リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

(社説)女性と中絶 心身の負担軽減を急げ

朝日新聞デジタル連載社説記事:2022年3月9日 5時00分

写真:人工妊娠中絶に用いられる飲み薬として海外で流通しているミフェプリストン(MF)とミソプロストール(ML)=製薬会社ラインファーマ提供


 子どもを産むか産まないかを決め、中絶する場合はその方法を選択して、心身の安全を図る――。長い年月をかけて国際社会が議論を重ね、確立した女性の基本的な権利である。

 根底にあるのは94年に国連の会議で提唱された「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という考え方だ。「性と生殖に関する健康/権利」と訳される。

 はたして日本の女性は、この権利を十全に保障されているといえるか。国際女性デー(3月8日)を機にあらためて点検すると、さまざまな点で立ち遅れや不備が目につく。見直しを急がなければならない。

 人工妊娠中絶の届け出は20年に約14万5千件あった。これだけ多くの女性が受ける医療行為であるにもかかわらず、外科手術以外の選択肢はなく、しかも広く実施されているのは、胎児を包む胎嚢(たいのう)などを器具でかきだす「掻爬(そうは)法」だ。

 世界保健機関(WHO)はこれを「廃れた手法」と批判し、代わりに子宮内の内容物を吸い出す「真空吸引法」を推奨している。同じく安全で効果的とされるのが妊娠中絶薬だ。海外では80年代から服用され、すでに80カ国以上が承認。薬は1千円前後で販売されている。

 日本でもようやく昨年末に、英国の製薬会社が厚生労働省に製造・販売を申請した。政府は迅速な審査とあわせ、必要とする女性に薬が確実に届く環境を整える必要がある。

 いま中絶手術ができるのは指定された医師・施設だけで、費用も10万~20万円かかる。中絶薬を処方する医師を同様に厳しく制限したり、価格を高額に設定したりしたら、住む場所や経済状況によってアクセスを阻まれる女性が多数出かねない。

 もちろん薬である以上、100%安全とはいえない。飲むとどんな影響やリスクがあるか、情報をしっかり開示し、共有する仕組みづくりも不可欠だ。

 是正が必要と思われる事項はほかにもある。

 たとえば、母体保護法は中絶には配偶者やパートナーの同意が必要だと定めている。こうしたルールがあるのは中東など約10の国・地域しかない。これでは女性の権利は全うされないとして、国連の女子差別撤廃委員会は6年前、同意要件を除外するとともに、人工妊娠中絶を刑事罰の対象としないよう日本政府に勧告した。

 望まない妊娠はだれにでも起こり得る。産む決断、中絶する決断、いずれの道をとっても、女性のからだと心に重い負担がのしかかる。女性の自己決定権を尊重し、かつその負担を少しでも軽くすることをめざして、歩を進めるべきだ。