リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

妊娠を他者に知られたくない女性に対する海外の法・制度が各国の社会に生じた効果に関する調査研究 報告書

令和元年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業  シード・プランニング 令和 2 年(2020 年)3 月

妊娠を他者に知られたくない女性に対する海外の法・制度が各国の社会に生じた効果に関する調査研究 報告書

主に匿名出産について調べたものだが、特にフランスについては詳しかったので、該当箇所を抜き出してみた。他に、各国の中絶法比較の部分を表から引用した。

 フランスでは女性の任意による中絶(IVG:interruption volontaire de la grossesse)が認められており、費用も無料である。IVG の場合、女性は成人でも未成年者でも、本人の意思のみで中絶を行うことができる(子の父や女性の親権者の同意はなくてもよい)。身元を明かしたくない場合には、匿名で IVG を実施することも可能である。日本とフランスで、図表Ⅵ-12 のように妊娠期間の数え方が異なる点は注意を要するが、フランスの法律上、IVG は妊娠 12 週(12SG、日本の数え方では妊娠 13 週)の終わりまで実施することが可能である。中絶の方法としては、薬剤的手法による中絶と外科的手法による中絶がある。薬剤的手法による中絶の場合、実施可能なのは妊娠 5 週目(5SG、日本の妊娠 6 週目)の終わりまでで、薬を処方できるのは医師または助産師である。妊娠6 週目(6SG、日本の妊娠 7 週目)~12 週目(12SG、日本の妊娠 13 週目)の終わりまでは、外科的手法による中絶のみが実施可能であり、処置を行えるのは医師のみである。薬剤的手法による中絶は、医療機関だけでなく、CPEF でも実施している。
 また、医学的な理由による中絶(IMG)も存在する。IMG の場合には、実施可能期間の定めはない。IMG を実施するのは、妊娠の継続が母体の健康に重大な危険を生じさせるか、胎児に著しく重大かつ診断時には不治である疾患の可能性が高い場合に限られ、2 名の医師の診断が必要である。IMGを実施できるのは医師のみである。
 中絶を実施する機関には必ずパートナー間アドバイザーを置くことが法律で義務づけられており、中絶を実施している婦人科のある病院には CPEF が置かれている場合が多い。CPEF が併設されていない婦人科医でも、女性に迷いがありそうな場合は、提携しているパートナー間アドバイザーや心理士を紹介することになっている。中絶をすることは女性の権利として認められているが、中絶実施機関が中絶の希望を受けた場合には、中絶を希望するに至るまでの状況について詳しく聞き、背後に暴力がないか、何か問題を抱えていないかを明らかにするようにしている。また、公衆衛生法にも定められている通り109、中絶を実施する際には、必ず避妊についての情報提供が行われている。「中絶」も「避妊」と同様に、それを希望する女性の背景に暴力がないかを探ることで、女性を支援に結び付けるための入り口として機能している。
 なお、妊娠を否認している女性は中絶可能期間を過ぎてから妊娠に気付くことが多いため、中絶という選択肢を選ぶことはできないという現実がある、と ONPE は述べている。

中絶の条件

アメリカ:
〇人工妊娠中絶は常に政治における主要な論争の対象であり、保守的な風土を持つ州も多い
〇条件は州法により異なるが、妊娠週数の規制は以下
・「胎児が母体外生存可能性を備えた後」(通常、妊娠 24~28 週)を禁止:計 18 州(カリフォルニア州等)
・妊娠 25 週以降を禁止:計 1 州(バージニア州
・妊娠 20~24 週以降を禁止:計 24 州(テキサス州等)
・胎児が母体外生存可能性を備える前の人工妊娠中絶を禁止する法を制定したが、裁判所から差止め:計 8 州(ルイ
ジアナ州等)

イギリス
○原則として禁止
○妊娠 24 週目までは、2 名の医師の同意があれば、母親の救命のため、母親の肉体的又は精神的健康を守るため、胎児異常又は社会的若しくは経済的理由により、中絶が可能
○母親の生活や健康が深刻に脅かされている場合、又は胎児異常の重大なリスクがある場合は、期間に制限なし

韓国
○原則として禁止
母子保健法において、特定の遺伝的障がいや母子感染疾患の可能性があることや、近親間や性被害による妊娠などに限り、堕胎罪に当たらない例外として認められる

ドイツ
○原則として禁止
〇妊婦が中絶の3日前までに妊娠葛藤相談所の助言を受けている場合は、妊娠 14 週まで中絶が可能
〇妊婦の生命に対する危険又は身体・精神上の重い障害の危険を避けるために必要な場合、強姦による妊娠の場合は、妊娠葛藤相談を経ずに中絶が可能

フランス
☆「自由意志による中絶」は妊娠 12 週(日本の数え方では妊娠 13 週)の終わりまで
☆医学的理由による妊娠中絶(2 名の医師により、「女性の健康に重大な危険を生じさせる」又は「生まれてくる子どもに著しく重大かつ診断時において治癒不可能な疾患の可能性が高い」と認められた場合)は期間に制限なし