リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ミネルバクリニック 全国中絶クリニックなび|妊娠初期・中期中絶実施病院費用週数など詳細比較|都道府県別

仲田洋美先生が信念をもって開いているサイトです

偶然、検索で見つけて驚きました。電話調査で各都道府県の中絶可能な施設の料金や条件等を調べてまとめているサイトです。以下のような経緯で始められたようで、現在は東京から関東近郊まで調査が進んでいるようです。

NIPT(新型出生前診断)を提供している東京都・港区北青山にあるミネルバクリニックです。
出生前診断の先にあるのは生命の選択、つまり妊娠中絶です。

以前は患者さんから中絶クリニックを紹介してほしいと言われても、自分の気持ちの中で抵抗が強くて案内していませんでいた。

でも。陽性になって辛い時、自分で一生懸命探さないといけないのも辛すぎるっていうかんがえに変わりました。

某大学病院でNIPT陽性で、その大学病院ではなくて自力で探して中期中絶したことがある妊婦さんに、このページの企画を言ったら泣いてしまいました。その大学病院で出産するわけではなかったので、検査だけの人には陽性になっても何もしてくれなかったそうです。(認定施設は妊婦を路頭に迷わせてないなんて大嘘です)
このページができるだけで泣いちゃうような辛い気持ちを理解できなくてごめんなさい、と素直に反省しました。

全国の妊娠中絶を行っているクリニック・病院を、妊娠初期は何週まで可能か、中期中絶を取り扱っているか、費用はなどの詳細を比較した表を都道府県別に作りました。実際のページには都道府県をクリックしてお進みください。

minerva-clinic.or.jp

仲田先生とお話ししました。相当な信念と覚悟をもって取り組んでらっしゃるようにお見受けしました。こうした案内があることで、どれだけの女性が救われることでしょう。ぜひ活用してください。

学習会等での二次利用の許可をお願いしたところ、快く承諾してくださり、元データをいただくことができました。

分析した結果、分かったことを以下簡単にまとめます。

妊娠初期中絶の料金
 得られた情報をもとに各施設での最も安い価格を算出しました。調査対象161施設(病院と医院を区別しません)のうち中絶を実施していないと答えたのが11施設、残り150施設のうち初期中絶の料金を開示していたのは123施設です。この123施設の最少料金は学生割引による5万5000円~様々なオプションのついた40万円までと大きな幅がありました。初期中絶の最少料金の平均料金は14万9134円、中央値は14万3000円でした。
 一方、同じ初期中絶でも段階的に異なる料金を示していた114施設の最大料金は、8万2000円~45万3000円でした。最大料金の平均は17万2953円、中央値は16万4500円でした。
 5万円単位で最少料金をグラフにまとめた。

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ミネルバ・クリニック調査

 これを見ると最少料金でも10~15万円が過半数、10~20万円までで8割を占めていることがわかります。


 初期中絶の最少料金と最大料金の分布をグラフに示します。

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東京都の初期中絶料金の分布(ミネルバクリニック電話調査の結果)

最少料金13万円台から16万円台で56%を占めています。最大料金は13万円~17万円で55%を占めています。「従来の中絶手術10万円程度」は、少なくとも東京については当てはまらないようです。


妊娠中期中絶の料金
 一方、中期中絶を行っていると答えたのは150施設中26施設(17%)にとどまり、うち料金を開示していたのは20施設(13%)だけでした。最少料金17万7000円~最大料金175万8500円とこちらも非常に大きな幅がありました。出産育児一時金を差し引いた料金を提示していたところもありましたが、一時金に関する回答がないケースがほとんどを占めていたため、一時金を差し引かない料金とみなして比較しました(40万4000円を差し引いて示されていた料金は、一時金の分を足して計算しました)。「中期中絶」または「12週以上の中絶」として提示されていた最少料金の平均は48万981円、中央値は42万7500円でした。これによると、出産育児一時金40万4000円で収まるのは20施設中7施設のみです。週数やオプションの追加で料金が変化する11施設の最大料金の平均は78万9921円で、中央値は72万5000円でした。この場合、出産育児一時金を使っても、30万円以上の出費になることがわかります。中期中絶についてはデータが少ないため、各施設の最少料金と最大料金(変化する場合)を並べたグラフにしました。

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施設毎の中期中絶の最少料金と最大料金 東京都(ミネルバクリニック電話調査の結果)


なお、いくつかの施設の回答はホームページと食い違っていました。

たとえば、ある病院は12週未満の中絶料金は、電話調査では「143,000円~」となっていますが、ホームページで確認すると初回診察(初診料+検査代)¥27,370、手術当日(手術代+薬剤他)¥176,000、術後診察(再診料+検査代+膣洗浄)¥7,710で、総支払額(税込)は約¥210,000となっています。また、「※初回診察の検査内容は、採血、超音波、レントゲン、尿検査などになります。」「※手術当日の費用は自費の薬剤(処置代や点滴代)などが含まれます。」と、細目がわからない表示になっています。


同様に、12週以上の中絶料金は電話調査では「275,000円~」となっていますが、ホームページで確認すると妊娠15週までで初回診察(初診料+検査代)¥27,370、手術当日(手術代+薬剤他)¥16,200(★420,200円-404,000円)、術後診察(再診料+検査代+膣洗浄)¥7,710で、総支払額(税込)は約¥51,000となっています。本来の「手術代と薬剤他」で420,200円と設定した金額より、健康保険組合から病院に支払われている出産育児一時金を差し引いた料金を示しているわけです。この「420,200円」のうちの内訳である「手術代」が275,000円なのかもしれませんが、そうだとすると電話調査では「薬剤他」の料金は答えていないことになります。また、「~15週 約51,000円」「~19週 約¥106,000」「~21週 約¥161,000」と段階的に料金が上がっていくことについても、電話調査の回答からはわかりません。

さらにこの料金設定は、まさに「格安中絶ビジネス」の典型になっています。初期中絶は21万円払わないと受けられないのに、妊娠12週を超えたとたんに負担額が5万に減るため、患者は中期に誘導されます。一方の病院は、21万円の代わりに5万1000円+出産育児一時金40万4000円=45万5000円が入ることになるのです。しかし、妊娠初期と中期の中絶では方法が全く異なり、中期の方がはるかにリスクが高まるのです。経済的に中期中絶に誘導するようなこの価格設定は、医学倫理に真っ向から反しています。


さらに、実はこのように下限の料金のみを答えたり、細目を示さずにまとめた金額だけを提示したりすることは医療広告ガイドラインにも反しています。

医療広告ガイドラインでは次のような注意もしています。

 自由診療保険診療として実施されるものとは異なり、その内容や費用が医療機関ごとに大きく異なり得るため、その内容を明確化し、料金等に関するトラブルを防止する観点から、当該医療機関で実施している治療等を紹介する場合には、治療等の名称や最低限の治療内容・費用だけを紹介することにより国民や患者を誤認させ不当に誘引すべきではなく、通常必要とされる治療内容、標準的な費用、治療期間及び回数を掲載し、国民や患者に対して適切かつ十分な情報を分かりやすく提供すること。標準的な費用が明確でない場合には、通常必要とされる治療の最低金額から最高金額(発生頻度の高い追加費用を含む。)までの範囲を示すなどして可能な限り分かりやすく示すこと。
 また、当該情報の掲載場所については、患者等にとって分かりやすいよう十分に配慮し、例えば、リンクを張った先のページへ掲載したり、利点や長所に関する情報と比べて極端に小さな文字で掲載したりといった形式を採用しないこと。


上記の事例では、ホームページと電話調査の両方で下限のみの提示をしており、ホームページでは細目のわからない合算をしており、リンクを貼った先への誘導も行っているという問題があるうえ、電話調査では実際に払う金額の一部のみを回答しているという問題もはらんでいます。

具体的な書き方について、以下が簡便にまとめています。
medicalinnovation.co.jp

次のような表現にするのが好ましいです。

費用:○○円
あるいは
費用:○○円~○○円(最低金額と最高金額)

「○○円~」や「○○円以上」といった表示は利用しやすいものの、正しい情報が利用者に伝わりづらいこともあり、より明確な数値となる下限と上限の費用を表示する必要があります。もちろん総額で○○円と表示し、細かい内容についても併せて反映させることができるのであれば、標準的な費用についてより細かい数値を利用者に伝えることができるため、医療広告ガイドラインの趣旨に沿った表現となります。

全国中絶クリニックなびのようなまとめサイトができたことで、消費者が選択するための情報は大いに増えたわけで、これは歓迎すべきことです。しかし、多くの医療機関が料金を明らかにしておらず、上記の例にあるように、現状を誤解させるような回答も見られることから、医療機関のサイトの説明と見比べたり、自分自身でじかに問い合わせてチェックする必要はまだありそうです。

ミネルバ・クリニックの調査でも、多くの医療機関が答えたがらなかったり、受診しない限り料金は教えないとしたり、また初診料そのものも非常に大きく異なることが明らかになりました。本来、このような調査は国が行い、公明正大な広告が行われるよう指導すべきではないのでしょうか。