止を目的として明確な目標と指標を定めた包括的な計画を策定すること。