リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

1952年のアメリカの違法の中絶料金 現代の日本の合法的中絶料金

当然違法の堕胎だったわけだけど……

「スリーウイミン~この壁が話せたら」という1996年のアメリカのTVドラマでデミ・ムーア演じる看護婦のクレアが告げられた「プエルトリコの女性が提供している清潔な中絶」は飛行機代込で1000ドル、もっと安い「堕胎師」の料金は400ドル。


Inflation Calculatorを使って、それぞれ今のお金に換算すると10,520ドルと4,208ドルになる。1ドル=115円で計算すると、前者は120万円、後者は48万円くらいになる。1950年代のアメリカの看護師の賃金は、A look back at nurses in 1950 – Heart Sistersによると、「卒業後、当時の看護師の給料は月平均140ドルだったが、病院によっては90ドルというところもあった」という。つまり当時の1000ドルは、平均的な看護師にとって給料7か月分以上になる金額であり、400ドルは給料3か月分くらいだった。違法の中絶は高額になる傾向があるとはいえ、いかに法外な値段設定だったかがわかる。


一方、日本では1951年の”合法の”中絶料金は日帰り1000円、一泊2000円だったと言われる。当時の大卒(エリート)の国家公務員初任給は4000~5000円だった。つまり安くて月給の4分の1か5分の1、高ければ半額程度が吹っ飛ぶ価格だった。


現代の中絶料金は安くても10万円などと言われるが、実際には都会では妊娠初期で20万円くらいのところも少なくない。現在の大卒の国家公務員初任給は17~18万円から高くても20万円少々。となると初任給を半分以上か、場合によってはまるごと費やしてもまだ足りない人も出てくるような価格だ。この70年間に、実質、値上がりしていることになる。


2021年のGuttmacher研究所の報告によれば、保険がきかない場合の2014年の中絶の費用は、薬でも外科処置でも変わりなく平均500ドル強だったという。以下、メディケイドとは低所得者に対する補助のこと、ハイド・アメンドとは中絶費用を連邦資金で賄ってはならないとする憲法修正条項のことだ。

 保険が適用されない中絶にかかる費用は相当なものです。2014年、妊娠10週目の中絶にかかる費用の平均は、手術であれ薬であれ、500ドルをわずかに超える程度でした。さらに、交通費や保育料、宿泊費などの医療費以外の追加費用を自己負担しなければならないこともよくあります。
 ハイド・アメンドの要件を遵守している州のメディケイド対象者の中で、収入が高い方の場合、妊娠10週目の中絶費用を支払うと、月々の家族の収入の3分の1近くが必要になります。妊娠20週目に中絶すると、月収の90%近くが必要になります。(これらの州、またはコロンビア特別区の3人家族のメディケイドの平均月収上限は1,566ドル10セント)。
 多くの個人や家族は、500ドル以上の緊急出費に対応できません。2016年の全国代表調査で、米国の成人に400ドルの緊急出費の支払い方法を尋ねたところ、回答者の40%以上が「お金が見つからない」「お金を借りるか何かを売ることでしか予想外の出費をカバーできない」と答えています。成人の4分の1が、前年に高額な費用のために医療を受けられなかったと回答しています。
 2011年に米国の6つの州で行われた調査では、妊娠中絶患者の41%が、治療費の支払いがやや困難または非常に困難であると回答しています。

つまり、500ドル(57,500円)は低所得者にとっては高すぎるとしているのだ。カナダでも500カナダドル(45,000円)は高すぎるという記述を見たことがある。他の記事で書いたが、日本同様に基本的に中絶に保険が適用されない唯一のOECD諸国であるオーストリアの中絶費は39,000円程度からであり、日本よりはるかに安い。どうみても日本の合法的な中絶料金は高すぎるのだ。