リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

1970年代:優生保護法から経済条項をなくそうとした保守系議員たちの答弁

本音が見え隠れするやり取り

「労働力確保」のために「中絶を減らしたい」、「生命尊重」や「胎児生命の尊重」を連発して「中絶は悪いものという意識を国民に広げたい」という本音が各所に覗いている。

第63回国会 参議院 予算委員会 第5号 昭和45年3月23日

136 白井勇
○白井勇君 同じようなことでありまするが、労働大臣に、労働力の確保の面から見まして、まあこれは申し上げるまでもなしに、労働人口というのは増加が減って年間百万を割っておると、こういうまことに憂慮すべき事態になり、いろいろ労働省とされましては、労働力の流動化でありまするとか職業訓練でありまするとか機械化でありまするとか、たいへんな御努力をなすっていらっしゃるようでありまするが、やつ。はり問題は人そのものがふえなきゃならない事態であろうかと思いまするが、先ほど来話のありまする優生保護法というものの運用におきましてあまりにもルーズであるというような面がこの労働力確保上からどういう影響を与えておりまするものか、その点を承りたいと思います。


137 野原正勝
国務大臣野原正勝君) お答えいたします。
 日本の今日の経済成長、繁栄のもとは、たくさんの国民の人たちが非常な勤勉努力の結果であります。したがいまして、労働力が存在をし、これが十分に活用される限りにおいては、日本の経済の発展は今後も力強く進んでいくことは期待できるのでございますが、しかし、最近におきましては、労働力がだんだん不足を来たしまして、この問題に対しましては、いまのところまだ十分に活用の余地がございます。また同時に、ある程度むだづかいもございます。こうした問題につきまして、われわれは労働力の活用をはかり、あるいは新しい開発の方法を講じまして、労働力を十分に確保していこうという体制を進めておりますけれども、将来にわたって考えまするというと、御指摘のような日本の人口資源が非常に減少していくという傾向、まことにこれは寒心にたえない次第でございます。したがいまして、長期的展望から見るならば、やはり日本の人口がどんどん減っていくというような現象は、これは将来の日本経済の成長発展に障害になる事態がくるであろうと、そういう点で、これは直接のお答えになるかどうかわかりませんが、優生保護法なり、人口問題につきましては、真剣に考えていく必要があろうかと考えております。


138 白井勇
○白井勇君 これに関連いたしまして、厚生大臣のお考えを承りたいと思うんでありますが、たしか二十三年にあの法律が制定されたと思いまするが、二十四年、二十七年と議員修正に相なりまして、経済事情というようなものが入ってまいり、しかも従来でありまするならば、民生委員の承認を要し、したがって審査会も必要であったというようなことすらも二十七年の改正によって削除をされたと私は記憶をいたしておりまするが、こういう姿で、はたしてこの優生保護法というものが目的といたしまするような姿で運営されるようなかっこうになるものであるか、ただ労働力確保というような問題だけじゃなしに、これは人間尊重、人命を何よりも大事にしなきゃならない、こういう観点からいたしましても、この優生保護法というものを何らかのかっこうで是正をする必要があるように私たちは思うのでありまするが、この点につきまして所管大臣でありまする厚生大臣のお考えをお聞きをいたしたいと思います。


139 内田常雄
国務大臣(内田常雄君) 優生保護法は、ただいま白井先生からお話がありましたように、終戦後間もない昭和二十三年の議員立法でございます。それから、同じく昭和二十四年、七年にこれまたお示しのような議員修正による改正によりまして、手術の手続の簡素化が行なわれたまま今日に至っておりまして、その間、社会経済情勢のかなりの私は変化もあると考えるものでございますが、最近各方面にこれに対する再検討の動きもございますので、厚生省におきましても現年度——昭和四十四年度の予算で現在中絶についての実態調査をいたしまして、集計中でございます。また、一方、総理府にもお願いをいたしまして、既婚婦人につきましてこの課題についての世論調査を取りまとめ中でございますが、これも近くまとまるはずでございますので、これらの結果をも参照いたし、またこれが先ほど申しますように、国会立法、国会修正の経緯もございますので、国会方面における動きなども十分見きわめまして対処をいたしてまいりたい所存でございます。


140 白井勇
○白井勇君 最後に、このことにつきまして総理のお考えも承っておきたいと思いまするが、最近の日本の人口の増加率というものが非常に低調になってきた、このままでまいりまするというと、ある説によりまするというと、もう三百年もたちますというと日本人というものはこの地球から消えてしまうのじゃないかと、こういうような見方もあり、一方、日本というものは堕胎天国であるというような外人の悪評すらもある姿であります。これは、人間尊重を第一に考えていらっしゃいまする総理とされますれば、これはもちろん許すべきものでない、こうお考えになっていらっしゃると思いまするが、いま厚生大臣がおっしゃいますとおり、いろいろ検討いたしまして対策を講ぜられるようなお話でございまするが、なお、この点につきまして総理のお考えを承っておきたいと思います。


141 佐藤榮作
国務大臣佐藤榮作君) 生命、これは大事にしなければいかぬというそれは生まれて後も、もう胎児のときから大事にするというその考えでなければならないと思います。私自身は別に宗教家ではございませんが、しかしこれ、やはりその生命を大事にするというそれがすべての基本ではないだろうかと、かように思っております。そういう意味で、堕胎天国というこれは、まことに残念な言われ方だとかように思いますので、こういうことのないようにはしたいものだと思っております。まあ国内の問題、性——セックスの問題、それの乱れがただいまあらゆる方面に悪影響を及ぼしている、これが指摘できるのじゃないだろうか、かように思いますので、この性道徳を守るという、そこに基幹が一つあるだろう、これはとりもなおさず生命を大事にするという、命を大事にするという人間尊重、その理念からこれは当然守られなければならぬことではないか。かように私は思っております。まあ労働人口がどうだとか、あるいは日本人がいなくなるのじゃないかとか等々の御指摘よりも、いまの問題がわれわれ生活の基幹になる、基本だと、かように考えて、これは重要視すべき問題だと、かように私考えております。


第68回国会 参議院 予算委員会 第4号 昭和47年4月4日

170 斎藤昇
国務大臣(斎藤昇君) 優生保護法の問題は、玉置委員のおっしゃるのは、おそらく、その中の人工中絶の問題であろうと、かように考えます。二年前に、厚生省が実態調査をやり、その直前に内閣でも世論調査をやっていただきました。その結果を見ますると、達観をいたしますると、いわゆる人工中絶というものに対する考え方は、まあ一般的に言って、人命の尊重、胎児を人工的に中絶することは悪であるという意識が非常に薄いと、国民全体的に薄いという感じでございます。これは、優生保護法の中に、人工中絶の道を認めたわけでありますが、その実際は、範囲を逸脱して行なわれている事実もあるし、そしてさらに一つは、やはり自分たちの生活を豊かにしたい、子供を育てるよりも、精神的あるいは物的な面をあれしたいという、ちょうど日本の経済成長が始まったころからの一般の風潮がしからしめたという点もあるであろうと思いますが、いずれにいたしましても、この人命尊重という面を、これをもっと徹底させなければならないと。ことに優生保護法の中で、経済的な理由で母体の健康が維持できたいときには中絶してもよろしいという規定がございますが、今日社会福祉が叫ばれ、そして児童福祉、その他も、まああるいは生活の保護の面も相当整ってまいりました。これで完全とは言えませんけれども、しかし経済的理由で人工中絶してもよろしいという、そういう考え方自身は、やはり生命尊重に反する考え方に通ずるものと、かように考えます。したがいまして、こういう点をぜひ是正しなければならない。
 同時に、人工中絶をどうしてもやったほうがいいという面もございます。たとえば、妊娠中にいろいろな医学的な問題から、奇形児が生まれるであろう、重症の心身障害児が生まれるおそれがあるというような場合には、これは、生命の尊重とは言いながら、そういう方々は一生不幸になられるわけでありますから、こういう場合には、新しく人工中絶を認める必要があるのではないか。さらに、優生保護法の中で、家族計画、いわゆる妊娠調節の規定が——規定というか、これをもっと普及をするようにという規定がございます。そういった家族計画を健全にやっていく。ことに、第一子の子供は、これは非常に大事な子供であるというようなことを強調し、妊娠中絶、人工中絶をやらないで、家族計画によって、そして理想的な家庭を持つという方向に進めていくというような方向に、ぜひ改正する必要がある、かように考えまして、ただいま関係方面と折衝中でございます。したがって、この折衝が済みましたら、できればこの国会にぜひ提案をいたしまして、皆さんの御審議の上、ぜひ通過をお願いをしたいと、かように考えて、その調整を急いでいるわけでございます。


171 玉置和郎
○玉置和郎君 いま厚生大臣から、るるお話がありまして、この妊娠中絶に関する優生保護の一部改正、これが近く政府提案の形で出されるということ、まことにうれしい限りでございます。
 そこで、総理にお伺いをいたします。さきのこの委員会で、私もちょうどここで聞いておりましたが、総理は、本問題を単なる人口問題だとか、若年労働者の確保だとかという形でとらえることは、これは間違っておると、何としても政治の根本は、生命の尊重だと、こういう観点からとらえるべきだというお話がありまして、私たち深い感銘を受けたものであります。そうして、言うばっかりでなしに、みずから水子の供養の先頭にお立ちになりまして、秩父の山奥まで、御夫妻そろってお出かけになっておられます真剣な総理の、そうした生命尊重という態度に対して満腔の敬意を払っておりまするが、この問題について再度御見解を承っておきたいと思うのでありますが、よろしくお願い申し上げます。


172 佐藤榮作
国務大臣佐藤榮作君) 先ほど来の御意見、お尋ねの中にも、これ、やはり関連するのじゃないかと思います。最近の乱れ、セックスの問題、ことに生命尊重、これがどうもそのままことばどおりに守られていない。そういうところにも堕落があり、やはり社会秩序の破壊もあり、いろいろの犯罪にもつながると、こういうように指摘ができるのではないかと思っております。ただ、先ほども厚生大臣が申しましたが、優生保護、まあそういうほうからこの問題に取り組む、そういう方もあります。しかし、私は、ただいま御指摘になりますように、もっと生命の尊厳、それは胎児のうちから、まあ片一方で胎教ということばがあります。胎児の間から教育をする、その感じを持ってその胎児を大事にするところにやはり将来性があるのだと、生まれた子供もしあわせになれるのだと、こういってやはり胎教というものを盛んに唱えておる人もあります。私は、一面で、わが国が堕胎天国だという、そういうたいへん忌まわしい、また耳にする、口にするすらたいへんいやなことばを言われております。これは、先ほど来の優生医学というか、そういう意味からも、乱用されているんじゃないかと、こういうことがあってはならないように思います。私は、子供を労働の観点から、労働充実から、それを大事にしろとか、そういうのではございません。ただいま申し上げますように、社会秩序の乱れ、そこらにやはり関連があるんではないかと、さように考えるがゆえに、やはり胎教ということを大事に考える。まあ、そういうことを考えると、いわゆる家族計画、これなぞはあまり功利的に考えるべきもんじゃないと実は思っております。でありますから、一応理論的には合うようだが、これはもっと、自然の授かりものとして、われわれが大事にしていくと、こういうことが必要ではないだろうかと、かように思っております。
 たいへん堕胎あるいは中絶という、まあ、いわゆるそういう不幸な方々を祭りたいという、水子供養をしたいという、そういう奇特な方がありまして、それがただいま御指摘になりましたように、秩父の奥に水子地蔵尊を建立すると、私のところにも相談に見えましたので、私も、生命は大事にすべきだと、また、こういうところに大事にする、しがいのある仕事だと、かように実は思って、わずかながら力をかしておると、こういうことであります。私は、いまの問題も、すべてをそこに結びつけることは、これも行き過ぎでございますけれども、どうも最近の諸悪の根源の一つに、ただいま言われるような点がある。これは何としても悪を除く、こういう意味で取り組むべき筋のものだ、かように私は思っておる次第でございます。