リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

1961年の事件:大阪市東淀川区のどぶ川に胎児の遺棄死体が五十二体か発見された

第38回国会 参議院 内閣委員会 第24号 昭和36年5月9日

126 吉江勝保
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○委員長(吉江勝保君) これより内閣委員会を再開いたします。
 先刻に引き続き、厚生省設置法の一部を改正する法律案の質疑を行ないます。
 御質疑のおありの方は、順次御発言願います。
127 山本伊三郎
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○山本伊三郎君 それでは理事打合会の精神にのっとりまして、簡単にやりたいと思います。御安心願いたいと思います。
 実は、これは緊急の問題でございますから、それだけは一つぜひやりたいと思いまして、実は質問の時間をとってもらったのでありますが、これは厚生大臣も、また、環境衛生部長も御存じだと思うのですが、去る四月三十日に、大阪で実は胎児の遺棄問題が起こっておるのは御存じだと思います。これは非常に大きい社会問題だと思うのですが、詳細は御存じだと思いますが、三十日の白昼、大阪市東淀川区のどぶ川に胎児の遺棄死体が五十二体か発見された、こういうことなんです。現在の法律ではこれはどうもできないというのです。四カ月以内の胎児であれば、これはもう法的手続を要らずに遺棄しておった。しかし、これは一応やはり埋葬、火葬か、そういう手続をしなければいかぬのですが、慈悦協会ですか、これは手数料を取ってどぶ川に遺棄しておった、こういうことなんです。これについて厚生省はどういう考えでおられるか、もうこれはこのままでいいのかどうか、こういう点について厚生省の御意見を聞いておきたい、かように思って質問した次第であります。
128 古井喜實
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国務大臣(古井喜實君) お話の大阪の事件は、人道上容易ならぬ問題であるわけでありますが、やはりあの種のことは道義上の問題で済むか、あるいは刑事上の問題にまで考えなければならぬか、やはりその辺のことも検討しなければならぬ問題だろうと思うのであります。きょうの法律のことでは、お話のようなことになるのでありますが、私どもとしましては、法律を改正して刑事的な犯罪とするかは、ちょっと所管の関係で、何とも立場、権限の関係で申せませんが、ああいう事実が起こりました原因につきましては、いろいろな複雑なものがあるかと思いますし、私どもの方の関係もないとは言えませんので、その辺はああいうことが起こらないように、原因の点に対してよく検討してみたいものだ、こういう考え方でいるわけであります。
129 山本伊三郎
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○山本伊三郎君 これはたまたまこういう大量の胎児遺棄があったので問題になったと思うのですが、今日、戦後優生保護法その他人工調節という国策もあるかと思いますが、堕胎というものが公然とやられるようになったということから起こってきておると思う。これは人道上の問題もありますが、付近の迷惑はこの上ないのですね。しかも、遺棄したのは五十二体であったが、自分の家に八十何体とかいうものをそのまま家の中に置いておって、もう付近は臭気ぷんぷんとしておった、こういうことが言われておるのです。これは私は発見されたから問題になったが、これは全国どこでもあることだと思うのです。従って、これに対して私は検討すると言われましたが、厚生省は今までこういう点について考えられたかどうか、この点をはっきり聞いておきたいと思う。これが起こったから検討するのか、今までこういう問題について厚生省として考えておったかどうか、全然知らなかったかどうか、この点を一つ聞いておきたいと思います。
130 古井喜實
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国務大臣(古井喜實君) 優生保護法とか妊娠中絶という道がありますことが乱用されてああいうことが起こるわけにもなったようなことがあるかしらぬと思うのです。そこに私どもの関係もあると思いますが、われわれもああいうことがありかねないことのようには思っておるのでありますが、ああまで大量にああいうことをやる者があるというふうには、正直なところ、私どももそこまでには思っていなかったのでありまして、こういうこともあるということは、今度の事件を見て驚いてしまった状況であります。
131 山本伊三郎
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○山本伊三郎君 驚いておられることは驚いておられると思いますが、これは実際問題として、五カ月以上であれば、これは普通のいわゆる死産児として正当な手続をとらなければいかぬのですが、五カ月以上のものが大半であったと、検事の調べによるとそう言われておるのです。従って、現在法律的な措置が全然とられておらないのですが、私が聞きたいと思うのは、法律上の措置がない限りは、今後こういう問題は尽きないと思う。各都道府県あるいは市町村の条例によってこれを処理しておるのですね。そういうことで、私は道義上の問題にしても捨ておけないと思うのですが、厚生大臣としては、この問題が起こってからでも、そういった何らかの措置をとらなければならぬという考えを持たれておるかどうか、この点を聞きたいと思うのですが、その点どうですか。
132 古井喜實
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国務大臣(古井喜實君) こういうことがそっちでもこっちでも起こるというようなことでありますれば、ひとり厚生省という関係でなしに、これは関係の方面とも十分協議をして対策を考えなければならぬと思うのでありますが、これは関係方面の意見もあるかもしれませんし、問題として考えたいというところでおるわけであります。
133 山本伊三郎
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○山本伊三郎君 どうも古井厚生大臣はだいぶ疲れられたと思いますが、何か精気のない答弁なんですが、僕はちょっと意外に思っておるんですが、これは優生保護とか、あるいはその他の法律、厚生省関係のいわゆる優生政策また人口調整政策ということから私は派生的に起こってきている問題だと思う。私は人口調整するということも、日本の現状からもこれはわかると思うのですが、一方、こういうものが出てくるということについては、社会悪であるかどうか、こういうことがやはり真剣に検討されなくちゃならぬと思うのです。そういう点について今の答弁を聞くと、各関係省ともいろいろまた相談もしなくちゃならぬ、いういうことですが、どうも私らが受けておる感じより真剣さが私はないんじゃないか、こういう気持がするんです。これはもう三カ月か四カ月すると一人前の人間として人権を保有する人格者になるんです。三カ月か四カ月か足らないということで、くずのごとく捨てられてしまっておるんです。こういう問題は、厚生当局として、この事件が起きる前に私はあったと思うのですが、もう少し積極的に真剣に私は取り組んでもらいたいと思う。私は、今後こういう問題が大きく出てくると思いますが、結局四カ月未満は人間じゃないんだ、おりものである、従って、これはもう清掃関係の始末をしておればいいんだということで処理するのは、私は少し人間性がないんじゃないかと思うんですが、その点について厚生省としては検討されておると思うんですが、何らかの措置を考えなくちゃならぬかどうか、積極的な意見を私は期待しておった。検討するということであれば、だれでも言うことなんです。そういうことでしておられないと思うのです。きょうはあなたがきわめて冷淡な答弁でよろしい。しかし、将来この問題は私は大きい問題になってくると思うのです。現在もう堕胎はほとんどこれはもう常習のようにやられているといいますけれども、これがどれだけ社会悪に影響してくるかということも考えなくちゃならぬと思うのですが、その点についてもう一回厚生大臣に、疲れておられるけれども、一つ張りのある答弁を願いたいと思います。
134 古井喜實
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国務大臣(古井喜實君) つまり妊娠中絶の乱用だと思うのです。これは乱用が一方にあるという点が考えられる点でありますが、その点は私どもの方ででも、妊娠中絶の乱用ということは、これは戒めねばならぬことなんですかち、運用の上の問題として大きに考えなければならぬ、これは私どもの問題だと思います。それから社会道義に頼る以上に、あれに対して強力な措置といえば、犯罪行為として処罰をするとかという問題になると思うのです。これはさっきも申すように、私どもの方でこの問題を直接の関係の職責としては何とも申し上げかねるのでありますから、これは関係の方面と十分話をいたしまして対処するほかないと思うのであります。事柄は、まあけっこうなことですと言っているのではないので、どういう道があるかということを考えるとそういうことになるのじゃないか。犯罪行為にきめるというならば、やはり所管の責任のところと相談の上でないといたし方のない問題でありますので今のように申し上げた。好ましいことだとは毛頭思わぬので、なくしたいものだと思うのであります。
135 山本伊三郎
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○山本伊三郎君 私も時間を急いでおったので、十分質問の説明が足らなかったので、厚生大臣の今答弁でちょっとわかったのですが、なるほど妊娠中絶ということについてはいろいろ問題があります。それは行き過ぎのやつはいけないというが、私はそれもありますけれども、私は、これは優生政策上、また人口調整の上からにおいても、ある程度そういうこともこれはもう絶対いけないという考えではないのです。やはりそういうこともあり得ると思うのですが、あとの措置について、私は今何らの法的な措置がない、こう言うのです。人間の扱いをしておらないと、こう言うのです。要するに、四カ月以下のものは、これはもう婦人のおりものと同じような措置をされて始末をされている。しかも、それが手数料を取って遺棄されておるという、こういうものに対して私は何か考える必要があるんじゃないかと、こう言っておるのですね。これはまあ環境衛生にも影響する問題であるし、そういう点を私は言っておるのです。大阪の医務課長なんかは、法律の不備でやむを得ない、仕方ないということで手をつかねて、それに対して何ら施すすべもないような状態であるので、それじゃ私はいかぬと思う。私は、今日たまたま厚生大臣が見えたので、これについて何とかやはり方法ないものか、こういうことで私は質問しておるのであります。で、この堕胎した人が相当の手数料を出して、ある程度埋葬なりまた、この火葬場でやってもらおうと手数料を出しておるのです。で、それをやらずにどぶ川に遺棄しておる、こういうのですね。そういうことが許せないと私は考えておるのです。その点についてはどう思われるか、これだけなんです。それさえ解明されたら、私これで質問終わるのです。
136 古井喜實
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国務大臣(古井喜實君) いわば死体遺棄罪と同じようにそういう場合は扱ったらよいじゃないかというお話じゃないのでありますか。それじゃ御質問の、何か方法がありそうなもんだとおっしゃるけれども、こういうことをなぜ考えないんだという点が実はつかみがねておるわけです。これは四カ月未満の場合は非常に問題になってくる、法的にですね。そこの、じゃこれを死体遺棄と同じように扱えばそれだけのものでありますね、犯罪にしてしまえば、そのほかに、もっと研究すれば方法があるかもしれませんけれども、端的に言えばそういう問題になるのじゃなかろうか。それならばやはり刑法的な問題になってくるのでありますから、やはり法務省とかとともども検討しませんと、こっちだけの考えでどうということは言いかねるというのでさきのように申し上げたのです。こういうことが好ましいどころじゃない、何とかなくしたいということはまことにその通りに思うのでありまして、方法論について検討をしなければならぬ、したいものだということを申し上げておるわけであります。
137 一松定吉
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○一松定吉君 私は、今の山本君の質問はごもっともだ、実は、さすが山本君だと感心しておるのです。実はあの新聞の記事を見て、私は自分が専門家としてほんとうは驚いたのです。堕胎ということは刑法において禁じている。ああいうように五カ月や六カ月の胎児が八十、百も一体あるなんというようなことそれ自体が非常なこれは違法です。御承知の通り堕胎は刑法の二百十二条以下二百十六条で明らかに禁じておる。ただ堕胎することのできるのは、懐胎した婦女がそのままに胎児を生み落とすということになれば母体に影響がある、それがためにこのままに生み落とせないという医師の診断があった後にその者がいわゆるこれを堕胎することができるということが今の特別法に規定されておる。しかるに、それは今ではほとんど乱用されておるでしょう。乱用されておるということは、刑法の堕胎罪というものを全く乱用しておることになる。これはほんとうに人身保護の建前からいたしましても、厚生省は進んでこれを一つ取り締らなければならぬ。そうして懐胎をしておる婦女がこのままにこれを生むということになれば、この婦女の生命に危険があるというおそれのあるときに限って堕胎することができる。その堕胎されたいわゆる胎児というものを始末する、その始末の仕方が、今春りようなふうに、八十も百もその胎児の死体というものがまとめられて、そうしてこれが川に流されるか焼かれるか知らないが、そういうようなものはやはり人身を保護し、人の生命というものを尊重するという建前から、かりに胎児であっても、人間のもとをなすものであるがゆえに、そのものをおろそかに扱うということは、これ人道に反するのだという建前から、厚生省に限らず、とにかく政府としてそういう点を立法して、法務省あたりと相談をしてやるということが私は必要だと思うが、いかがですか。それは最も大切なことであって、山本君一人が心配するばかりではありません。われわれいやしくも国民であって、自分の胎児というものを大切にしなければならぬものだということを知っている以上は、そういう点に確かに気づかなければならない。しかるに、今はどうかというと、妊娠しておる女が子供を生めば母体が影響するということ以上に、いわゆる私通した婦女の間において、姦通した婦女の間において、人道に反して男女通じて懐胎したというものが多く、そういうふうな意味において、母体に影響があるとかというようないいかげんなことをいって、また、医者がそういう名前をつけてこれを堕胎するという傾向が非常に多いのです。そういうことをやはり取り締まらなければならない。だからして、不義の女がその結果懐妊する、あるいは結婚しない男女が野合して、それがために妊娠するとかというようなものを、いろいろな名前をつけてこれを堕胎するとかというようなことは、これは法律として禁じなければなりません。そこが刑法の堕胎罪というものと、今の婦女の生命に影響のあるときには、医者の判定によってこれを堕胎することができるというこの法律とが互いに衝突しておる、私をして言わしめれば。これは一つの厚生省の問題だけではなくて、厚生省並びに法務省各方面で研究して、これは必ず一つ立法する必要があると私は痛切に感じておりますから、この点について一つ厚生大臣の御意見を承ります。
138 古井喜實
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国務大臣(古井喜實君) 一松先生のお尋ねで、きわめて問題点は明析でございます。先ほども申しましたように、妊娠中絶をやる動機にはいろいろあると思う。動機には間違った動機、やはりいろいろな場合があると思うのです。これは一般の道義心の問題であり、教育の問題であるかも知れぬと思いますが、ただ法で許された場合でなしに妊娠中絶をやるということはお医者がやる場合でありますれば、お医者をまあわれわれが、監督というか、指導という立場上、そういう乱用を起こさぬようにわれわれは大いにまず考えなければならぬ。それから乱用した場合は、やはりこれは法の許さぬ場合になりましょうから、お話のように堕胎罪になる、乱用ですから堕胎罪ということになると思う。これは刑事問題になってしまうと思う。で、また四カ月未満とかいうふうなおろしたものの処置について、四カ月未満とかいう問題になれば、これは法の一つの穴のようなことになっていると思うのですから、立法問題であります。死体の遺棄というものに準じてこれを考えるということになれば、これは刑事の立法問題になると思うのであります。そこで、そういうわけで犯罪を構成するか、または新しくそういう刑事の立法をするかという問題になりますと、法務省ともどもの問題になりますので、で、こういう事実はまことに困ったもので、なくしたい事実でありますので、そういう関係の方面と十分打ち合わせをして検討をしたいと、まあこういう考え方でおるわけであります。
139 一松定吉
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○一松定吉君 今あなたの御意見でけっこうですが、ところが実際は、これは医者が乱用しているのです。だからして不義の胎児だとか、あるいは結婚しない男女間の胎児だとかというようなものが、みな医者のこの乱用権を乱用させてこういう結果を招来しておるということが非常に多いのですから、まあ厚生省としては、そういうことをする医者を一つ十分取り締まって、彼らはそういうようなことで堕胎することによってずいぶん驚くべき代金を取るのですよ。また、堕胎する婦女は相当の驚くべきほどの金を出して自分の不品行を隠蔽する、それが非常に多い。だからして医者を取り締まるということが一つと、それからいま一つは、いわゆる堕胎した胎児、四カ月なり五カ月なりたっておるその胎児を今のようなふうに一所のごみの中に捨てておいて、そうしてそれを一まとめにして川に流すとか焼くとかというようなことは、全く大切な人間として生まるべきもとなんですから、それはやはり相当にこれを尊敬して、墓地をこしらえて埋めるとか何とかというような手続をするということが私は必要だと思うから、そういうことは今大臣が仰せになるように、厚生省ばかりではありませんから、厚生省、法務省その他の関係方面と至急に御相談の上、これは次の国会に政府の提案として一つ立法措置をしてお出しになる、あなた方がお出しにならなければ、山本君なりわれわれが一つ一緒になって国会に議員提出法律案としてこれは出して公布する必要がある。こういうことが今まで全くほったらかされておったのですから、これはほんとうに私は山本君の質問に感激しているのですから、どうか一つこれは厚生省と法務省が相談をして、至急に一つ立法化するようにしてもらいたいということをお願いして、私の質問を終わります。